資産運用をスタートするうえで、最初に思いつくものは、定期預金や日本株への投資ではないだろうか。しかし、日本銀行のマイナス金利政策の導入で、定期預金の金利はメガバンクはもとよりネットバンクでも雀の涙ほどに過ぎない。そして、日本株についても、年明け以降、下落トレンドとなっていることから、海外への投資を検討している方も増えているのではないだろうか。そこで、今回は国際分散投資の観点から、新興国投資の有益性について述べておきたい。

国内だけに資産が集中するリスク

近頃の株価急落の震源地は、中国経済の減速とその影響から需要減が見込まれる資源・エネルギーの価格下落である。さらに、米国の利上げ開始により、新興国市場からの資金引き上げと先進国(特に米国)への資金流入や、世界経済低迷による米国景気減速懸念など、世界的な信用収縮が指摘できる。

そのため、比較的低リスクとされている円買いが顕著となり、ドル円相場で円高が進行し、マイナス金利導入も重なったことで、結果として、短期的に見れば、国内資産(特に国債)を持っていることが最良の選択だったと思われる。

しかし、それでも、国際分散投資の有益性は変わらないはずだ。内閣府が2月15日に発表した、2015年第4四半期のGDP(国内総生産)速報値は、実質で前期比0.4%減、年率換算で1.4%減となるなど、個人消費の低迷は明らかである。少子高齢化の日本経済を考えれば、この傾向は長期的にも日本経済にマイナスに作用するだろう。

そもそも、我が国の財政再建は全くと言って良いほど進んでいない状況である。また、記憶に新しい東日本大震災など自然災害リスクを考え合わせれば、一定の資産を海外に向ける必要性について論を待たない。現在発生している、債券バブルが破裂したときこそ、国際分散投資の有益性を感じられるに違いない。

国際分散投資という考え方

投資初心者向けの書籍やWebコンテンツなどで、国際分散投資が語られる際に、「卵はひとつのカゴに盛るな」という表現で「特定の商品だけに投資をするのではなく、複数の商品の投資を行い、リスクを分散させた方が良い」といった内容で終わっているものが多く、リスクとリターンの関係を説明しているものは少ない。もちろん間違っている訳ではないが、ポートフォリオの最適化という観点で考えれば、必要十分な説明とは言えない。

たとえば、分散投資をしようと考えて、大手自動車株と大手電機株を買ったとする。直感的に、分散が効いていないと感じるかもしれないが、具体的に説明すると、どちらの株も国内で一定の需要はあるものの、海外での売上比率も大きく、為替レートの変動で業績がブレる傾向にある。そのため、ドル円相場などで円高が進めば、両方とも株価が下落する傾向にある。これが「正の相関」と言われるもので、正の相関が強い場合、株価は似たような動きをするのである。

国際分散投資にも、同じことが言える。つまり、海外の資産に目を向けたとしても、国内の株式と「正の相関」の強い、海外資産に投資した場合、同じような値動きとなりやすいため、分散投資の効果は低くなってしまう。

必要なのは、運用対象の資産のリスクとリターン、相関係数を把握することだ。リターンとは、投資を行うことで得られる収益で過去の実績値の平均などを用いる。リスクとは、不確実性であり、リターンの振れ幅のことを指し、実績値の標準偏差などが用いられる。そして、相関係数は、2つの確率変数の間の相関を示すものであり、-1から1の間で、1に近いものが「正の相関」があり、-1に近いものは「負の相関」、0に近い場合は無相関となる。

国際分散投資の有益性はここにある。すなわち、リスク・リターンとの相関を考慮し、アセットクラスや、地域、先進国、新興国の資産を分散させて組み入れることでポートフォリオを最適化することが可能となるのだ。さらにいえば、横軸にリスク、縦軸に期待リターンをとって、同一リスクのポートフォリオの中でリターンが最大となるポートフォリオを結んだ、効率的フロンティア曲線上でリスクが最小となる、最適化(最小分散投資)を行うことでベストな国際分散投資を行うことができるのである。

新興国は有力な投資先に変わりない

これらを踏まえ、新興国投資を考えると、新興国の株式や債券、リートは何れも国内債券(国民の銀行預金は、融資以外に国内債券等に回っているため、間接的に債券へ投資している形となる)との相関がほとんどないため、現預金が中心の場合、分散投資の効果が期待できるはずだ。ただ、国内株式を保有している場合、何れも一定の正の相関があるため、似た動きをする可能性が高い点には注意したい。

近頃は、中国などの新興国で景気減速懸念が台頭してはいるものの、それでも、新興国のGDP成長率平均予測は先進国を大きく上回っている点は軽視できない。世界の人口の85%、国土面積の76%が新興国に集中していることを加味すると、有力な投資先の一つであることに変わりない。

新興国投資のリスク

新興国投資のリスクを挙げるとすれば「資源価格の下落」「通貨の下落」「デフォルト」がある。原油価格の下落により、ガソリン価格が下がっていることなどがニュースで取り上げられているが、新興国のひとつであるロシアは有力な産油国であることから、大きな打撃を受けている。その他にも、南アフリカなどの新興国が多くの貴金属資源を有しており、その価格変動に大きな影響を受けるのだ。

通貨については、米国の利上げにより、新興国から米国へ資金が移ったことで、通貨安が進んでいる。さらに、新興国の外貨準備は大きく減少しており、国際金融協会によればトルコや南アフリカ、マレーシア、インドネシアなどは脆弱とされていることから、90年台後半のアジア通貨危機のような混乱の可能性もある。

デフォルトについては、一般論として、新興国の格付け会社による外部格付けは低いケースが多く、近年のギリシャなど、低格付けの債券で債務の返済が行われないなどのニュースも記憶に新しいはずだ。中南米やアジア、アフリカなど、多くの国で過去にデフォルトが発生していることからも、引き続き注意が必要である。

国際分散投資の有益性と新興国市場の解説は以上となるが、長期運用を考える上で参考になれば幸いである。(ポートフォリオマネージャー 澁澤龍)

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