本記事は、土井英司氏の著書『人生で読んでおいた方がいいビジネス書75冊』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

企業
(画像=Monet / stock.adobe.com)

起業家精神
自分の人生を自分で切り拓く力

『SHOE DOG 靴にすべてを。世界最高のブランドナイキを創った男』

(フィル・ナイト 大田黒奉之・訳/東洋経済新報社)

アンジェラ・ダックワースの『やり抜く力GRIT』(ダイヤモンド社)が出されて以来、「グリット」という言葉がすっかり定着した感がありますが、このグリットを生み出すのは、じつは「起業家精神」ではないかと思います。

『SHOE DOG 靴にすべてを。世界最高のブランドナイキを創った男』

は、起業家たちが憧れる起業家であり、ナイキを創った男、フィル・ナイトの自伝です。

約束された未来を捨て、バカげたアイディアに賭けた彼の名前は、スタンフォード大学ビジネススクールの名前となり、そこから生まれた起業家たちの年商は、彼を凌ぐ数字となっています。

この本には、そんなフィル・ナイトと、彼とともにナイキを創った男たちの熱い物語が綴られています。

戦後間もない頃、かつての敵国・日本に乗り込み、靴ビジネスに着手するだけでも驚きですが、そこから誰もなし得なかった画期的新商品を次々と発表。前人未到の成長を成し遂げたところが、フィル・ナイトが尊敬される所以ゆえんでしょう。

もちろん、多くの起業物語がそうであるように、ナイキも順風満帆じゅんぷうまんぱんだったわけではありません。

パートナーのオニツカとの別れ、幾度も襲いかかる資金繰りの危機、2,500万ドルの請求、ナイキブランドを一緒に築き上げたアスリート、プリとの死別……。

多くの困難を乗り越え、最高の靴ブランド、ナイキが誕生したわけですが、この本にはそれを支えた起業家精神の断片がところどころに出てきます。

フィル・ナイト自身の言葉を見ていきましょう。


私は世界に足跡を残したかった
私は勝ちたかった。

いや、そうじゃない。とにかく負けたくなかったのだだがわかったのだ。世界は馬鹿げたアイディアでできているのだと。

歴史は馬鹿げたアイディアの連続なのだと。私が一番好きなもの、書物、スポーツ、民主主義、自由独立の精神はいずれも馬鹿げたアイディアから始まったのだ

まず飛び出して異国を見ないことには、世界に足跡を残せるわけがない。大きなレースに出場する前に、必ずそのトラックを歩いてみたくなるのと同じだ

他人のためになんて働きたくない。自分だけのもの、「これを作ったのは僕だ」と指さして言えるものを作りたい。自分の人生を有意義にする方法はそれしかないんだ

フィル・ナイトの起業家精神を感じさせる言葉ですが、以下には、なぜ起業家精神だけではダメなのかも書かれています。


ポートランドまでの帰りに、私は商売が突然軌道に乗った理由について考えた。百科事典は売れなかったし、軽蔑もしていた。ミューチュアルファンドの売り込みはまだマシだったが、内心では夢も希望もなかった。シューズの販売はなぜそれらと違ったのだろうか。セールスではなかったからだ。私は走ることを信じていた

フィル・ナイトも、マクドナルドのレイ・クロックやケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダース同様、起業前にさまざまな仕事を経験していますが、成功する起業家になるには、もう1つの要素が必要でした。

それが、愛するビジネスと出会うことなのです。

様々なエピソードからは、彼が靴に特別な思いを持っていたことが伺えますが、他にも彼は、こんなコメントを残しています。


人が1日に歩く歩数は平均7,500歩で、一生のうちでは2億7,400万歩となり、これは世界一周の距離に相当する。シュードッグはそうした世界一周の旅に関わりたいのだろう。彼らにとっては靴とは人とつながる手段であり、だからこそ彼らは人と世界の表面をつなぐ道具を作っているのだ

そして起業家になるには、当たり前ですが、勤めていた会社を辞めなくてはなりません。それがどんなにネームバリューの高い会社、給料の高い会社であっても、です。


私は器用に複数の仕事を掛け持ちしたことなどないし、今さらそんなことをする理由も見出せなかった。常に今を生きたいと思っていた。本当に重要な1つの仕事に集中したかった。仕事ばかりで遊びがない人生なら、仕事を遊びにしたかった。そのためにはプライス・ウォーターハウスを辞めるしかない。嫌いだからではなく、自分のいる場所ではなかったからだ。私が望むのはみんなと同じことだ。つまり、24時間本当の自分でいられることだ

アマゾンのジェフ・ベゾスは起業前、デヴィッド・ショーが経営するヘッジファンドで働いていましたが、1994年にインターネットが年率2,300%を超える速度で成長しているという統計を目にし、オンラインで小売をやるというアイデアを思いつきます。ヘッジファンドを辞めたいとデヴィッド・ショーに言うと、ニューヨークのセントラルパークを歩きながら、こう言われたそうです。


ジェフ、そうだな、すごくいいアイデアだと思う。いいアイデアには違いないがね、でも君のようにいい仕事に就いていない人なら、もっといいと思うよ(『Invent & Wander ジェフ・ベゾス』ウォルター・アイザックソン 関美和・訳/ダイヤモンド社 より)

筆者が大好きな本に、『ビジョナリーカンパニー2』(ジム・コリンズ 山岡洋一・訳/日経BP)がありますが、その本のなかにこんな言葉が出てきます。


良好グッド偉大グレートの敵である

つまり、人は良好(グッド)に甘んじてしまう生き物なのであり、ここに偉大(グレート)な人物が滅多めったに現れない理由があります。偉大(グレート)になるには、良好(グッド)を捨てる必要があるのです。

自分が本当に愛する対象に出会ったとき、起業家精神はあなたを真の起業家にします。そして「たけ」なんて言葉を吹き飛ばして、あなたを高みに引き上げるのです。

ぜひ、挑戦する人生にしてください。

人生で読んでおいた方がいいビジネス書75冊
土井英司
1974年生まれ。エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役。
メールマガジン『ビジネスブックマラソン』編集長。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。ゲーム会社、編集者・取材記者・ライターを経て、Amazon.co.jp立ち上げに参画。27歳で同社の社長賞にあたる「Company Award」を受賞。数々のベストセラーを仕掛け、「アマゾンのカリスマバイヤー」と呼ばれる。2004年、30歳で独立。国内160万部、世界1400万部を突破した『人生がときめく片づけの魔法』の近藤麻理恵氏をはじめ、多くの著者の出版プロデュースに携わる。
2004年7月に発行開始した日刊のメルマガ「ビジネスブックマラソン」は読者数5万3000人。著書に『「伝説の社員」になれ! 』(草思社文庫)など多数。これまでに読破したビジネス書は30,000冊を超え、日本随一のビジネス書の目利きとして知られる。(数字は2023年12月現在)

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