「トップ1%だけが富を享受」という図式

ただしシリコンバレーも一枚岩ではない。今回の反トランプ書簡を提示したのは、大物とはいえあくまで個人であり、企業を代表してはいない。

そもそもシリコンバレーの支持政党はどこなのだろうか。オバマ大統領の優遇政策などにより、シリコンバレーは概ね民主党支持であるというイメージが広がっているが、内実は少々異なる。

シリコンバレーは、GoogleやAppleなどの巨大企業を生みだす一方で、その果実にあずかれるのは経営層やファンド企業など、一部分の富裕層に限られている。リーマン・ショック以降の不景気を背景に2011年に起こったOccupy Wall Street。不景気への対策を打てない政府への抗議運動において、スローガンとなった「We are the 99%」は米国の資産の30%以上を上位1%の富裕層が所有しており、その中に含まれない99%の人々を指す。ここに象徴される格差問題は、シリコンバレーにも存在しているのだ。

シリコンバレーにおいても状況は同じで、多様性に満ちた理想郷ではなく、実はWASPと呼ばれる裕福な白人層が支配する傾向が根強く、格差社会であるといえる。

「Make America Great Again!!」という理想郷の響きに民主党も焦る

もともと富裕層の支持政党は共和党であり、それはシリコンバレーでも同様なのだ。Facebookの初期投資家である、ピーター・ティール氏は今回の共和党大会に、シリコンバレーから唯一参加しているが、彼は明確に共和党・トランプ氏支持を表明している。AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏も、政治的な立場を表明したことはないが、実は密かな共和党支持者ではないかともいわれている。

ただトランプ氏のあまりに偏屈で独善的な政策案が、シリコンバレー経営層に危機感を抱かせ、それが今回の反トランプ書簡につながったといえる。反対書簡の目的は、あくまでトランプに一言いっておきたい、お灸を据えたいということであり、単純に共和党から民主党指示への鞍替えには繋がらない。今回の書簡が、あくまで個人中心で企業を代表するものではないのも、背景にそういった理由があるからだろう。

富裕層以外も惹かれる、トランプ氏が掲げるかつての豊かさ

一方で、もともと民主党にとって強固な支持基盤である、残り99%の一般人や労働者たちはどうなのか。

たとえ先端テクノロジーへの優遇政策も手厚いシリコンバレーで職を得ていても、テクノロジーの恩恵とは無縁の人々は、日々感じる経済格差に苛立ち、民主党に期待を寄せていた。他方で、労働者に対する諸問題に関して、民主党はなかなか有効な手を打てていない。

そこにトランプ氏が登場した。同氏が声高に叫ぶ「Make America Great Again!!」は、かつて誰もが豊かさを実感できた偉大なるアメリカの復興である。「トランプ氏なら、自分たち残された99%の諸問題を、解決してくれるかもしれない」そう感じた人が、やや無定見とも受け止められる主張への熱狂的な支持の中で、支持政党を急速に鞍替えする可能性が広がっている。

現地時間の7月27日午前、共和党に遅れること約1週間、ヒラリー・クリントン氏が民主党の大統領候補に正式指名された。今年11月に向けて、トランプ氏はクリントン氏と真っ向から、激しい大統領選挙を争うことになる。

トランプ氏はアメリカの国家再生をもたらすのか、それとも極端な孤立主義と差別主義により、アメリカを暗黒面に突き落とすのか。世界さえも揺るがすアメリカの大統領選挙は、いよいよ正念場を迎える。(ZUU online編集部)

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