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(写真=HPより)

店を訪れると名刺が渡され、訪問するごとに課長、部長と出世する居酒屋。あるいは、来店者の名前をチョコで書いた皿が出てきたり、帰り際に自家製の「味噌」が手渡される居酒屋と聞けば、思い出す方は多いだろう。それは「塚田農場」だ。

人口減少や所得の伸び悩みなどで市場縮小の続く外食産業、特に居酒屋は低価格でより多くの集客を図る今までのビジネスモデルが通用しなくなり、ブラック企業などと呼ばれて衰退しつつある居酒屋チェーンもある。

その中で塚田農場は気を吐いている。

生産現場から店舗まで直結するビジネスモデル

経営しているのはエー・ピーカンパニー。2001年設立、社長は米山久氏。Webサイトに公表されている2015年3月時点での店舗数は、塚田農場以外の「わが家」「四十八漁場」なども合わせて203店(直営152、ライセンス51)という。

塚田農場のビジネスモデルを端的に言うと、「Farm To Table」(生産からテーブルまで)を実践していることだ。提携農家はもとより、自社でも地鶏農家を持ち、さらには宮崎県日南市に加工場・処理場まで保有するなど、店舗で使用する地鶏の100%を自社と提携農家によって内製化している。

産地は宮崎を中心に北海道、鹿児島から調達しており、年間40万羽の地鶏を消費している。宮崎県産の「みやざき地頭鶏(じとっこ)」に限ると、すでに宮崎県内の地鶏生産シェアでは50%を超えているというから驚きだ。

外食産業で素材の生産を直接手掛けることは、素材調達の中間マージンをカットできる半面、リスクやコスト負担が増す恐れがある。

だが昨今消費者が敏感になっている食材の安全性・信頼性・クオリティが担保されるメリットのほうが大きいだろう。これによって自分たちが生産・提供している食材が明確になり、客に自信を持って提供できる。

また客の側からも「自分が何を食べているのか」が明確に分かるというのは、大きな利点がある。契約農家から素材を調達する方法は目新しいものではないが、その割合が数%にとどまることが多いのに対し、塚田農場では100%にこだわり徹底的に追求している。

このビジネスモデルは、飲食業というよりもむしろ、生産・製造業に近いユニークなものだ。またこのモデルは、生産者とつながることで素材の品質管理が行いやすく、消費の現場から生産の現場へのフィードバックが直接できるという利点が大きい。さらには利益を還流させ、農家の雇用を生み出し生産地域の活性化にもつながり、双方のメリットが大きくできる。

全従業員による参加型経営

塚田農場では社員はもとより、アルバイトから生産者にいたるまで、関わるすべての従業員に参加する機会を与える、いわば“全員参加型経営”を実践している。

社内研修では、地鶏生産現場で2~3週間の長期にわたって実地研修をする。飼育だけではなく食肉処理場での生々しい作業までも体験することで、生産と素材の大切さを直接体験し理解する仕組みを作っている。この研修風景は映像に記録し、アルバイトや新入社員に見せ、研修を受けた本人が店舗における自分たちの役割を伝える。座学ではなく、生産現場での生身の「体験」が、企業理念をリアルに理解し、「最終消費者であるお客様に、おいしい状態で、残さず食べていただくこと」ことを目指し、その中に自分の役割があることを学ぶ。

アルバイトであっても自分の役割を理解し、自信をもってメニューを客に薦められることができる。徹底して現場主義なのだ。社員はもとよりアルバイトでさえも、生産現場でのフィールドワークや生産者との交流会を通じて食材生産の厳しさや生産者の想いを相互理解し、より密度の高い商品理解と接客に繋げている。また従業員の確保やモチベーションを高める工夫も徹底している。

店舗で働いているアルバイトの生の声や優秀な従業員の表彰結果をWebサイトで公表する施策は、外食チェーンでは珍しいだろう。

強力なブランドを糧に多角化へ

「Farm To Table」というコンセプトを実現することで、塚田農場は強力なブランディングできている。生産から商品提供、接客サービスまでを一気通貫しているという事実がなによりも大きい。工業製品で部品を内製化することはよくあるが、外食産業で食材の完全自社生産・自社調達という内製化を徹底して行うことは非常に珍しい。それによって塚田農場は、街中で「塚田農場」そのものを消費者が直接体験できるというブランディングを行っているといえるだろう。

そのブランディングをより強固なものにしてビジネスをドライブしているのは、企業理念を実行しようとするプライドと、日々実現しているという自信だ。

メニューの多さや安さ、立地の便利さなどをドライブの要素としている他の居酒屋との決定的な違いだろう。それらのチェーン店はいまや、ブランディングの弱さのためにメニュー開発や価格設定に悩まされている。また客と従業員の繋ぎ止めに苦労している。

塚田農場のブランディングは、集客と顧客満足はもちろんのこと、生産者とアルバイトを含めた従業員の満足度と確保に大きく貢献している。自分の生産した食材、提供しているメニューの出所とクオリティに自信とプライドを持っていることは大きな強みになっている。それは単に居酒屋間での差別化に留まらない、「食に対する価値観とこだわり」に根ざしていることだ。

さらに塚田農場は今、オリジナル食品の外販や宅配弁当などの多角化を図ろうとしている。店舗外での販売機会とブランドの接点をつくることは店舗との相乗効果が見込めるだけではなく、ブランド価値のさらなる向上にもつながるだろう。塚田農場は飲食業から、よりパイの大きな食産業の中でのビジネスとブランディングに挑もうとしている。(ZUU online編集部)

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