本記事は、菊地 温以氏の著書『最強のポートフォリオをつくる金投資入門』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
ほかの資産運用にない金の魅力は?
金は、経済が不安定なときにこそ、その真価を発揮する「安全資産(セーフヘブン)」として広く知られています。株式や債券が市場の変動に左右されるなかでも、金はその価値を維持しやすく、資産の避難先として多くの人々に認識されています。
では、金に対するこのような信頼や安心はどこから来るのでしょうか。たしかに、歴史的に金の価値が上昇し続けていることが、投資家に強い信頼を与えていますが、その根底には、金自体の特性とその持つ独自の魅力が大きく関係しています。
金の魅力の1つは、ほかの多くの資産とは異なり、価値が特定の国や地域に依存しないことです。たとえば、株式や債券は発行元の国の経済状況や政策に大きく左右されます。経済が安定している国の資産であっても、政権交代や金融政策の変化、国際的な緊張の高まりによって、その価値が大きく揺らぐ可能性があります。
一方で、金は「無国籍資産」として、こうした国や地域特有のリスクからある程度独立しています。金の価値は、どの国でも基本的に共通して認められ、世界中で通用します。つまり、どの国の通貨が価値を下げても、金はその影響を受けにくいのです。
さらに、金は世界中の市場で広く取引されているため、どの国に住んでいても、その価値をほかの通貨や商品に容易に交換できます。たとえば、ある国で経済危機が発生し、その国の資産価値が急落した場合でも、金を保有していれば、他地域での価値を保ったまま取引できるのです。
金のもう1つの大きな魅力は、その「高い流動性」にあります。流動性とは、資産を現金に変換する容易さのことです。金には非常に高い流動性があるため、必要なときに即座に現金化できます。
たとえば、不動産や一部の株式は、市場状況や売却条件によってはすぐに売却できない場合があります。とくに不動産は、買い手が見つからないことも多く、売却に時間や手間がかかることが一般的です。株式でも、企業の業績悪化や市場全体の不安定さによって、希望する価格で売却できない場合があります。
これに対して、金は世界中で広く取引されており、買い手を見つけるのが非常に容易です。国際的な市場でつねに需要があり、価格もリアルタイムで決定されるため、どの国でも迅速に売買できます。たとえば、日本やアメリカ、そのほかの国に住んでいても、金を売却する場所や機会に困ることはありません。
さらに、金は少額から取引できるため、資金が必要なときに必要なぶんだけ売却できます。この柔軟性があるからこそ、金は急な現金需要にも対応できる頼りになる資産なのです。たとえば、突発的な支出が発生した場合や、絶好の投資機会を逃したくないときに、手元の金をすぐに現金化して対応できます。
金は、古代から現代に至るまでその価値を保ち続けてきた特別な資産です。その大きな理由の一つが、金の「希少性」です。地球上に存在する金の量は限られており、この希少性が金の価値を支える重要な要素となっています。
まず、金の供給量は非常に限られています。金は地中から採掘される鉱物であり、その埋蔵量は限られています。また新たに採掘される量も年々減少しています。さらに、採掘には多大な労力とコストがかかるため、新しい金の供給はつねに制約を受けており、この限られた供給量が金の価値を支える基盤となっているのです。
また、金は腐食しにくく、時が経ってもその輝きを失わないという特性を持っています。これが、時折「永遠に輝く」と表現されるゆえんです。年月を経てもその物理的特性から価値が損なわれることがないため、何千年にもわたって人類は金を財産として認識してきました。古代エジプトやローマ帝国の時代から、金は権力や富の象徴として用いられ、その価値は時代や文化を超えて継承されてきたのです。
さらに、金には文化的・地理的にも普遍的な価値があります。世界中の多くの文化や地域で、金は価値のあるものとして認識され、通貨や貴金属として取引されてきました。たとえ国や経済が変わっても、金の価値は失われることがなく、いつの時代も、どこでも「価値のあるもの」として受け入れられています。これは、ほかの資産にはない金のユニークな特性です。
金は「安全資産」とはどういうこと?
金は、古代から現代に至るまで、長い歴史を通じて「安全資産」として広く認識されてきました。このように呼ばれる背景には、金が時代を超えて価値を維持し、安定した資産としての地位を確立していることがあります。とくに、経済的な混乱や政治的な不安が高まる状況において、金は投資家にとって頼りになる選択肢となります。経済危機や政情不安が発生すると、ほかの資産の価値が大きく変動することがありますが、金はそのようなリスクから比較的守られているとみなされ、投資家はリスクを回避するために金を購入する傾向が強まります。
たとえば、世界的な地政学的緊張が高まった際、金の需要は急激に増加することがあります。これは、地域紛争や国際的な対立が資産市場に不安をもたらし、株式市場や通貨の価値が不安定になる一方で、金が安全な避難先としての役割を果たすからです。こうした状況では、金の需要が増加するだけでなく、その価格も上昇する傾向があります。実際、歴史的にも大きな政治的・経済的危機の際に金の価格が高騰する例は数多く見られます。
それでは、なぜ金は安全資産として注目されることが多いのでしょうか。それは金が多岐にわたる特性、とりわけその信頼を集める魅力的な特徴を持つ資産だからです。
代表的な点では、金は歴史的にその価値が安定している資産です。数千年にわたって、金は世界中で通貨や宝飾品として用いられてきましたが、その価値はほとんど失われることなく現在に至っています。これにより、長期的に価値を保持する資産として信頼されています。
さらに、金はインフレに対する耐性を持っています。インフレが進行すると、一般的には紙幣や通貨の価値が下落する傾向がありますが、金はその影響を受けにくいとされています。インフレ環境下では、金の価値が上昇することが多く、投資家にとっては資産価値を維持・増加させる手段として有効です。
くわえて、金は金融システムから独立している点も重要です。金融市場や銀行システムが不安定になった場合でも、金はその影響を直接的には受けにくく、安全資産としての地位を維持します。とくに、金融危機の際には、金への需要が急激に高まることがよく知られています。
中央銀行もまた、金に対して高い信頼を寄せています。多くの国の中央銀行は、外貨準備の一部として金を保有しており、これは金が安定した価値を持つことへの信頼を示しています。中央銀行が金を保有することは、金の国際的な信用をさらに高める要因ともなっています。
すでにご説明したとおり、金は経済的・地政学的リスクに対して優れた対応能力を持ち、さらに流動性が高いという特徴もあります。このような唯一無二の特性により、金は経済的・政治的な不確実性が高まる状況において、投資家にとってきわめて信頼性の高い「価値保存手段」として機能し続けているのです。
高校卒業後、中華料理人からエンジニアと異色のキャリアを積み、2000年に中央電力(現レジル)に入社。
後に取締役就任。2008年からは複数の企業を立ち上げ、M&Aを多く手掛ける。2019年にアプレをMBO後、特に金やプラチナの精錬、製造、再利用プロセスを高度化し、サステナビリティの視点からも金リサイクルの可能性拡大に尽力。
会社経営の傍ら投資家としても活動し、金を活用した独自のポートフォリオ戦略を確立している。
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