(本記事は、橋下徹氏の著書『トランプに学ぶ現状打破の鉄則』=プレジデント社、2019年8月11日刊=の中から、ZUU online編集部の責任で一部を抜粋・編集しています)
自称インテリは、トランプを酷評しているけど
トランプについては、学者やコメンテーターなどいろいろな「自称インテリ」が、大統領就任以来ずっと「バカだ」「あいつはむちゃくちゃだ」と批判している。でも、僕はトランプを評価している。トランプのおっちゃんの言動には「現状打破の鉄則」が詰まっているんだ。
僕自身をトランプと並べるつもりは毛頭ないけど、僕が政治家時代にやってきたこととトランプが今やっていることには共通点も多い。僕やトランプが「破壊者」として求められた時代の状況も似ている。だから、一見むちゃくちゃな彼の行動が、膠着した現状を打破するためにどんな考えから導き出されているか、僕は自称インテリよりも理解していると自負している。
まず、トランプはバカじゃない。僕はアメリカに行って、実際にトランプタワーも見てきた。あのド派手なビルの趣味がいいとは思わないけど、浮き沈みはあっても不動産業であれだけ成功するのはすごい。誰にでもできることじゃないよ。そして、成功している事業家に「バカ」はいない。
彼の自伝を読む限り、ものすごいハードワーカーで勉強家でもあるようだ。そして、後述するけど、トランプの発言、態度振る舞いは、実践的交渉術として非常に戦略的でもある。
それに、トランプはむちゃくちゃな「礼儀知らず」でもないらしい。そもそも、トランプと実際に会ってある程度しゃべったことがある「自称インテリ」って、ほとんどいないんじゃないかな。会ったこともないのに、アメリカのメディアのバイアスのかかった報道を見て、「あーだこーだ」と偉そうに言ってるだけ。
僕は、安倍晋三首相から「トランプ氏はゴルフでも礼儀正しかった」と直接聞いたし、安倍さんが大統領選直後にトランプタワーを訪れたとき、警備上の安全性を無視してまで安倍さんを1階まで見送ったトランプの姿を映像で見ている。彼が「政治家」というより「ビジネスパーソン」だから、客を丁寧に送り出すことが習慣になっているのかもしれないけれど、ここまでする大統領はなかなかいないよ。
大前提として、トランプが醸し出すあの「悪役感」は間違いなく彼の演出だ。悪役キャラで通すことには、大きく2つのメリットがある。
1つめは、人に強いインパクトを与え、自分のメッセージを世間に広く浸透させられること。
政治家は、無名よりも有名であるべし。自分のメッセージをより多くの人に伝え、より多くの人に支持されてナンボの世界だ。いくら「いいこと」を言っていても、誰も聞いてくれなかったら、それを実現しようがない。だから、自分の政策を実現するために、多くの支持を受けられるよう、ある程度の「演出」をするのは当然だ。ただし、自分の今の地位を守るために、保身の意味でイメージづくりをするのは言語道断だけどね。
小池百合子さんが都知事選のときに打ち出した、「都議会冒頭解散」というメッセージもそうだし、その後大騒ぎした築地市場の豊洲移転延期の件やオリンピック会場の再検討の件も、狙っているのは「インパクト」。
「善人」として強いインパクトを与えられれば、そりゃもちろんそのほうがいいけど、善人イメージをつくるには時間がかかるし、何より難しい。トランプはテレビに出演していたこともあるから、その経験からイメージづくりについて学んでいる部分も大きいかもしれないね。
僕のテレビに出ていた経験からすると、芸能人でも毒舌の「悪役演出」をしている人は結構多い。でも、テレビに出ていないときの顔は、みんなとても知的で、礼儀知らずでもなんでもない。本当に悪い奴だったら、テレビ業界になんか残っていられないよ。
2つめは、実際に会ったときのギャップによって「交渉力」が上がること。
ガンガン言う「悪人キャラ」の人が、実際に会ったときに愛嬌のあるところを見せると、それだけで多くの人はほだされてしまう。「実はいい人なんだ!」ってね。現状を打破するための交渉の基本は、「脅し」「利益・譲歩」「お願い」。
最初に悪人キャラを強烈に出すと、そのあとちょっと「善人」な部分を見せるだけで、相手は結構安心するし、ホッとする。それだけで相手は利益を得たように感じてしまうんだ。これを「仮想の利益」という。
こちらはなんの持ち出しをしなくても、相手が勝手に利益を感じてくれるんだから、やらない手はない。
僕も若い頃は茶髪にジーパンで、無理して(笑)頑張っていたけど、それもある種の演出だ。茶髪なんて、よく考えたらどうってことないのに、当時は、弁護士が茶髪にするだけでちょっとした話題になったんだ。あの頃は、その出で立ちで少し敬語を使っただけで「礼儀正しいんですね」と評価されたり、「よく笑うんですね」と喜ばれたりもしたね(笑)