中国人旅行客による「爆買い」が日本を席巻したのは2015年。すでに「爆買い」は今や昔、売れ筋は「高額嗜好品」から「実用消耗品」へ、「モノ消費」から体験型の「コト消費」へシフトしはじめた。インバウンドの新消費形態での勝ち組と負け組を、直近の決算から見比べてみよう。
テンバガー続出、2015年のインバウンド関連相場
訪日外客数は2013年が前年比24.0%増、14年が29.4%増、15年が47.1%増と加速した。2015年の訪日外客数の伸びは驚異的だったうえに、中国人旅行客は高級時計や高級化粧品などといった「高額嗜好品」を「爆買い」した。
株式市場では、インバウンド関連銘柄が大相場となりラオックス <8202> 、ドンキホーテHD <7532> 、象印マホービン <7965> などがテンバガーになるなど、インバウンド関連は一大テーマとなり賑わった。ただ、訪日外客数が16年には前年比21.8%増とスローダウンしたことで、インバウンド関連は15年夏をピークに大きく調整している銘柄がほとんどだ。
観光庁が発表した2017年1月の訪日外客数は、前年同月比24.0%増の229万6000人となり、1月としては過去最高、単月としては2016年7月に次ぐ過去2番目を記録した。今年は中国の春節(旧正月)の休暇が1月末から始まったため、2016年の前年比21.8%増や12月の前年同月比15.6%増をも上回っており、スローダウンしたといっても、まだまだ高い伸びを示している。
訪日外客数は、政府が掲げる20年東京五輪時のインバウンド4000万人にむけて着実に増加しているといえるだろう。
「負け組」代表は百貨店、セイコー、ラオックス、「勝ち組」はドンキ
「高額嗜好品」の売れ行きダウンによる「負け組」の代表は、百貨店だ。日本百貨店協会によると、2016年の百貨店のインバウンドによる購買客数は、18.5%増の約297万人と継続して拡大したものの、売上高は5.3%減の1843億円と減少した。16年の既存店ベースの年間売上は2.9%減なので、インバウンドのマイナス幅は既存店を大きく上回っている。
一方、ドン・キホーテHD(以下ドンキ)は「勝ち組」だ。インバウンドの伸びがいまだに続いている。2016年上期(7−12月)のインバウンドの売上も7.8%増と増収であった。インバウンドの既存店売上も4.0%増である。
ドンキのインバウンド売り上げは、国内既存店売上の2.1%増をはるかに上回っている。訪日旅行客にとってドンキに行くことは、アミューズメントセンターに行くといった体験型の「コト体験」に近いものとらえられている。
ドンキはSNSなどでも口コミで拡散されており、リピーター人気も獲得しているようだ。ドンキの免税売り上げを商品別で見ると、インバウンドの消費志向の変化が明らかである。高額品の「時計・ファッション」の売上構成比は、2015年の2Q(10−12月)には49%に達していた。同期間の消耗品、実用品売り上げにあたる「日用雑貨品」は32%、「食品」は11%だった。
それが2017年2Qになると「時計・ファッション」の構成比は25%に低下し、「日用雑貨品」が48%、「食品」も17%に上昇している。日用雑貨品では特に化粧品と医薬品が好調だ。時計や家電がダメだということで、時計のセイコーHD <8050> 、家電量販店のラオックスなどは完全に負け組だ。
セイコーHDの2017年3月期の3Q決算は売り上げが16.6%減、本業の利益を示す営業利益は58.7%減と大幅減収益だった。特にインバウンド需要の減退で、ウォッチ事業の売り上げは21.2%減、営業利益は52.3%減になっている。子会社で高級宝飾店を扱う銀座の「和光」の決算は赤字に転落した。
ラオックスは筆頭株主が中国系の企業になっており、国内最大の免税店としてインバウンドの「爆買い」のメリットを享受した会社だったが、2016年12月期は売り上げが32.3%減となり営業利益は赤字に転落した。 観光客の財布のひもは固くなり、同社インバウンドの平均購買単価は、前期末平均3万3820円から当期末平均では2万2344円へと下落している。