デフレ再燃の可能性も、「ヘリマネ」の言葉だけが一人歩き

7月の参議院選挙で国民に信任され、金融政策・財政政策・成長戦略の三本の矢であるアベノミクスを推進する方針には変化はない。イギリスのEU離脱問題などで、グローバルな景気・マーケットの不安定感が続き、FEDの年内の再利上げ観測も遠のいた。ドル・円が100円を下回る円高となるリスクも高まり、企業の値下げのニュースも聞こえ始め、デフレ期待の再燃も危ぶまれている。

足もとで若干円安に戻っているが、日銀の追加金融緩和を織り込む動きであるとみられ、緩和がなければまた大きな円高となるリスクが高い。日銀が重視する短観の企業のインフレ期待も4四半期連続で低下し(1年後が+0.7%、5年後が+1.1%)、目標である2%へは上昇せず、1%でインフレ期待がアンカーしてしまってきているように見える。

1月の日銀の追加金融緩和は「リスクの顕現化を未然に防ぐ」ことが目的で、フォワードルッキングに行われたものであるとしている。緩和当時に想定していた以上に、グローバルな景気・マーケットの不安定感、そしてデフレ期待の再燃のリスクは増しており、更なる「リスクの顕現化を未然に防ぐ」追加金融緩和が7月の金融政策決定会合で必要になってきているとみられる。政府の景気対策との合わせ技で、アベノミクスを再稼動させる印象をマーケットに与えることも必要になってきている。

ただ、日銀による財政ファイナンス(ヘリコプターマネー)という言葉が一人歩きしているため、そのような印象を避け、政府の景気対策の実施より前に行動することを日銀は望むだろう。

実質GDP成長率など目標達成までは、マイナス金利据え置きか

野党は、マイナス金利政策を含む金融政策の手法を批判したが、参議院選挙にあたり、政府は金融政策の手段は日銀の専権事項であるという立場を貫いた。2014年の衆議院選挙の自民党政権公約では、「物価安定目標2%の早期達成に向け、大胆な金融政策を引き続き推進する」とし、日銀に対する大きな政治的圧力が存在した。しかし、金融政策に過度に依存した結果として行き着いたマイナス金利政策への評判は、金融機関だけではなく、国民の間でも芳しくない。今回の政権公約では、金融政策に対する注文、そして2%という具体的な物価目標も無くなっている。

2010年のG20では、リーマンショック後の財政拡大の反動で強い財政再建の方向性で合意し、金融緩和中心の景気対策が推進された。しかし、2016年のG20、そして安倍首相がリーダーシップを発揮した日本でのG7では、金融政策への過度な依存への反動で、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した。

このグローバルな政策の方向性の変化が、自民党政権公約にも表れている。政府からの金融緩和への期待は縮小し、日銀の手段も限界に来ており、これが日銀ができる最後の追加金融緩和になる可能性が高い。日銀が買い入れる国債が不足する可能性が高くなり、2%の物価目標が達成される前に量的金融緩和のテーパリングが起きる可能性が出てきた。2019年10月の消費税率引き上げ後、実質GDP成長率がプラスに回復したことを確認した後、実施は2020年7月になろう。政策金利は目標達成までマイナスで据え置かれるだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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