4月を迎え、私の勤務する銀行にも新入行員が入ってきた。
初日には頭取はじめ役員が新入行員に対し訓示を行うのが慣例だが、私も若き銀行員たちに言っておきたいことがある。「カサ屋になるな!気象予報士を目指せ!」と。

銀行が「カサ屋」と呼ばれるワケ

「銀行は晴れの日にはカサを貸すが、雨が降るとカサを貸さない」皮肉を込めて、そう言われることがしばしばある。残念ながら、一般論としてそれは事実だ。銀行の融資担当者なら、誰だって業績が良い会社に融資したい。いつ倒産するかわからないような会社には融資したくはない。そう考えるだろう。

もっとも、最近では企業の資金需要は低下し、不毛な金利のダンピング競争が銀行の体力を低下させていることもあり、容易にカサを貸すことすらできなくなっている。むしろ、銀行はカサを売ろうと躍起になっている。金融商品の販売による手数料収入だ。

金融商品販売に求められる「本当のスキル」とは

銀行の金融商品販売に携わる私は、最前線で働く多くの行員から、毎日何度も同じ質問を受ける。「どの投資信託を売れば良いんですか?」と。

「そんなバカバカしい質問はやめてくれ」心の底ではそう思いながらもそれらしいアドバイスを行うことになる。とにかく金融商品を売らなければならない。その心構えは銀行員として何ら責められるものではない。しかし、これではただの「カサ屋」ではないか。

雨が降ろうが、晴れになろうがそんなことは関係なく、ひたすらカサを売ることばかりを考える。カサが売れればそれで良い。カサ屋はカサの機能やデザインを客に説明すれば良い。銀行にあてはめれば、投資信託の商品性を学び、セールストークを身につけることによって、カサ屋としては立派な仕事ができるようになるだろう。

しかし、もう一歩フィールドを広げるべきではないか。たとえるなら、「気象予報士」のような仕事である。気象予報士がカサを売ることはない。彼らは気象庁から提供される数値予報資料など高度な予測データを、適切に扱うことのできる技術者だ。気象情報という防災と密接な関係を持つ情報が、不適切に利用され、社会に混乱をもたらすことのないよう責任を持って対応するスキルを彼らは有している。

同時に、彼ら気象予報士の恩恵を多くの人が受けている側面もある。大雨が降る可能性がある、台風が上陸する可能性がある、農作物に被害がおよぶ可能性がある。こうした情報を提供することで、結果としてカサが売れるということは当然あるだろう。カサだけではない、人々が災害から身を守るための様々な防災品が売れるだろうし、時には災害を避けて避難することだってあるだろう。

では、気象予報士を金融商品の販売に置き換えると、どうだろう。単に個別の金融商品のセールスを行うのではなく、マーケット情報や税制、社会全体の抱える問題など人々の生活と密接な関係を持つ知識や情報を適切に扱える人物ということになるだろうか。そう考えると気象予報士と銀行員には案外多くの共通点があるのかも知れない。

カサ屋になるな!気象予報士を目指せ!

かつて私は販売に悩む若き銀行員にこんな質問を投げかけたことがある。 「なぜ、空の色が青いのか、君は説明できますか?」 と。

光は波長によって、色が違って見える。 太陽の光は、地球の大気圏に入ると、空気中の細かいチリにぶつかり、光の向きが変化する。短い波長の光は、チリにぶつかる確率が高いので、あちらこちらに光が散らばりやすい。つまり、空が青く見えるのは、波長の短い青い光が空いっぱいに散らばっているからなのだ。

もちろん、これはたとえ話であり、なぜ空が青いのか説明出来ても投資信託の販売が伸びるわけではない。お客様の利益に直結するわけでもない。しかし、既存の世界観・常識を変えるためには「なぜ空が青いのか」を知ることは大切である。

銀行員の多くは既成概念に縛られ、自由に発想することの重要性やその楽しさを忘れてしまっている。その結果、金融の新しいトレンドであるFintechなどの技術革新からも多くの銀行が取り残される恐れがある。金融の世界だけが、今後も閉鎖的で技術革新とは無縁であり続けることなど許されるはずがない。

だからこそ、我々の仕事は「カサ屋」であってはならないのだ。雨の日も晴れの日もひたすら「カサを売り続ける」だけでは見向きもされなくなるだろう。世の中にあふれる情報を整理し、付加価値をつけ提供する「気象予報士」のような仕事ができて初めて顧客からの信頼を得ることができるのだ。

金融業界の未来を担う若き銀行員たちよ。君たちはカサ屋になってはいけない。「カサ屋になるな!気象予報士を目指せ!」(或る銀行員)

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