トランプノミクスによる景気の過熱を注視
FRB(米連邦準備理事会)は、長期的に持続可能な成長率を1.8%としているが、これはここ数年続いている2.0%前後の成長をやや下回る数字である。米国では、2008年の金融危機以前と比べ、低成長・低インフレの状況が続いており「低成長・低インフレだったからこそ景気の拡大が持続可能だった」との解釈も可能であろう。
トランプノミクスは平時としては未曾有の減税と財政支出の拡大となるが、2%程度の成長と1%台のインフレ率からの逸脱はそのまま「持続可能な景気の拡大からの逸脱」となるかも知れず、トランプノミクスの開始は景気後退の到来を早めるリスクがある点に警戒が必要だ。
大局的にみれば、雇用情勢が現状からさらに良くなるとは考えづらい。仮に良くなった場合は、むしろ景気の過熱を心配したほうが良いだろう。雇用者数の増加が20万人を超えるような数字が続いた場合には、堅調な雇用情勢に安心するのではなく、「実力以上の結果が出ている」ことを心配するべきなのかも知れない。
もちろん、トランプノミクスが公約通りに進むかどうかは未知数だ。公共投資の拡大には財源がなく、共和党内から反対の声もある。減税や規制緩和には民主党からの反対も予想されている。また、財源を確保するために輸入品に対する関税を引き上げるとしているが、実施されれば、輸入物価の上昇が国内物価の上昇を招き、景気を後退させる可能性がある。
イタリア国民投票が「否決」されると円高、株安も?
米雇用統計は経済指標としての重要性を失っているわけではないが、週末にイタリア国民投票という大イベントを控えているほか、今月中旬に予定されているFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げが既定路線となっていることから、10月同様、雇用統計の結果がマーケットに与えるインパクトは限定的となる可能性がある。
フェドウォッチによると、11月29日現在で12月のFOMCでの利上げ確率は98%とほぼ100%織り込まれている。
イタリアでは12月4日に憲法改正の是非を問う国民投票が実施されるが、改正案が否決された場合、レンツィ首相が辞任する意向を示している。事実上は現政権への信認投票であり、否決された場合はユーロ離脱を掲げる野党勢力が拡大する見通しで、英EU離脱、米トランプ政権誕生に続き、「脱グローバル化」の流れが加速することになる。
英国民投票や米大統領選挙とは逆に、イタリアでの国民投票は「否決」が有力視されており、レンティ首相の辞任は予想外ではない。それでも「否決」が現実のものとなった場合、短期的には英EU離脱と同様に、資金の逃避先として円が買われる一方で、株式市場はリスク回避の売りが先行することも考えられる。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)
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