ネコノミクスは世界に浸透 ハローキティ、ねこあつめ、ねこカフェ…
さて、世界的に有名になったたま以外にも、日本のネコノミクスは案外、浸透している。サンリオの看板キャラクターであるハローキティは、米国でも定番の人気キャラであり、サンリオの年商1000億円の約半分を叩き出す存在であることは、業界では知られている。衣料品会社などの多くの米企業が、サンリオにライセンス料を納めているのだ。
さらに、欧米でもプチブームになった、日本のネコを集めるゲームアプリ「ねこあつめ」は、CNNや米ニュースサイト『クォーツ』などで広く紹介され、「いやされる」として、ダウンロードの40%近くを海外からのアクセスが占めるようになっている。
開発者は「日本でしか通じにくいニッチなネタも結構盛り込んでいるので、申し訳ない」と恐縮しているらしいが、そんなことはない。米国人も大好きだ。人気アプリ分析サイトのApplionによると、米国における9月18日から10月17日までのねこあつめアプリのダウンロード数は、Android部門で月平均145位と健闘。売上額ランキングでは、月平均94位と、なおよい。米ニュースサイト『デイリー・ドット』では、「ポケモンやたまごっちなど、世界を風靡した日本のゲームを彷彿とさせる。星5つだ」と、べた褒めである。
さらに、台湾発祥・日本発で世界各国に広まったねこカフェも、ネコノミクスの一種として報道されている。米国でも東海岸から西海岸に至るまで、各地に数十のねこカフェが設置されて人気を博している。
また、瀬戸内海の愛媛県大洲市にある青島や、宮城県石巻市の田代島など、日本各地のネコ島への観光も、マニアックな米国人旅行者の間ではブームになっており、観光客の落とす金がネコノミクスを形成していると認識されている。
こうしたなか、少数派だが、米国にもネコノミクスの導入を主張する論客もいる。米愛猫家サイト『ラブ・ミャオ』は、サンフランシスコのコミュニティー紙『SFウィークリー』のジョー・エスケナージ記者が、赤字を垂れ流すサンフランシスコ市営鉄道に対し、たまをモデルとする「増収をねらった(ネコ)マスコットの導入を提案したが、市営鉄道当局に即、却下された」ことを伝えている。
市営鉄道当局の言い分は、「ネコにエサやりをする要員を新規雇用しなければならないし、餌代も大変だ」というものだった。これに対し『ラブ・ミャオ』は、「不衛生な市営鉄道の各駅には、ネズミが出没する。これをマスコットのネコのエサにすればよかろう」と、当局の石頭ぶりを皮肉っている。
ネコノミクスにみる比較文化論
たまが神様になったことが多くの米国人に理解不能であるのと同様、ネコノミクスのとらえ方もかなり違う。米国におけるペットとしてのネコ産業の捉え方は、ペットの販売収益・餌代・治療費・ネコ用品など、直接的な経済効果のみをカウントするのが特徴だ。
宮本教授が計算に組み込んだネコ観光、ネコ関連出版、原材料の売り上げによる第一次波及効果、関連産業の従事者の所得増による消費増加という第二次波及効果が入っていない。
さらに、米国においてはねこカフェのあり方も違う。「殺処分されるはずだった捨てネコや野良ネコに新たな役割を与えることで救い、動物のいのちを救う場所」という大義名分がつけられている。だから、ねこカフェのネコたちはみな、拾われた捨て子か野良ネコである。こうでもしないと、「ネコにストレスを与える動物虐待の一種」と見られ、ねこカフェが正当化できないからだ。
こうしてみると、米国において日本のネコノミクスを分析する際には、決して超えることのできない、キリスト教的な「人間や動物は死後、神になれない」「支配者としての人間と、被支配者・被保護者としての動物の間にある役割の溝は埋められない」というバイアスがかかっていることがわかる。
だが、そうしたことはお構いなしに発展する日本のネコノミクスは、禁欲的で罪悪感に衝き動かされる米国のネコ(動物)文化に、いやしと、二元的な考え方からの逃避をもたらしているようだ。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)
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