中国の病院はまるで戦場である。まず受付で初診料を納める。どんな重症患者でもこれ抜きに治療は始まらない。手術中に患者と値上げ交渉をする執刀医、過剰診療、医療事故、医師に対する金品の授与など、エピソードは事欠かない。中国通の日本人によるびっくり経験談も、こと医療に関しては誇張はない。ほとんど真実である。中国の医療とは、最も洗練を欠き、改善を急務とする業界なのである。

そんなおり、アリババ創業者の馬雲氏は“未来医院”構想を発表し、医療分野への野心を明らかにした。ニュースサイト「今日頭条」が伝えた。彼の言う“未来医院”とはどんなものなのだろうか。

アリババの「未来医院」とは

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(画像=PIXTA)

アリババは、浙江大学付属病院に5億6000万元の寄付を行った。そしてAIによるスマート医療サービスを推し進め、中国大衆の診療難や高額医療費の問題を解決したいと表明した。

“未来医院”の中心となるのは、支付宝(アリババ集団のモバイル決済プラットフォーム)による、来院から支払いまでの一貫したサービス体系である。患者は一連のスマホ操作によって、診療過程を簡素化できる。診療予約から初診登録、再診から治療費支払いまで、支付宝上で完結させる。また治療後には、医院を客観的に評価する機能もある。

また診断と再診の繰り返しは、資源の浪費に過ぎず、効率が悪い。投薬だけの目的なら、いちいち来院の必要はない。アリババ旗下の医療旗艦店を使うと、迅速な宅配まで可能だからだ。

支付宝の医療システムとその効能は、まだ完全とはいえない。しかし、芝麻信用(アリババ集団の信用調査会社)の信用体系を利用すれば、回復後までを見据えた、医療費支払い計画を策定できる。患者の医療費支払いに関わるプレッシャーを大きく減らすことができる。

この“未来医院”は、オンライン、オフラインの相互通行により、すでに初歩的な実現を見ている。もう一歩進め、医療資源の配置見直しと、医療サービス水準の改善が実現すれば壮挙である。馬雲が偉大な“実践家”であることを忘れるべきでないと記事は結ばれ、大きな期待を寄せている。

騰訊(テンセント)の国家プロジェクト

しかし、アリババの“野心”表明はむしろ遅いくらいである。2017年、医療AIは猛発展を遂げた。1年を通じて28社の医療ベンチャー企業に、融資が下りているのである。その一方、騰訊(テンセント)百度(バイドゥ)など他のIT大手も医療分野には注力している。

とくにアリババのライバル、騰訊は、医療映像の分野で、国家AIプロジェクトの指定されている。「騰訊覓影」という映像を用い、癌や糖尿病、眼科の診断に利用する。提携医療機関はこの半年間で100に近付いた。

国家プロジェクトに選定されたのは、AI技術以外にも理由がある。それは支付宝と並ぶ、モバイル決済「微信支付」を持ち、微信医保支付という医療に特化したシステムをすでに稼働させているからだ。さらに保険会社を持ち、微信オンライン医事相談なども整っていた。この「インターネット+スマート医療」システムの導入をさらに進めていく。

これに対しアリババは、ビッグデータと人材の提供を行うプラットフォームを開放するという構想を掲げている。これを“医療大脳”と名付け、すでに健康診断などのビッグデータを積極的に収集している。しかし医療部門のアピール度では後れをとっていた。今回の“未来医院”は、反撃の合図なのかもしれない。

最初に紹介したように、中国の医療界は前近代としか思えない混沌とした状態にある。旧来医療の一掃は、壮挙といえる大革命である。その方法には、いろいろな選択肢があるべきだ。また受入れキャパはとてつもなく大きい。アリババ、騰訊だけでなく、ベンチャーや外国企業にも、大きなチャンスがあるはずである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)