フィデューシャリー・デューティとは

これからキーワードとして重要度を増す言葉がフィデューシャリー・デューティである。筆者の意訳は「顧客志向を果たす義務」としておく。商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関が、真に顧客のために行動していれば「フィデューシャリー・デューティ」を果たしているということになる。顧客に開示せずに7%弱の手数料を受領していた従来の姿はとても「顧客志向を果たす義務」を果たしていたとは言えないであろう。また保険手数料の開示は金融機関にとってダメージがある。

1.今までの高い手数料が顧客に知れ渡る結果となる(信頼を失う)
2.今後はこれほど高い手数料は見込めなくなる(収益機会を失う)

金融庁の投資家寄りの姿勢、「不透明な手数料」に警鐘を鳴らす姿勢は歓迎すべき事柄である。そして大手5行が来年、あえて保険の手数料開示に踏み切る方向性は、フィデューシャリー・デューティを無視した金融機関は、投資家にそっぽを向かれる結果となることを危惧しているからであろうとも考えられる。

プロである金融機関がアマチュアである投資家に「わからなかったなら、高い手数料を取っても良い」と思う姿が変化してきているとすれば投資家にとっては朗報であろう。顧客思いの銀行員で内心、「お客様に迷惑をかけなくて済む」とほっとしている人もいると信じたい。

フィデューシャリー・デューティの夜明け

大手5行は手数料開示の方向性を打ち出しつつある。しかし、収益基盤が盤石といえない金融機関は、保険の手数料開示に難色を示している。投信の乗換えにメスが入り、更に保険の高い収益性にもメスが入ることになれば、従来のビジネスモデルからの大きな転換を求められることになる。従来の対面金融機関のいわば「負のレガシー」、すなわち高い人件費、店舗家賃、設備などをまかなうためには、高い収益性が必要なのであろう。

しかし新しいビジネスモデルに舵を切ることをしなければならない時代が近づいてきている。生き残っていけない金融機関は再編を模索せざるを得ない。フィデューシャリー・デューティの夜明けは金融再編・変革の夜明けとなる可能性も含んでいる。

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPAN おカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。

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