追加的な財政緊縮策をとらないと2020年度の基礎的財政(一般政府収支から債務の利払い費を除いたもの)収支黒字化という政府目標の達成が困難であるという内閣府の中長期の経済財政に関する試算の問題点として、試算の起点となっている2014年度の一般政府収支の赤字幅の前提が過大であることを指摘した。

12月25日に公表された2014年度の国民経済計算確報(資金過不足、実物取引)では、一般政府収支の赤字(GDP比率)は-5.2%(2013年度は-7.6%)となり、内閣府の試算である-6.5%から、1.3ppt(6.4兆円程度)も大きく改善していることが明らかになった。

2015年度以降の赤字幅の推計値も同程度縮小すると考えると、2020年度の基礎的財政収支は、もともとは-1.0%と赤字であるが、+0.3%の黒字になる。

一方、内閣府の中長期の経済財政に関する試算に関しては、名目GDP成長率が3%程度の前提をおいていることが問題があるとの指摘が多い。

確かに、内閣府の試算の名目GDP成長率の前提は、2015年度から2020年度まで、+2.9%・+2.9%・+2.7%・+3.9%・+3.5%・+3.6%と、しっかりとした数字になっている。しかし、政府の債務の利払い費となる国債10年金利の前提が、2015年度から2020年度まで、0.9%・1.9%・2.7%・2.7%・3.4%・3.9%と、想像を絶する高さになっている。

アベノミクスと財政再建

2020年度において、名目3%台の成長より、4%近い長期金利の方が、圧倒的に非現実的であると考える。現在、名目GDP成長率が長期金利をバブル期以来はじめて持続的に上回るようになっており、本格的なリフレ局面の入り口に来ている。

アベノミクスは名目GDP成長率をマイナスからプラスにまず押し上げ、企業のリスクテイクを促すビジネス環境を改善させ、企業活動の拡大の力を使って構造的な内需低迷とデフレから脱却、そして財政再建を目指す政策である。

この名目GDP成長率と長期金利のプラスのスプレッドが、景気・マーケットのリフレの源であり、税収の大幅な増加による財政収支の急速な改善の原動力となっている。

内閣府の中長期の経済財政に関する試算によるスプレッドは、2015年度から2020年度まで、+2.0ppt・+1.0%・0ppt・+1.2ppt・+0.1ppt・-0.3pptとなっており、長期金利の急騰により、2020年度までに完全に消滅してしまう、言い換えればアベノミクスの効果が消滅してしまうことが前提となっている。

結果として、2017年度に消費税率の再引き上げがあっても、一般政府収支は2015年度から2020年度まで、-5.5%・-4.7%・-4.3%・-3.6%・-3.4%・-3.4%と、2018年度から2020年度までは3%程度の赤字でほとんど改善がみられない試算となっている。2%の安定的な物価上昇の実現はかなり時間がかかり、日銀が量的金融緩和のテーパリングを完了させ、利上げに転じるのは2020年度まで待たなければならないと考えられる。

そうなれば、2020年度の名目GDP成長率が3%程度であっても、長期金利は2%程度にとどまると考えるのが自然だろう。結果として、名目GDP成長率と長期金利のスプレッドは2020年度までプラスで維持されるとすると、一般政府収支の改善は2018年度以降も継続し、2020年度の赤字幅はもっと小さいはずだ。

起点の2014年度の1.3pptのバイアスを修正し、2017年度からも消費税率引き上げに加えてそれまでの0.8ppt程度のリフレによる改善ペースが続くと仮定すると(2017年度は-3.0%ではなく-2.2%に修正し、それ以降は年に0.8pptずつ赤字幅を縮小)、2020年度の一般政府収支は+0.2%と黒字の試算となる。

緊縮ペースが速すぎればデフレ復活の懸念も

もともと2020年度の基礎的財政収支を黒字化するという政府の目標は、計画策定の2010年度からちょうど10年で切りがいいという以外に経済的な意味はない。そして、追加的な財政緊縮策がなくても、2020年度には基礎的財政収支だけではく一般政府収支も黒字化してしまう可能性が出てきている。

そうなると、財政の緊縮ペースが速すぎて、景気モメンタムを失速させ、デフレの復活を許してしまはないか不安になる。内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、消費税率引き上げの計画通りの実施や追加的な財政緊縮策の方向性を作る目的が感じられ、問題点が多すぎる。バイアスがかかっていない形に、1-2月の見直しで改良されることを願う。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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