先進国の自動車市場は成熟期を迎えており、大きな成長が望みにくい情勢にある。しかし、その一方で新興国の自動車需要は旺盛で、先進国の衰えを大きくカバーしている。2014年度における世界の自動車販売台数が8816万台と過去最高を記録したのも、新興国市場の増加が大きな要因である。ちなみに、世界の自動車販売台数における新興国の占める割合は2000年の段階で約20%、それが2010年には50%を突破し、先進国を逆転した。経済産業省が2014年にまとめた調査でも、世界の自動車販売台数は2020年代前半に1億台に乗せる見通しで、新興国のシェアも60%を超えることが予想されている。

新興国攻略に苦戦するトヨタ

そうしたなか、トヨタ自動車 <7203> が新興国市場の開拓にアグレッシブな姿勢を見せている。先月、同社がダイハツ工業 <7262> の完全子会社化を発表したのは記憶に新しいが、それに関連して一部でスズキ <7269> とも提携交渉に入っているとの憶測が広がった。スズキとの提携は噂の域をでていないが、そのような憶測を呼ぶ背景にはトヨタが長期的な成長が見込める新興国で主導権を狙っていることが指摘される。ダイハツ、スズキともに軽自動車(Kカー)に強みを発揮するメーカーであり、特にアジアの新興国のニーズに合致しているためだ。

もともと、トヨタは中国や台湾、タイ、インドネシア、マレーシアなど、アジア・太平洋地域に多くの生産拠点を有しており、その点では他のメーカーよりも有利な状況にある。2004年に立ち上げたIMV(Innovative International Multipurpose Vehicle)プロジェクトでは、全世界の新興市場をカバーする最適精算および供給体制を構築し、日本以外での生産販売体制により需要変動や為替変動に収益が左右されない体制を構築している。プラットフォームの共通化を図ったピックアップトラック、ミニバン、SUVをシリーズ化し、タイではアジアをはじめとした世界中への輸出を担うグローバル拠点の中心に据えて活動を続けてきた。

しかし、そうした体制で臨んでも、新興国市場でのトヨタの販売は苦戦を強いられている。2014年度は日本を除くアジアで前年比12万台減、中南米・オセアニア・アフリカ・中近東では1万4000台減となった。中国や南米ではVWやGMに差をつけられ、インドでは現代自動車やホンダがシェアを伸ばすのとは対照的に劣勢を余儀なくされている。

「ガラパゴス軽」がグローバル戦略の要に

トヨタがダイハツを完全子会社化したのは、新興国攻略の「Kカー戦略」を本格的に稼働することで、次の成長ステージに向けて大きく舵を切るのが狙いと見られる。憶測通りにスズキとの提携も実現の運びとなれば、この戦略を一層強化することになるだろう。

Kカーは、戦後日本のGHQ統制下で生まれた世界に類を見ない自動車文化でもある。一時期は「ガラパゴス軽」と揶揄されたこともあったが、価格が手頃で燃費が良く、環境にも優しいこともあって、いまやアジアの新興国を中心に販売戦略の要となっている。新興国のニーズに合わせたミニマムパッケージを設定し、その中で価値の最大化を図り、提案する日本の「Kカー文化」が、世界へ新しい価値を送り出すことを期待したい。(ZUU online 編集部)

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