国内消費の起爆剤として注目される賃金

アベノミクスはすでに3年目を迎えた。その2016年は年初から、新興国経済の減速懸念や世界的な株価の下落などからも受ける不透明感から大きく下げて始まった。持ち直しそうな動きも見せているものの、まだまだ暗雲を拭い去れそうにはない。

そこで注目を集めるのが、「賃上げ」の動向だ。現政権の安倍総理も昨年11月に早くも官民対話の場で、企業に対して設備投資の拡大に加えて、賃上げの実行を求めた。さらに、黒田東彦日銀総裁も1月5日、「賃金の上昇は日本経済の持続的な成長に不可欠。労働需給、企業収益など条件もそろっている」とこれまでになく積極的に賃上げ期待感を表明し、賃上げを後押ししている。

黒田総裁自身としては物価上昇率2%の目標を達成したいという思惑もあるのかもしれないが、GDPの約6割を占める個人消費の活性化が鍵なのは確かだ。

ただ、昨年の賃上げ交渉の結果を振り返れば、日本国内でも基本的には、賃金引上げが基調の雰囲気だといえそうだ。具体的には、2015年は2年連続となる2%台の賃上げが実現。賃上げ率も17年ぶりの高水準となり、ベースアップ分も0.5%と2000年以降で最大だった。個人消費が盛り上がりに多少、欠ける理由になっている可能性もあり、給料引上げの動向からは引き続き目を離せそうにない。

「はるかに目覚ましい」アジア各国の賃金上昇

しかし、海外に視野を広げると事情は大きく異なる。国内では、2%の昇給をめぐって政労使が綱引きを繰り広げ、政府・労働側はせっせと賃上げに向けて動いている。が、世界の実質賃上げの水準とは比べるべくもない。特に、新興国では、高い伸び率を示しており、世界平均の2016年名目賃上げ率は2.5%と過去3年で最大だ。

その中でも新興国の賃金伸び率は、日本と比べて非常に高く「驚くべき水準」とすらいえそうだ。実態は米国の経営コンサルタント「Korn Ferry Hay Group」による「2016年度世界の報酬動向調査」によく現れている。同グループは約50カ国に90近くのオフィスを構えており、110カ国以上の2万4000社(従業員数では2000万人以上をカバー)を対象に賃金引き上げ率の聞き取り調査を実施。調査の結果をインフレ率で割り引き、実質的な賃上げ率が算出されている。

同調査によれば、賃上げ水準については、おおむね、3グループに大別できそうだ。一つ目のグループは、実質5%以上の賃上げ予測となっている国々だ。ベトナム、中国を筆頭とするアジア新興国、さらにはレバノン、ヨルダンなどの中東諸国も含まれる。第2グループは実質・名目とも0~3%の賃上げが予想される北米、日本、欧州の先進各国。ただ、日本のインフレ率は1%となっているのに対して、米、英、仏、独などはインフレ率が0.2~0.3%と低位で推移しており、実質昇給率では日本はグループ内の他国に比べて低い昇給率しか実現できていない様子だ。

さらに、高いインフレ率に名目昇給率が追いつかず、実質的に賃下げとなる国もある。三つめのグループだ。南米からブラジル、ベネズエラ、東欧からはロシアやウクライナでこの「実質賃下げ」が生じてしまっており、為替の減価によるところが大きいと言われている。

中国では賃金も約8%の「爆上げ」

しかし、対照的に大幅な「実質賃上げ」で注目される国もある。それが著しい経済成長率を誇る一方で、世界同時株安の震源地になるなど、市場を騒がせもする中国だ。同国の昇給率は名目で昨年と同率の8%。実に日本の4倍だ。実質でも6.3%の賃上げが予測されており、来日観光客の激増や流行語にさえなった「爆買い」の推進力になるのもうなずけるところだ。

ただ、中国経済全体では悪材料があることも確かだ。2015年7-9月期のGDPが6年半ぶりに7%割れとなり、中国当局は2016年は6%台後半の成長を目指すとしている。中期的にも成長減速は明らかで、賃金が伸び、消費が堅調を維持しそうなのは中産階級の持続的な増加と熟練工需要の増加がフォローの風となっているためと言われる。

賃上げ率がもっとすごいアノ国「インド」は昇給率10%超

他方で、インドの昇給率はもっとスゴイ。名目では10.3%の昇給が予想されている。インフレ率も2016年予想で5.6%と高めだが、実質昇給率は2014、15年の各0.2%、2.1%から2016年には4.7%へ加速すると見られている。丁度、1955年から1975年の20年間で名目賃金年率11%増、実質で5%増を記録した日本の高度成長期に比肩する勢いだ。

労働力の国際移動にはまだまだ制約が多いが、貿易、金融、投資を経由した間接効果を含めれば労働市場もかつてなくグローバル化していることもあり、今後の世界経済を占ううえでは、賃金水準にも目を配っておくことが肝要だろう。(ZUU online 編集部)

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