財政,家計貯蓄率
(写真=Thinkstock/Getty Images)

財政については、エコノミストでも誤解してしまうことがいくつかある。その一つは、家計の貯蓄率には二つの考え方があるのを知らず、財政の分析に単純に応用してしまうことである。その違いを認識しておかないと、日本経済の分析と政策運営を誤るリスクが出てくる。

一つ目は、貯蓄額を可処分所得で割る家計の貯蓄率である。内閣府の国民経済計算確報で公表となる。二つ目は、金融資産の変化から金融負債の変化を差し引いたネットの金融資産の増加分(資金過不足)を名目GDPで割る家計の貯蓄率である。日銀の資金循環統計で公表となる。

マクロ経済学では、家計の貯蓄率、財政収支、そして企業の貯蓄率を合計すると、必ず国際経常収支となる恒等式(貯蓄・投資バランス)が出てくる。

家計の貯蓄率の高齢化などによる低下は、経常収支が赤字につながる、即ち政府と企業の資金需要を、国内の貯蓄でまかなえないリスクにつながると解説されることが多い。

2013年度の国民経済経計算確報では家計の貯蓄率は-1.3%となり、既にマイナスとなってしまっていた。既にこの家計の貯蓄率はマイナスであったが、国債市場は安定してきたことをみると、このような応用は間違いであったと言える。

一方、日銀資金循環統計では、家計の貯蓄率は2008年10-12月期の+1%を底に2013年7-9月期には+5.3%まで回復し、2014年4月の消費税率引き上げ後下押したが、2015年7-9月期には+3.3%となっている。

連動しない二つの家計貯蓄率

二つの家計の貯蓄率に、明確なデカップリングが起こっている。前者は、貯蓄額と可処分所得というキャッシュ・フローに注目した概念である。一方後者は、キャッシュを含む金融資産だけではなく、金融負債の動きも考慮した、バランスシートに注目した概念である。

貯蓄・投資バランスはバランスシートに注目した概念なので後者でみるべきところが、前者だけでみることが多いのは問題があり、それが前述の応用の間違いにつながっている。

確かに、高齢化は労働力人口が減少し、賃金というキャッシュフローは減少するため、前者の貯蓄率には低下圧力がかかる。しかし、高齢化は住宅ローンなどの家計の負債も減少していくので、後者の貯蓄率はそれほど低下していかないことになる。

例えば、高齢化により後継者のいない自営業者が廃業した場合、運転資金のための銀行借入や買掛金などの企業間信用の負債が減少するためバランスシートが収縮し、家計の負債は大きく削減されることになる。

2003年あたりまでは両者の家計の貯蓄率は同じような動きを示してきたため混同の問題はなかったが、デカップリングが激しい昨今では、両者の違いをしっかり認識しておくことが重要になってきた。貯蓄・投資バランスはキャッシュフローの概念ではなくバランスシートの概念であり、家計の貯蓄率は後者でみるべきである。

高齢化だけで説明できない家計貯蓄率の動き

これまでエコノミストがよく言っていたのは、キャッシュフローベースを念頭において、高齢化によって家計の貯蓄率が低下していき、いずれマイナスとなって、財政赤字を国内でファイナンスすることが困難になり、財政が破綻するというシナリオ(財政の終末論)であった。

既にキャッシュフローベースの家計の貯蓄率はマイナスであったが、国債市場は安定してきたことをみると、そのような考え方は、キャッシュフローベースとバランスシートベースの貯蓄率の勘違いが生んだ、誤解であったと言える。

それが、財政の終末論が現実化しなかった理由である。または、バランスシートの家計の貯蓄率の上昇が、国内貯蓄の増加を意味し、国債市場の安定に寄与していると判断すべきだろう。

12月25日に公表された国民経済経計算確報では2014年度のキャッシュフローベースの家計の貯蓄率は+0.1%となり、バランスシートベースの上昇を追うように若干リバウンドしている。

家計貯蓄率の動きを、高齢化だけで無理やり説明し、それを日本経済の分析と政策運営に応用するのは乱暴であろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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