(本記事は、橋下徹氏の著書『トランプに学ぶ現状打破の鉄則』=プレジデント社、2019年8月11日刊=の中から、ZUU online編集部の責任で一部を抜粋・編集しています)

格下の人間に対して「効く」トランプ式人間関係構築術

人間関係
(画像=nep0/Shutterstock.com)

トランプは、個人的な人間関係の形成が必要だと感じたら、相手のポジションや格なんかをまったく気にせず、直接、対等な関係を築こうとする

2018年6月の金正恩労働党委員長との初会談における態度振る舞いが、まさに、そうだったよね。

トランプは世界最強のアメリカの大統領。金正恩は東アジア最貧国の北朝鮮の指導者で、しかもトランプの半分くらいの年齢だ。それでもトランプは偉そうな態度や雰囲気をまったく出さず、むしろ自分のほうが下手に出て、親しみやすい空気を演出していた。

普通だったら、相手に弱さを見せないように肩ひじを張ってしまうところだけど、トランプは「金正恩といつから友人なんだよ!」と突っ込みたくなるくらい、柔らかい雰囲気を出していたよね。北朝鮮は自国内で、金正恩がトランプと対等に渡り合っているような映像をプロパガンダとしてガンガン流すだろう。

ほんと、トランプは達者だなと感心したよ。

こういうことはメンツや儀礼・格式などを重んじる、政治や自称インテリの世界にどっぷり浸かっている者にはなかなかできない芸当だ。トランプが「交渉を成立させることが第一」と割り切れるビジネスマンだからこそできる態度振る舞いだと思う。

トランプは、国連総会で金正恩のことを「チビでデブのロケットマン」と罵り、対する金正恩はトランプに「狂人の老いぼれ」と返していた

戦争に突入するのではないかと危ぶまれたくらい激しく対立しておきながら、直接会えばトランプは金正恩を褒めに褒めまくり、「信頼できる人間だ」「才能のある人間だ」「あの歳で国を引っ張るというのはたいしたもんだ」と持ち上げた。そして、いつでも相互に直接電話ができるようにと、電話番号の交換もしたらしい。

それに比べて、オバマ前大統領のような人間は、北朝鮮くらいの国の指導者にわざわざ自分が会う必要はないと感じるのだろう。綺麗事が好きなオバマ前大統領タイプの人は、普段は「人間は平等だ!」とか言っておきながら、人間の「格」というものを気にするんだ。

他方、トランプのような現実主義タイプの人間は、そんなものよりも、交渉の成果を重視して、相手の「格」などは二の次になる。

だから、トランプは首脳会談において、金正恩をバカにしたような態度は一切取らなかった。全世界が注目している会談において、金正恩に対して威勢のいいことをまったく言わなかったんだ。

もちろん、そんな態度振る舞いのなかでも、「トランプらしさ」をふんだんに盛り込んでいたのはさすがだ。金正恩が話し終わった後に、トランプは親指を立てるポーズ。やりすぎにならない程度に、金正恩の肩や背中に触れるコンタクト。

昼食のデザートには一緒にハーゲンダッツのアイスクリーム(金正恩がハーゲンダッツのアイスクリームを食べている姿を想像するだけで笑ってしまうよ)。散策途中には、アメリカ大統領専用車両「ビースト」の内装を金正恩に自ら説明。

金正恩を丁重に扱うんだけど、決して彼を神格化しない。自分をわざと優位なポジションに見せるのではなく、相手を抱き込みながらお互いを庶民目線まで降ろしてくる。全体的な雰囲気として、「若い金正恩を優しく大きく包み込むトランプ」を演出してみせた。決して偉そうにはしないんだけど、それでもトランプのほうが上だな、という印象を世界に与えたよね。

それに対して、金正恩との会談の直前に参加していたG7首脳会談は、トランプはとっとと早めに切り上げていた。「時間の無駄だ」とまで言い放った。権威ある(と自称インテリには思われている)G7首脳会談を、ここまで罵ったアメリカ大統領はかつて存在しない。しかも「G7首脳宣言は認めない」と言い放ち、議長国であるカナダ首相のトルドー氏には「弱虫め!」とツイッターで悪態をついた

トルドー氏が自分を強く見せるためか、G7首脳宣言にかこつけて、議長声明としてトランプ批判を強烈に展開したことに対してトランプはやり返したんだけど、カナダ首相に対するあの悪態が、金正恩に対する丁重さをさらに引き立たせていたね。

これから激しく厳しい交渉をしなければならない相手に対して、自分のキャラクターを全力で売り込み、最後はトップ同士で話を付けることができるような環境だけは整えておく。これこそが国家の指導者、政治リーダーの役割だ。

これは、自称インテリたちが1万人束になってもできないことだね。

ちなみに、2019年2月に行われた2度目の米朝首脳会談は「決裂した」と報じられた。だけど、北朝鮮の非核化なんて、そんな簡単にできることじゃないよ。これまで約25年以上にもわたって、国際社会も、各国の政治指導者も、みんな失敗してきたんだから。たった2回の米朝首脳会談で、しかも数年ぽっちで、そんな理想が一気に実現するわけがない。

北朝鮮の非核化に向けて現状を打破するためには、まずは原則に則って、莫大なエネルギーを投じて事態を動かすことだ。トランプは、徹底した軍事的圧力をかけることで、戦争寸前までボルテージを上げて事態を動かした

その次は、事態を正しい方向に持って行くこと。トランプは、さまざまな反対意見を振り切って、米朝首脳会談を実行した。

協議はこれから、まだまだ続くだろう。トランプは北朝鮮に圧力をかけ続けている。しかしその一方で、金正恩のことを褒めたたえ、人間関係が切れないようにしている金正恩もトランプとの人間関係までは切れないから、トランプに書簡を出す。

そしたらトランプは、「金正恩から心温まる美しい手紙がきた! これから前向きなことが起きる!」と嬉しそうに記者会見で述べる。裏ではガッツンガッツン、プレッシャーをかけているのに。ほんと、たいした交渉人だ。

こういった態度振る舞いのトランプについて、その人間性を批判する自称インテリは多いけど、本当に人間的に欠陥があるなら、家族、特に子どもは離れていくよ。何度か離婚はしているようだけど、トランプには今のところしっかりと家族がついてきている。

それに、本当に人間的に問題があれば、支持者を必要とする政治家なんてそもそもやっていられない。

僕も政治家時代は、人間性を徹底的に批判されることも多かった。もちろん僕は自分でも、道徳的に立派な人間だとは思っていない。行儀も悪いしね。それでも、妻と7人の子どもたちがついてきてくれている。

ちなみに父の日には、7人の子どもからの寄せ書きと、特別ブレンドのコーヒー豆をもらって、長男が早速コーヒーをドリップしてくれた。

いつも思うんだよね。政治家をやっていくには、途方もない数の支援者が必要になる。その支援者には、選挙のときに票をもらうだけでなく、ボランティアで動いてもらうこともある。さらに、プライベートの友人もいる(僕の場合は数は少ないけどね)。

何が言いたいかというと、「橋下の人間性は最低だ!」と罵ってくる自称インテリに限って、友達や支援者が少なそうな風貌をしているんだよ。彼ら彼女らを見ると「自分の仕事を犠牲にしても、こいつのためにボランティアでとことん働いてやろう」と思ってくれる友人や知人がいなさそうに見えるんだよね。でも、そういう奴に限って、他人の人間性をとやかく言うんだよ。

僕は、たしかに人間的に立派なわけではない。だけど、僕の人間性を否定してくる自称インテリ連中よりも、まだ周囲の者を惹きつける人間性というものを持っている自信がある。

「お前らよりも、多くの人から信用されているよ!」と、言ってやりたいね。僕を批判するなら、人間性を罵るんじゃなくて、政策を具体的に批判してこいっていうの!

トランプに学ぶ現状打破の鉄則
橋下徹(はしもと・とおる)
1994年3月早稲田大学政治経済学部卒業・司法試験合格。1997年弁護士登録。翌年、大阪市北区で橋下綜合弁護士事務所を設立し、独立。2003年4月『行列のできる法律相談所』にレギュラー出演開始。2008年1月27日大阪府知事選。183万2857票を獲得し、圧勝。2008年2月6日大阪府知事就任。2010年4月19日大阪維新の会創設。2011年12月19日大阪市長就任。2015年5月17日大阪都構想の賛否を問う住民投票。得票率差1%未満で否決される。2015年12月18日任期満了で大阪市長を退任。政界引退。現在に至る。

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