「自分が勝てる場所で勝負する」逃げることは恥ではない
『逃げるは恥だが役に立つ』はもともとはハンガリーのことわざである。自分が勝てる場所で勝負することが重要であるーーそんな意味が込められている。「鬼十則」と比較すると、一見軟派なイメージである。しかし、このことわざこそ、現代社会を生きるサラリーマンの矜持として相応しいのではないかと思えるのだ。
「自分が勝てる場所を探す」そんな重要なことに多くのサラリーマンが取り組んでこなかったのはむしろ驚きだ。とりわけ我々銀行員はその傾向が甚だしい。銀行員は特定の分野に特化して能力を発揮するスペシャリストよりも、ゼネラリストであることを求められる。
しかし、本当にそれでうまく人材活用ができるのか。銀行の業務内容は広い。預金、融資、金融商品の販売……銀行員は全ての分野で、それぞれの業務を「そつなくこなす」ことを求められる。仮に本人は融資業務は好きではなく、金融商品の販売を専門に行いたいと思っても、銀行はそんな人材を求めてはいない。だからスペシャリストと呼べるような人材が育たない。
逃げることは恥ではない。むしろ、これからの時代は自分が勝てる場所で勝負する「勇気」を持つことが大切なのだ。
時代の潮目が大きく変わろうとしている
もちろん、自分が勝てる場所を探すのは、そう簡単なことではない。自分はどんな仕事をしたいのか、自分にその能力があるのか、それらを冷静に見極めることが必要だ。
しかし、本当に自分の好きな仕事なら、そして自分の能力が発揮できる分野の仕事なら、きっと良い仕事ができるはずだ。
サラリーマンは苦手な仕事、嫌いな仕事があれば、良い評価を得ることはできない。「苦手を克服する」ことを求められる。しかし、本当にそれが正しいのだろうか。
苦手な仕事があっても良いのではないか。嫌いな仕事があっても良いのではないか。それに勝るだけの「やりたい仕事」があり、能力を発揮することができるのであれば、会社にとっても本人にとってもずっと有意義なはずだ。
ストレスフルな「鬼十則サラリーマン」よりも、自分の得意分野で優れた能力を発揮し、成果を残せるような「逃げ恥サラリーマン」こそ理想ではないだろうか。
我慢することは美徳ではない。
耐えることは美徳ではない。
それは労力と時間の浪費に過ぎない。
「俺たちはこんなに苦労してきた」だからといって後輩や新人に同じことを強要して良いはずがない。そんな組織に未来があるとはとても思えない。
電通の社員手帳に記載され続けてきた「鬼十則」も、2017年版から記載を取りやめるという。時代の潮目が大きく変わろうとしている。私には、仕事に対する考え方を含め、社会全体がこれまでの価値観を大きく変えなければならない局面を迎えているように思えてならないのだ。(或る銀行員)
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