(写真=PIXTA)
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「中国製品が国民の高い質の生活ニーズを満たすことができていない」――。12月4日、兪正声・人民政治協商会議主席が「爆買い」について言及した。至極まっとうな内容だったのだが、同氏は中国共産党員8779万3000人(2014年末)のトップ「チャイナ7」と呼ばれる7人の政治局常務委員の一人で、序列は真ん中の4位である。ついに最高幹部間でも言葉の端にのぼるようになった「爆買い」。中国側の事情から探ってみよう。

衰えない消費意欲

国家統計局発表の2015年1月~11月までの累計社会消費品小売総額は、27兆2296億元で前年同期比+10.6%だった。株式バブルの崩壊した6月~7月でも+10.6%、+10.5%と年平均値を維持しており、直接の影響は見られない。伸び率の高い商品類は、通信機材+33.0%、建築及び建築材料+18.5%、文化事務用品+16.0%、家具+16.0%、飲料類+15.1%などである。

逆に低いのは、石油及び石油製品-7.0%、自動車+5.0%、金銀宝石+6.9%といった項目だ。そのうちネット通販は3兆4526億元と全体の12.7%を占め、伸び率は+34.5%だった。

日本爆買いツアー定番品の項目は、化粧品+9.2%、日用品+11.9%、医薬品+14.5%となっている。とくに一定の傾向は見られないが、車や金銀宝石からIT関連や文化用品など、生活を彩る身の回り品の高品質化に重心が移っている、とは指摘できそうだ。

中国製品の品質管理は一進一退

中国製品の品質向上に対する取り組みはどうなっているのだろうか。命に関わる食料品のケースを見てみよう。沿海部の某大都市では、数年前から食品・医薬品110番を設置して、市民からの情報、通報を受付けている。

違反摘発につながる通報も多く、成果は上がっているようだ。市内バスの側面広告にも「中国・向上、衛生都市建設○○市」と掲げPRに余念がない。同市の食品・医薬品局では、四半期ごとに店頭抜き取り検査を実施する。

ところが2015年第3四半期の結果はかなりひどいものだった。145の抽出サンプル中、12もの不合格品が出た。それも海産物、ミネラルウォ―ター、鶏卵加工品、パン、食用油、酒類と広範囲にわたり、基準値の6倍~50倍の異常値が検出されたものもあった。不合格率は8.97%に及び、第2四半期の2.3%から大幅に悪化した。商品回収命令、工場立入検査、罰金などの行政処分を科されるが、何とも恐ろしい数字である。食料品ですらこの有様なら他は推して知るべしだろう。中国製品の品質管理は一進一退を繰り返している。

驚くほどの早業でデザインを盗作

某日系レディースバッグ工場の総経理(社長)の話によると、同社ではかつて中国内販への取り組みの一つとして、ネット販売を試みたことがあった。すると、瞬く間にデザインを盗まれ、下をくぐった低価格の類似品があちこちから出回った。その早業には感心せざるを得なかったという。

一部にせよそれほど高い能力がありながら、なぜまっとうな商売をしようとしないのか。それは、企業はゴーイングコンサーン(企業は継続するという前提)という考えが欠けていることに起因している。創業経営者は儲からなくなれば、すぐに業種の転換を図る。すばやく立ち回って短期で稼ぐ。転廃業を繰り返しているうちに、最後には不動産で食べていけるようになっていた。中小企業レベルではこうしたパターンが非常に多い。いちいちプロフェッショナルの品質管理者など育成していなかった。「品質命」の日本の中小企業とは対極である。

こうした生産現場のすそ野の内情は、中国人でもわかる人にはよくわかっている。従って自国製品に対する信頼度はいつまでも低空にとどまり、とても「高い質の生活ニーズ」を満たせていない。

中国人も中国製品をあきらめている?

爆買い日本ツアーが隆盛となったのは、訪日ビザの条件緩和と円安が直接の誘因だった。訪日外国人旅行者は大震災の2011年に大きく落ち込んだが、2012年からV字回復した。同年9月、尖閣国有化に伴う反日運動が発生したが、中国人旅行客も1年遅れてすぐに回復した。

しかし2013年は、韓国、台湾に水を明けられまだ第3位にとどまっていた。中国人の爆買いが猛威を振るうようになったのは、ここ2年のことに過ぎない。日本が中国人旅行者の行き先トップとなったのは2015年6月からである。短期間で日本が大好きになってしまった。高い質の生活ニーズを満たす商品が安価であふれていることの他に、日本の「おもてなし」の社会に衝撃を受けたことも疑いない。誰に対しても差別のない親切さ、ぼったくりをしない誠実な接客態度などは中国ではまずお目にかかれない心地よさである。空気は澄み、街とトイレはとてつもなく清潔だ。常に自己主張と交渉の戦闘モードで暮らしている中国人からすれば、こんな調和のとれた世界があったのか、という新鮮な驚きだった。

ということで工業製品の品質管理、環境とサービス、つまりハード、ソフトとも日本の圧勝である。リピーターも激増中だ。彼らは本音のところ、当面「爆買い」にすがるしかない、と半ば中国製品をあきらめているのではないだろうか。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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