日本の税制は、申告納税制度のもと総合課税が原則だ。だが、金融商品については、不労所得であり、金融機関を通じた徴税が容易であることから、金融商品に応じて、源泉分離課税や申告分離課税が適用され、それぞれ税率も異なっていた。

近年、少子高齢化により貯蓄率が低下する一方で、家計金融資産に占める株式や株式投資信託の割合が低迷する状況が続いている。家計金融資産の効率的活用が経済活力維持の鍵であるという考え方に立つ政府は「貯蓄から投資へ」の政策誘導を積極的に進めようとしている。

税制についても、金融商品間の課税の中立性を保ちながら、簡素で分かりやすい仕組みを再構築し、一般の個人の投資リスクの軽減を図ろうとしている。その一環が、課税方式の均衡化と損益通算の範囲の拡大を柱とする「金融所得課税の一体化」政策だ。

目次

  1. 金融所得課税の一体化で何が変わる?
  2. 申告分離課税とは何か
  3. 資産戦略の見直しを

金融所得課税の一体化で何が変わる?

それでは、金融所得課税の一本化で何が変わるのだろうか。

まず、これまで公社債や公募公社債投信などの「公社債等」の譲渡益は原則非課税だったが、2016年以降、税制上の取扱いが、上場株式や公募株式投信など「上場株式等」と同様の取扱いに統一される。原則、確定申告による納税(20.315%の申告分離課税)が必要となる。

次に「上場株式等」と「公社債等」の損益通算が可能になる。具体的には、これまで非課税だった公社債投資信託の売却益が、譲渡所得として課税対象となる。これによって「上場株式等」や「公社債等」の譲渡損と、収益分配金等との損益通算ができるようになり、確定申告を行う場合、申告分離課税(20.315%)に統一される。

そして「公社債等」の特定口座への受入れが可能になる。これまで特定口座は「上場株式等」の取扱いに限定されていたが、「公社債等」の取扱いができるようになる。原則として、「公社債等」の譲渡(償還)益は、確定申告が必要となるが、「源泉徴収あり」特定口座を利用すると、確定申告が不要になる。

申告分離課税とは何か

そもそも所得税は、各種の所得金額を合算して総所得金額を求め、これについて税額を計算して確定申告によりその税金を納める「総合課税」が原則だ。

この総合課税とは別に、特定の所得に対してそれぞれ単独の計算式で課税をしていく仕組みが「分離課税」であり、「源泉分離課税」と「申告分離課税」がある。

「源泉分離課税」は支払われる時点で所得税分が天引きされるので、申告不要だ。源泉分離課税の対象となる主な所得は以下の通りである。

・利子所得に該当する利子等(総合課税の対象となるものを除く)
・特定目的信託のうち、社債的受益権の収益の分配に係る配当
・私募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る配当
・懸賞金付預貯金等の懸賞金等
・次の金融類似商品の補てん金等
・定期積金の給付補てん金
・銀行法第2条第4項の契約に基づく給付補てん金
・一定の抵当証券の利息
・貴金属などの売戻し条件付売買の利益
・外貨建預貯金で、その元本と利子をあらかじめ定められた利率により円又は他の外国通貨に換算して支払うこととされている一定の換算差益
・保険期間が5年以下などの一時払養老保険や一時払損害保険等の差益

これに対して、申告分離課税は、一定の所得について他の所得金額と合計せず、分離して税額を計算し、確定申告によりその税額を納める仕組みだ。申告分離課税制度の対象となる所得には、以下のようなものがある。

・株式の譲渡所得など(特定口座、少額投資非課税制度など確定申告が不要なものを除く)
・不動産売却による譲渡所得
・先物取引による雑所得
・山林所得

前述の「特定口座」はもともと、株式の譲渡所得についての申告手続きを簡素化するために設けられたものだ。2016年1月以降は「上場株式等」に加えて「公社債等」についても、特定口座を活用した申告手続きの簡素化ができるようになる。

なお経過措置として、2015年12月31日時点までに金融機関において購入し、そのまま継続して保有される「公社債等」については、原則として2016年1月1日にその金融機関に開設している特定口座に受け入れることが可能となる。

資産戦略の見直しを

前述の通り「金融所得課税の一体化」の狙いは「貯蓄から投資へ」の流れの基盤として、税制を簡素化することにある。今後、マイナンバー制度が本格導入されれば、さまざまな金融所得のリンクが可能となり、申告手続きの簡素化が一層進むことが予想される。これを機会に、個人資産の棚卸を行い、人生設計を見直してみてはどうだろうか。

笹原 英司
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク管理関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などで、Health-Techスタートアップに対するメンタリング活動を行っている。

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