中国,女性活躍
(写真=PIXTA)

中国における女性の活躍は目を見張るものがある。商業やホテル、レストランはもとより、工場や物流の現場でも大量進出している。さらに営業の最前線や経営層でもこれは変わらない。産業社会のジェンダー景観は、日本とはまるで異なっている。中国在住の筆者がそれぞれのレベルで活躍する女性について、その実態を探る。

軽工業の現場 最前線で活躍するのはおじさんではない

繊維製品や食品など生活密着型の軽工業では、生産ラインから管理部門まで女性ばかりで運営されている工場が多い。男性は、腕力の必要な工程か、メンテナンス、警備、倉庫などの後方部門に多少生息していている程度である。ここでは某倉庫会社のケースを紹介する。

N社倉庫は貿易港近くに位置し、主に日本向け輸出貨物を扱う。衣料品や家庭用品の検品、検針、値札付け、アソート、一時保管、船積みまで担当する。ここでも全面的に女性が運営を担っている。

男性たちは何をやっているかというと、フォークリフトの運転やバンニング(コンテナに貨物を積むこと)、梱包作業のみである。事務所には女性しかいない。そして彼女たちが、営業、渉外、採用、作業計画立案など、人事・給与を除く全ての業務をコントロールしている。

もともと細かい確認作業の続く倉庫業に、女性は向いている。物怖じしない中国女性には特に相性がよい。港湾倉庫業務といえば、おじさんというイメージのつきまとう日本のほうが時代遅れなのだろう。

営業の最前線はどうか

1990年代に入り、日中貿易は急拡大した。しかし、それら大量の商談をこなす通訳が存在しなかった。中国語学科を卒業した日本人は当時まだ少ない上に、社会主義者など一徹な変人揃いで、商売というバランスゲームには不向きな人が多かった。

中国側でも歴史的経緯から日本語教師の多かった東北3省を除いて、日本語の使い手は極めて少なかった。各社が通訳不足を嘆いているうちに、中国側が急速に日本語の実力をつけ始めた。先陣を切ったのは女性たちである。

通訳という職業は、どこの国でも2対1以上の割合で女性が多いという。対人コミュニケーション意欲が男より強いからに違いない。特に自己抑制という歯止めの効かない中国人女性ではこれが一段と強烈だ。

さらに商売目的が加わったことで学習意欲は刺激され、上達は目覚ましかった。こうして日本語を身に付けた彼女たちは、商売勘を磨き、積極的に商談をリードし、貿易の発展に貢献した。これは今に至るも変わらず、商談に女性が参加していないケースはまれである。さらに時流を引き寄せた女性たちは、経営者への道を歩んだ。

経営の最前線でも女性が活躍

山東省に“肌着大手3社”という呼び方がある。いずれも日本向け輸出を中心に、大を成した会社である。それら(1)即髪集団、(2)諸城桑沙集団、(3)雪達集団、の3つのうち、(1)と(2)のツートップの創業者は女性である。(3)はさらに徹底していて、会長、社長をはじめ、部長、13ある直営工場長などほとんどの重要ポストを女性で占められている。

(1)は中国最大の肌着・カットソー、メーカーでもある。ファーストリテイリング <9983> 、良品計画 <7453> 、セブン&アイ・ホールディングス <3382> 、イオン <8267> 、ユニー <8270> 、西友、ローソン <2651> など小売り大手がそろって商品調達を行っている。

同社は昨年10月23日、創立60周年記念パーティーを催した。ファーストリテイリング柳井社長夫妻、東レ <3402> 社長夫妻、ミシンメーカー社長、伊藤忠商事 <8001> 繊維部門トップなど豪華メンバーが山東省の地方都市に集結し、祝辞を述べている。こんな芸当が可能なのは同社のみである。

創業者の女性は長身痩躯、するどい眼光は健在だが、パッと見は、農家のおばあさんにしか見えない。大掛かりなパーティーを成功させ、もう思い残すことはなさそうだ。また(1)(2)とも一族経営をしなかったため人材が育ち、これが会社の成長につながった。

国家指導者レベルは関心外

国家指導者レベルではどうだろうか。現体制では25名の共産党政治局員中、女性はわずか2人である。

21世紀に入って存在感を示した女性政治家は、2005年、小泉首相との会談拒否で有名になった呉儀副首相くらいだろう。この人は広く内外の尊敬を集め、米フォーブス誌の「世界で最も影響力のある女性100人」で2位にランクインした。彼女は3人目の副首相ということで、この地位が中華人民共和国のこれまでの女性トップである。

最高指導層の政治局常務委員になった人はいない。今後なる人が出たとしても象徴的な抜擢人事だろう。もとより女性たちには関心の外である。

中国人女性は、配偶者や子供も含め、自分の“持ち物”を殖やすことに貪欲に挑み、夢をかなえていった。同時に権力基盤も固めた。上で述べたように産業社会をリードするばかりか、家庭でも不動の序列1位を確立した。中国伝統の家名重視の男性中心社会はすでに看板倒れで、実質は女性が思いのまま仕切っている。彼女たちは実質を伴わない肩書きに興味はない。

現代中国はこうした自己本位に振る舞う多くの「女の王国」の集積によって構成されている。中国国家もその相似形であり、やっていることはアクの強い“おばちゃん”そのものである。都市部を見ている限り、女性の支配体制は、もはや揺るぎないように見える。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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