(本記事は、橋下徹氏の著書『トランプに学ぶ現状打破の鉄則』=プレジデント社、2019年8月11日刊=の中から、ZUU online編集部の責任で一部を抜粋・編集しています)

大金持ちのトランプには、せこい欲はない

信頼
(画像=Black Salmon/Shutterstock.com)

トランプは「アメリカ・ファースト」という強烈なメッセージで国民の不満をすくい上げ、大統領の座を見事射止めたわけだけど、トランプ自身の境遇を見れば、セレブの代表とされるヒラリー・クリントン氏と大差はない。彼も間違いなくセレブと呼ばれる側の人間だ。

ただしトランプは、政治的な力を駆使して財を築き上げたわけではなく、自らの才覚のみで財を築き上げた。閣僚にも、桁外れの資産を持っている、えげつない金持ちを揃えた。

僕は、そんな彼だからこそ、信用できるとも思っている。

僕は政治家時代、たくさんの政治家を間近に見てきたけど、国会議員の多くは、民間人に戻ったら間違いなく給料も生活レベルもダウンする。そういう人間は自らの生活レベルを守るために、政治家・国会議員であり続けることが目的になってしまうことが多い。

だから「当選すること」が何よりも大切なことになり、心にもない綺麗事を言ったり、批判を食らいそうな大改革を避けることが多かったりする。結局、国民のためになることより、自らの保身を考えちゃうんだよね。そういう政治家には、現状を変えることはできないよ。

でも、トランプにはそのような保身がない。だって、大統領なんかやらなくても、十分稼げるんだから。トランプには、日本の国会議員みたいなせこい欲はないだろう。純粋に、今のアメリカを変えてやる、という強い思いが原動力になっているのだと思う。

「トランプは権力欲が強い」「いや、名誉欲だ」と言う人たちもいるけど、そういう人たちは、政治がなんであるかを知らない人たちだね。政治家とは本来、権力欲や名誉欲の塊でいい。でも、金銭欲に走る政治家は最悪だ。多くの政治家は金銭欲に走ってしまっているけどね。

あとは、権力欲と名誉欲の中身次第。

政治の本質は権力。しかし、その権力を獲得することが自己目的となるのは最悪だ。自分の地位を守るため、自分の利益を得るために権力を使うことも最悪。権力をあくまでも「手段として」活用し、有権者のために、地域のために、国のために最善を尽くすというのが政治の役割だ。

メディアや自称インテリには権力を毛嫌いする人が多いけど、自称インテリたちがいくらもっともらしい持論を述べても、それだけでは世の中は何も変わらない。

本来、普通の人ならできないことを実行するのが権力の行使だ。富のある者から富を奪って、富の少ない者に移転する。多くの人に影響のある計画を決定して、実行する。これらは、自称インテリたちのおしゃべりでは絶対に実現しない。権力だけがそれを可能にする。

そして、自分の利益のためではなく、他人のため、地域のため、国のため、次世代のために、命を削りながらでも仕事ができるのは、自分が自分に与える名誉への納得感以外の何ものでもない。もちろん、周囲に評価されたいという承認欲求は人間なら誰でも持っているものだけど、そんなものだけでは、本気の政治はできない。

社会的な名誉くらいのことで、命を削って、自分の生活を犠牲にしてまで、政治をやってられるか! 逆に、社会的名誉ほしさに政治をやっているなら、それはもはや本気の政治ではない。

政治家の名誉とは、自分自身の人生への納得感のことだ。この世に生を享けた以上、何らかのかたちで、他人のために、地域のために、国のために、次世代のために、少しは役立つようなことがしたい。それをやって死ねるのであれば、自分の人生に少しは意味があったと納得できる。

命を削りながら、生活を犠牲にしてまで、本気の政治をやれるのは、このような権力欲や名誉欲のためだと言っていい。ちょっと逆説的な言い回しだけどね。そして、本気の政治をやっていない政治家は、悪い権力欲や悪い名誉欲が原動力になっていることが多いね。

僕は政治家になる前に、このような表現で政治を語ったことがあったけど、実際に政治家をやってみたら、思った通りだったよ。そしたら、案の上、バカな自称インテリが、かつての僕の表現を持ち出して「橋下は権力欲や名誉欲のために政治家をやっている!」と大騒ぎしていたよ。そいつは自分で哲学者だと名乗っているけど、もっと脳みそを働かせろよな!

僕も政治家時代は強烈な批判を浴びせられ続けた

まあトランプは、周囲に評価されたいという承認欲求は強いんだろうけど、それでも、今のアメリカをなんとかしたい、現状を変えたいという思いも強いことに間違いはない。政治を使って小金を稼ごうなんていう、せこい金銭欲はないだろう。むしろ、自称インテリたちが応援していたヒラリー・クリントン氏のほうが、政治を使ってカネを集めていた疑いがあったくらいだ。

このようなトランプだからこそ、彼の発するメッセージはどれもこれも強い。熱烈な支持を得る半面、強烈な反発も食らう。そんななか、大きな変革を目指して、反発の出る状況をあえて選ぶのはすごいことだ。口で言うのは簡単だけど、やるのは大変なんだよ。これは、実際にやってみないとわからないことだ。

だから、バランスを取りながら、批判も出ない代わりに、支持もそれほど強くない、そんなヌルい状況に乗っかって、政治家生命を延命しようとする政治家のほうが多いよね。

トランプほどではないけど、僕も政治家時代は強烈な批判を浴びせられ続けたね。

でも、逆に支持してくれる人も熱烈だった。緩い支持は風の流れで簡単に離れてしまうけど、熱烈な支持は揺るがない。どれだけ強い批判の嵐が吹き荒れようとも、熱烈な応援のお陰で、大きな改革をいくつも実行できたと思っている。だから、批判や反発が出れば出るほど、僕の感覚では「改革が進んでいる」と思っていた。

もちろん、批判のほうが圧倒的に強くなれば退陣させられる。それを理解した上で、強烈な批判と強烈な支持を巻き起こす政治家こそが、変革を起こす真の政治家だ。批判も緩い代わりに支持も緩い政治家は、学者や自称インテリたちとたいして変わらない。

特に、中道、ど真ん中の政治ということを主張する政治家に、その「緩い」傾向が強い。ど真ん中はいいんだけど、彼ら彼女らは、右派からも左派からも批判を受けない道を探っているように感じる。そんなヌルいことでは現状変革など起こせない。右派からも左派からも批判を浴び、右からの岩、左からの倒木を押しのけながら、真ん中の道を広げていくというのが、これからの時代に必要な政治家だと思う。

僕も最近は、右派からも左派からも激しく批判される。そのたびに「あー、俺は真ん中の道を歩んでるんだな」と実感するね。

僕は、トランプはこれからも、格好つけたりバランスを取ったりせず、自分の道を進むと思っている。世間や世界から大批判を受けることを恐れて、今まで誰も手を付けなかった問題について、現状打破を試みる道を歩んでいくのだろう。そのためにも、目先の自称インテリたちからの支持なんか気にせず、普通の人なら腹の中で収めるような本音もバシバシ口にしていくんだろうね。

そういう意味で、トランプは自称インテリたちが言うようなバカではない。ちょっと考えたらすぐにわかることなんだけど、偉そうにトランプのことをバカだアホだと罵っている自称インテリたちよりも、トランプのほうがよほど社会において成功を収めているんだよね。僕もいろんな自称インテリたちに人格攻撃されたけど、「お前たちよりはマシな父親だし、成功した法律事務所の経営者だよ!」と言ってやりたかったよ。

それに、トランプのあそこまでの「悪役キャラ」はすごいと思うよ。普通は、あそこまではできない。人間、本能的に「いい格好」をしちゃうからね。オバマ前大統領がその典型例だ。

それにしても、政治家には「いい人キャラ」を演じている偽善者が多いよね。僕は政治家と実際に接してみて、その裏表の激しさを実体験したよ。政治家の「悪役キャラ」と「いい人キャラ」。どちらを信用できるかと言えば、僕の実体験上は「悪役キャラ」かな。

自分をよく見せようとも思ってないし、変に取り繕ったりもしない。二面性もない。このようなトランプのストレートさは、今後も国民の熱烈な支持と強烈な反発を巻き起こしていくだろうね。

トランプに学ぶ現状打破の鉄則
橋下徹(はしもと・とおる)
1994年3月早稲田大学政治経済学部卒業・司法試験合格。1997年弁護士登録。翌年、大阪市北区で橋下綜合弁護士事務所を設立し、独立。2003年4月『行列のできる法律相談所』にレギュラー出演開始。2008年1月27日大阪府知事選。183万2857票を獲得し、圧勝。2008年2月6日大阪府知事就任。2010年4月19日大阪維新の会創設。2011年12月19日大阪市長就任。2015年5月17日大阪都構想の賛否を問う住民投票。得票率差1%未満で否決される。2015年12月18日任期満了で大阪市長を退任。政界引退。現在に至る。

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