夫婦別姓,事実婚
(写真=PIXTA)

2015年12月16日、最高裁は夫婦別姓を認めない民法の規定が「合憲」とする判断を示した。選択制夫婦別姓の問題は古くから議論されており、今後も議論が続くことが予想される。

世界に目を向けてみれば、法律で夫婦間の姓を同一にしなければならないと、一切の例外を認めない先進国は日本ぐらいである。女性が経済活動をする上でも、非常に厄介な存在なのは筆者が経験済みなので、声を大にして言いたいところではあるが、今回はこの「夫婦別姓」、いわゆる「事実婚」と「法律婚」との「お金」についての違いを探ってみよう。

そもそも法律婚とは何か

役所に行って「婚姻届」を提出し受理されれば法律上「夫婦」となる。当たり前のようだが、この「婚姻届」には、夫婦となってから使用する「姓(苗字)」を記入する欄がある。別姓はわが国では認められていない。

夫婦が同姓になるということは、言い換えればパートナーの片方が自身の使用していた苗字を今後使用せず、姓が変わるということだ。変わることで不都合が生じる理由から、または変えたくないという強い意志から、法律婚を断念せざるを得ないカップルは数多くいる。

または、別の理由から、例えば同姓同士や重婚などの関係上、本人同士は望んでいても婚姻届を出せない、受理してもらえないなど、「法律婚」をせずに「事実婚」として、人生を共にする「結婚生活」もある。

「事実婚」で認められる権利、認められない権利

法律婚でも事実婚でも、各家庭や夫婦間の「お金」のルールは、人それぞれだ。夫婦が別財布で互いの預金残高も毎月の収入の使途も干渉しないカップルもいれば、「財布は母ちゃんが握っているよ」と、家庭の中に財務省が存在するカップルもいるだろう。

しかし家庭の外には、厳格にルールがある。まずは相続だが、税法が絡む相続については、「事実婚」に対して厳しい。相続人と呼ばれる財産を相続する権利がある人の中に、残念ながら「事実婚」の配偶者は含まれない。たとえ長年共に過ごし、共に財を築いたとしても認められないのだ。自身の死後、パートナーに財産を残してあげたいと考えるなら、正式な遺言書を残すしかない。ちなみに「○○に相続させる」ではなく、「○○に遺贈する」が、正しい書き方だ。

次に健康保険、遺族年金についてはどうか。このふたつの様に、社会保障と呼ばれる類のものは、「事実婚」に対して「法律婚」と同じ権利を与えている。ポイントは「主として被保険者に生計を維持されている」「主として被保険者の収入により生計を維持されている」状態かどうか、ということだ。

健康保険の場合は、いわゆる「130万円の壁」で、年収130万円までで被保険者の収入を超えていなければ、「法律婚」「事実婚」の壁はない。生計を一にしている証明があればよいのだ。

遺族年金については、年金受給者側の年収が850万円(所得ベースで655万5千円)を超えていなければ、その他年齢要件などを満たせば受給することができる。「法律婚」「事実婚」で差はないのだ。ただし、ここでも、生計を一にしている証明が必要だ。

では、生計を一にしていることを証明するにはどうすればいいのか。一番有力なのは「住所」であろう。同じ住所に住民票を置いておくのは絶対条件ではないにしろ、周囲に対しても「夫婦」であることを証明するのに、一番自然な説得材料といえる。

生命保険の受取人は

民間の保険会社が支払う、生命保険についてはどうだろう。保険会社が死亡保険金を支払う人=受取人は、原則二親等以内の親族に限られる。

社会的責任の重い役割を果たす業種として、長い間「内縁」の関係は、社会通念上「不道徳」なこととされてきた背景から、認めることが難しい背景があるからだろう。実際支払った保険金を、相続人から後に裁判で訴えられ敗訴し分割したという事例もある。

しかし昨今では、二親等の枠を超えて「事実婚」の配偶者に、受取人の権利を認めようという動きがある。実際に外資系や損保系の生保を中心に、すでに内縁関係の者を一定の要件のもとで保険金受取人に指定することができる。要件は各保険会社によって異なるため、必要な人は遠慮なく各保険会社に問い合わせてみるといい。

ただし、ここでも、同一住所に居住している、さらには7年以上などそれなりの同居年数が必要になってくることが多い。また、一親等以内に親族がいる場合は、いくら同居年数が長くても、認められない会社もある。

まだまだ壁は多いが、確実に事実婚への理解、法改正は進んできているといえる。過去の常識が、未来の常識とは限らない。何のための、誰のための制度なのか。お金そのものよりも、裏にある本来の意味と照らし合わせて考えていきたい。

佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅱ種、相続診断士
国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。 FP Café 登録FP

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