せっかく自分の資産を投じるのなら、創業から間もないシード期、アーリー期のスタートアップに惜しみなく投資する「エンジェル投資家」となり、事業が大きく育つ手助けをしたい。それは、投資を検討する誰もが一度は考えることかもしれない。
スタートアップの資金調達市場は年々拡大しており、一般社団法人ベンチャーキャピタル協会の調査によれば、2018年のスタートアップ資金調達金額は3880億円と、2013年(829億円)に比べて4.7倍となった。
2019年も勢いは加速しており、フォースタートアップスが2020年1月に発表した「国内スタートアップ資金調達額ランキング(2019年通期)」によると、累計調達額が100億円を超えるスタートアップが2018年は2社だったのに対し、2019年は4社あるという。
ここでは、そんな“エンジェル投資家”のマインドにわずかにでも憧れる読者へ向けて「エンジェル投資家になる方法」をいくつか紹介したい。
目次
エンジェル投資家とは?
エンジェル投資家の定義は厳格には決まっておらず、「未上場の企業(特にスタートアップ)に出資する個人の投資家」という大きな枠組みがあるだけだ。
投資額はVC(ベンチャー・キャピタル)のような数億~数十億円というような多額ではなく、数百~数千万円であることが多いという。エンジェル投資家の属性としては、自身も起業家であることが多く、保有する資産を後進の創業者たちへ循環させ、支援しているとも言えるだろう。
創業期にある企業は売り上げや商品などの実績がほとんどなく、ビジネス戦略やサービスの差別化といったプレゼンテーション資料のみ、あるいはそれすらない場合もある。そのため、基本的には金融機関やVCでは融資を受けることが難しいとされる。
その点、個人投資家は自身の資産、いわばポケットマネーから投資をする。たとえ実績がなくとも「この会社を応援したい」と思ってもらうことができれば、資金を調達できるというわけだ。
エンジェル投資家になる3つの方法
エンジェル投資家は起業経験者であるケースが多く、投資のきっかけはオフィスに直接届くメッセージだったり、エンジェル投資家個人のSNSであったりするという。このため、そもそも起業家や著名人でなければエンジェル投資家としての土俵に上がることもできないのではないかと感じる人もいるかもしれない。
だが近年、日本では大きな「起業ブーム」の波が起きており、日々さまざまなビジネスプランをもった新たな起業家が誕生しているのだ。もちろん資金が潤沢でないというスタートアップも多く、前に挙げたような著名なエンジェル投資家からの投資を受けられるのはごくわずかな経営者のみ。そこからあふれた企業の中にも、優れたアイデアや可能性を秘めた企業があるかもしれない。その中から大きく成長する企業が現れれば、大きなリターンを得ることもできる。
実際に個人投資家がベンチャー・スタートアップ企業へ投資をすることを想定し、3つの方法を紹介する。
1.ベンチャーキャピタルを通して出資する
有望な企業であれば、VCからの出資を受けていることも考えられる。そこで、VCが展開しているベンチャーファンドに出資することで間接的にベンチャー企業へ投資ができるという仕組みだ。少し遠回りな方法ではあるが、有望なベンチャー企業への投資を行えるという点ではメリットがある。
投資先のデューデリジェンス(リスクや資産の分析)などもVCが行うので、厳しい目で投資先を選別し、資産が溶けてしまうリスクは下げられるかもしれない。一方で、投資の面白みである高リターンも見込みにくいのがデメリットと言えるだろう。
2.投資家マッチングサービスに登録し、起業家と出会う
著名なエンジェル投資家のもとには多くの経営者たちから日々投資を求める相談が届くが、そうでない個人はどのようにして経営者と出会うのだろうか。
今は、インターネットで検索すればどのような情報にもアクセスできる時代だ。
試しに「投資家 マッチング」で検索してみると、投資家とスタートアップ企業のマッチングを図るためのサイトが複数見つかる。こうしたサイトに登録して、興味のある企業を探すことができる。
起業家がどのような業種で何をしたいかを明確に発信している案件も多く、より具体的な相談に進めやすい。また、起業家と投資家がマッチングすれば、細かな条件確認を直接行えることもメリットの一つだ。
出資金額は100万円ほどから数千万円と幅も広いため、一度チェックしてみてはいかがだろう。
3.株式投資型クラウドファンディングを利用する
近年、一般の個人や団体が何らかの目標を達成するために寄付を募る「クラウドファンディング」が脚光を浴び、誰かの「やりたいこと」を応援する機運が高まっている。
企業の経営もいわば誰かの「やりたいこと」。投資はその後押しとなるものだ。
「株式投資型クラウドファンディング」はそうしたクラウドファンディングの一つの形態だ。「寄付型」「購入型」などと呼ばれるクラウドファンディグの形態では出資する見返りとしてモノやサービスが還元されるのに対し、「株式投資型」では出資者はその企業の株式を得ることになる。
未上場企業の株式はリスクもあるが、IPOや売却によって大きなリターンを得られるチャンスもあり、この株式投資型クラウドファンディングに注目している投資家も増えている。
某株式投資型クラウドファンディング会社の担当者によれば、投資家の半数が高リターンを目的としており、次いで多い投資理由が「企業の応援のため」ということだった。
マッチングサービスでは最低でも100万円ほどの出資を求める案件が多いのに比べ、クラウドファンディングであれば年間50万円と決められており、複数の投資家から出資を募るため、1人当たりの必要投資額は比較的少なくても出資できる。
例えば、株式投資型クラウドファンディングサイトFUNDINNO(ファンディーノ)の公式サイトには、「10万円からの投資が最も多くなっている」との記載がある。
株式投資型クラウドファンディングはまだ成長途上のマーケットではあるが、投資額の上限を引き上げる、市場の整備を進めるなど、今後さらに発展していくことが見込まれる。
ベンチャーの資金調達環境に暗雲?
起業を選択する人が増えている昨今の状況は個人投資家にとっては新たな投資先を広げるチャンスでもある。一方、ベンチャーやVC関係者の間では、スタートアップにとって資金調達のハードルが今後上がっていくのではないか、との見方が出てきている。
2022年4月に予定されている東京証券取引所の市場改編によって、IPOの条件が一部変更となる。内部上場も含めた上場のための審査も厳格化されるため、IPOがかなわない企業も増える可能性がある。そうなると連鎖的にVCの目も厳しくなり、より投資の動きが鈍る、と予測できる。
さらには昨今のコロナショックで世界経済全体が大きなダメージを受けており、スタートアップも無縁ではいられない。
コロナショックの今、エンジェル投資家を目指す人が心がけておきたいこと
こうした状況をどう見るかは投資家次第だ。VCからの調達が難しいからこそ、未来ある若い企業を救えるのは個人の力とみることもできる。
2020年1月、スマホ決済サービスを提供する「Origami」が事実上の“破綻状態”でメルカリへの株式売却を発表した。同社は2019年日本経済新聞社の「NEXTユニコーン調査」で417億円の企業価値があると推計されていた。当時は赤字でも今後の成長を見込まれての試算だったが、その後の競争環境の変化もあり、IPOどころか事業の継続性が危ぶまれるようになってしまった。
本件はベンチャー投資をするならばあり得る可能性として、投資家が肝に銘じるしかない。
自分の興味ある分野に革命を起こそうとしたり、社会課題を解決してくれたりしそうな起業家に出会い、一緒にそのビジネスを成長させたい。そんな気持ちこそが、エンジェル投資家への第一歩である。
この逆境を生き抜く気骨のある企業の成長性を見極めて「これぞ」というところへ投資し、その企業が大きく成長したなら……。それこそが、投資の醍醐味ではないだろうか。
個人でも未上場企業にエンジェル投資ができる制度とは
2014年に金融商品取引法が改正され、「未公開株」を購入できる株式投資型クラウドファンディングが登場しました。 インターネットを通じて多くの人が少額の資金を出して、未上場の新規・成長企業の株式に投資することのできる仕組みで、未上場株式を購入することで当該企業の株主になることが実際にできます。
応援したい会社へ株式投資という形で応援でき、株主優待や、将来的にはIPOやM&A(企業の合併・買収)で将来的にリターンを得られる可能性もあります。
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