3時間の映画チケットを購入し、30分ほど見ているが余りにもつまらない。だけど、せっかくお金を掛けたし、ここまで時間をかけたのだから最後まで見ないともったいない気がする……。こんな体験をしたことはないだろうか。

お金や時間を大切にするという点では非常に素晴らしいが、行動経済学ではサンクコスト(埋没費用)と呼び、非合理的な行動だとしている。途中で映画館を出れば、チケット代金こそ無駄になるが、残りの2時間30分を自由に使うことができる。一方、見続ければ、チケット代金と3時間を丸々無駄にすることになるからだ。これがもっと「大きなお金」が動くシーンだとどうだろうか。

自分のお金ではないとサンクコストに抗わない

サンクスコスト,行動経済学
(写真=PIXTA)

少し大きな視点で考えてみよう。例えば新幹線や高速道路の延伸計画。あれば非常に利便性が高いのは間違いない。しかし、建設費が高額で、維持費も嵩む。そして、何十年も前から粛々と準備を進め、ようやくここまでやってきた。何とか当初の予定通りの延伸をさせたい。自分であっても最後までやり遂げたいと思うだろう。しかし、延伸したところで経済効果が見込めないとしたらどうだろうか。

経済効果は期待できる試算であって、目に見える効果は無いかもしれない。もし、これから計画を作るのだとしたら、絶対に計画自体が立案されないであろうという状態だとしても、今までかけた時間とお金と関係者の労力を無駄にすることはできないと、延伸が終了するまでひたすら計画遂行が求められる。サンクコストに抗う力がないのは、自分のお金ではないからだろうか。

今辞めたらもったいない習い事 「辞め時」はいつ?

家計支出で馬鹿にならない項目として習い事がある。教育費の一つであり、学校外学習費という名目でもある。教育とは非常に厄介で、成果が目に見えるのに時間がかかり、成果自体を測定することが困難である。

一つだけ確かなことは、成果を得るには資本(お金と時間)を投下するしかないという事である。英会話、ピアノ、書道、武術、算盤、スポーツなど子供の習い事は非常にたくさんある。

習い事はいつまで続ければいいのだろう。いつ辞めればいいのだろう。答えは「いつでもいい」である。しかし実際はそうならないことが多い。これもサンクコストで説明がつく。

例えば家計の収支がギリギリであったり、赤字である家庭の家計を改善するには支出を減らすという方法をとるのが一般的である。そこで、あってもなくてもいいという視点で習い事を減らすという話をすると、返ってくる答えで最も多いのは、「せっかくここまで続けたのだから、このまま頑張って続けたい」というものである。これも完全にサンクコストにはまっている状態である。

今まで時間とお金と送り迎えの労力をかけて、習い事を続けてきた。お陰で進級や昇級するなど、習い事の中での評価でも結果が見えてきた。それをいまさら辞めることはできない、ということのようだ。本来の支出を削減するという目的が、今まで頑張ってきたという感情に支配されている。結果として支出は改善されないことになる。

保険の見直しを阻む「気持ちの壁」

家を買いたい相談を受けるときに、保険の見直しを実施して、不要と思われる契約の解約を促すときにもサンクコストは現れる。

よくあるのが積立タイプのプランを解約検討するときで、今まで100万円支払った保険料が、いま解約すると30万円しか戻ってこないとする。返戻率は30%で、損失は70万円。このまま保険料の支払いを続けて、支払総額が300万円になった時点で解約すると、150万円戻ってくると仮定すると、返戻率は50%、損失は150万円となる。

どう考えても今解約する方が損害は少ないのだが、そもそも損失が発生している点と、返戻率というパーセンテージはこのまま続けた方が、メリットがあるように表示されている。となると、人の気持ちは合理的な判断を下すことができず保険の継続をすることになる。

毎月1万円の保険料を払っていた家庭で35年の住宅ローンを組む場合、解約すれば約300万円の住宅ローンを借りる予算を確保できるため、物件の予算を300万円上げることができる。毎月3万円の積立てであれば、実に1000万円近くの住宅予算を確保することが可能となる。しかし、現実はサンクコストに引っ張られて保険の継続を検討するケースが多い。そして十分な予算を組めないまま住宅を購入することになる。家を買いたいという希望を、損したくないという気持ちが阻むケースである。

いかがだろうか? 自分はサンクコストには惑わされないと感じる方もいるだろう。しかし、自分の気づかぬところで、非合理的な選択をしているケースがあるのも事実である。客観的な視座を確保することで、サンクコストに影響されずに意思決定をすることで、もっと上手にお金を管理することができるはずである。

寿FPコンサルティング 高橋成壽
慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、金融関係のキャリアを経て2007年にファイナンシャル・プランナー事務所を設立。現在は寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター、寿アセットマネジメントなど、複数の金融サービス会社の代表を務める。メディアへの出演多数。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)がある。FPサービスとして「ライフプランの窓口」、「相続センター神奈川」を企画運営している。

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