2015年8月、東京地裁は「ビットコインは所有権の対象とならない」と判断した。破たんしたMt.Gox社の顧客が、ビットコインの返還を同社の破産管財人に対し求めた訴訟の判決の中でだ。これはビットコインを何らかの理由で喪失した場合、裁判所に訴えて解決することが困難ということを意味する。
日本ではビットコインに代表される仮想通貨がなかなか普及しない理由として、同社破たんによるイメージの悪化もあろうが、法律面での整備が十分でないという印象も普及を妨げている。しかし、3月4日に仮想通貨に対する規制案を含む改正法案が国会に提出され、法案の内容も金融庁のWebサイトで公表された。これまでの法律を整理しつつ、改正法案の影響を考えてみよう。
ビットコインには「貨幣の機能」が与えられる
まずビットコインは「通貨」といえるだろうか。一般に「通貨」が持つ効力としては、支払うことによって借金は返済される、すなわち債権者が返済を認めないというわけにはいかず、借金はなくなるというものがある(強制通用力)。
だが政府はビットコインには法律上の強制通用力はなく、通貨には該当しないとしていた。これは2014年3月7日に民主党の大久保勉参院議員が提出した、ビットコインが民法上の「通貨」、外為法上の「本邦通貨」「外国通貨」に該当するかという質問に対する閣議決定された「答弁書」という政府見解だ。
もっとも、上記政府見解によっても、ビットコインを決済手段として使用することは法的に可能である。この点、改正法案にいう「仮想通貨」とは、決済手段に利用できる、法定通貨と交換することができるとするもので、政府は仮想通貨に「貨幣の機能」を認めるという。
業者はどの法律の規制を受けるのか 銀行法・資金決済法で分かれる見解
ビットコインは「送金の手段」として使われ、「売買の対象」にもなっている。この点について、金融関連の規制を受けるのか、法令の対象となるかという点を整理しよう。取り扱い業者が、前者「送金」については銀行法や資金決済法の、後者「売買」の点では金融商品取引法の規制を受けないか――という点だ。まず銀行法や資金決済法について見てみよう。
銀行法が目的としているのは、銀行業務の公共性から、信用秩序の維持、預金者保護、円滑な金融だ。そして資金決済法は、電子マネーや銀行によらない送金等の資金決済サービスの適切な実施の確保と促進、利用者の保護を目的としている。
前述の政府見解によれば、ビットコインは、通貨の取り扱いを前提とする銀行法の適用対象外。このため、銀行は売買の仲介やビットコインと円貨または外貨との交換、ビットコイン口座の開設、当該口座間での移転(送金)を行うことはできない。
またビットコインは発行者がいないため、発行者の存在を前提とする資金決済法上の電子マネー(前払式支払手段)ではない。もっとも、改正法案では仮想通貨の定義を資金決済法に新設するため、同法での仮想通貨の取り扱いは明確になるだろう。
金商法上の有価証券ではなく登録も不要
次に金融商品取引法の対象になるのかどうかを見ていこう。同法は、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にするなど、国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とした法律で、金融商品取引業者に対する規制のうち金融商品に関する勧誘規制も定めている。
政府見解によれば、ビットコイン自体の取引は金融商品取引法上の有価証券等の取引には該当しないため、業者がビットコインと日本円又は外国通貨との交換を勧誘しても、同法の規制対象となる業者としての登録は不要であり、勧誘規制の対象とならない。
気になる課税関係は?
ビットコイン取引に対する課税関係について政府見解は、所得税、法人税、消費税などに定める課税要件を満たす場合には課税対象としている。たとえば、ビットコインを売って売却益が出たら所得税の対象となる。取扱業者の中には、ビットコインの価格を消費税込で表示しているところもある。しかし、改正法案の報道を受け、今後の税法の議論によってはビットコインにかかる消費税が非課税となる可能性がある。
悪用防止・利用者保護に向けた法案が国会に提出
ビットコインなどの仮想通貨に関しては、マネーロンダリングやテロ資金に悪用される危険性についても世界中で議論されている。規制案は、仮想通貨が悪用されることを防ぎ、また利用者を保護するためのものだ。
改正法案の主なものを挙げると、「取引所を登録制とする」「口座開設時の顧客の本人確認」「利用者に対する説明、取引内容等の情報提供」「自己資産と顧客資産の分別管理」「最低資本金などの財務規制」「監査法人や公認会計士による外部監査」「問題のある取引所に対する当局による立入検査、行政処分」――などだ。
改正法案を国会へ提出した金融庁は、仮想通貨に対する規制について監督官庁となる。仮想通貨の発展ならびに利用者保護とビットコイン業者に対する規制のバランスのとれた規制法になることを期待したい。(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 FinTechチーム)
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