(本記事は、星子尚美氏の著書「腸のことだけ考える」ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)

腸
(画像=PIXTA)

腸は人体最大の免疫器官

ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸、ビタミンなどの栄養分は、小腸に達するまでに粉砕され、消化酵素によって分解され、吸収されやすい状態になります。その栄養分の9割が小腸で、残り1割と水分が大腸で、それぞれの腸壁から吸収されていきます。

ところで、私たちは普段さまざまな種類の食べ物を口にしています。

吸収されるまでの過程でいくらしっかりと殺菌・消化しているからといって、はたしてそれらをすべて吸収しても大丈夫なのでしょうか。

もしかすると、そのなかには何か危険なもの――例えば赤痢(せきり)菌、コレラ菌、インフルエンザウイルスなどの病原体、ヒ素やカドミウムなどの有害な金属が交じっているかもしれません。

しかし、そこが腸のすごいところ。

腸は消化吸収だけでなく、免疫細胞による免疫組織でもあります。

腸内にはカラダ全体の60〜70%の免疫細胞が集中していると言われ、入ってきたものが食べ物かどうかを判断するだけではなく、それらが安全か危険かを見分けるセンサーが何重にも張り巡らされています。これを「腸管免疫」と言います。

まさに腸こそ「人体最大の免疫器官」なのです。

免疫システムの基本は「自己」と「非自己」を見分けることにあります。「非自己」つまり自分の一部でないものを排除するのが免疫システムの仕事です。

もちろん食べ物は私たちにとって異物なので「非自己」です。

「じゃあ食べ物も排除されてしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、心配ありません。驚くべきことに腸管には、食べ物、栄養に対して免疫反応を起こさない独自の仕組みが備わっていて、有害なものと必要なものを見分けているのです。

この仕組みを「免疫寛容」と言います。

腸だけに備わった特殊な能力です。

毎日押し寄せる大量の異物を「必要なもの」と「有害なもの」とに仕分けし、「必要なもの」はそれぞれの特性に応じて消化・吸収し、「有害なもの」は排除する――こうした複雑で難しい仕事を、腸は毎日、しかも私たちの知らないうちに行ってくれているのです。

小腸が脳に命令する、嘔吐と下痢のメカニズム

前述の通り、小腸での消化・吸収の働きは小腸が独自に判断して行っていますが、時には脳が関わってくることもあります。

例えば食物に交じってO(オー)157のような細菌やウイルスなどの有害なものが侵入した場合、腸は前述の免疫システムによってその毒性を発見します。

小腸がそれを毒だと判断すると、神経ネットワークを通じて脳に指令を送り、腸壁から 大量の水分を出して毒物を排泄しようとします。これが「 下痢(げり)」です。

またあるときには、小腸が脳の嘔吐枢(おうとちゅうすう)に指令を送ることもあります。すると脳はヒトに激しい吐き気をもよおさせるのです。胃の一番底がキュっと閉まり、内容物がそれ以上流れていかないようにしたうえで、胃の筋肉を動かして嘔吐を促します。

下痢や吐き気は苦しくてとても嫌なものですが、その多くは必要な現象です。毒物、あるいは「出したほうがいい」ものを上と下から体外に出すわけですから。

それにしても下痢や嘔吐の判断を小腸がしていて、脳をコントロールしているというのは驚きではないでしょうか。

腸はどうやって病原体などの外敵をやっつける?

病原体にとってほどよい温度や水分を持ったヒトのカラダは、生きながらえ増殖するには最高の環境です。特に微小なウイルスは、単体では生きられず、他者の細胞の遺伝子を利用しなければ増殖できません。

風邪やはしか、風疹、インフルエンザなどの感染症はすべてウイルスや細菌などの病原体が原因です。これらを免疫システムが殺傷、排除することで病気を防いでいます。大切なカラダを守るため、外からの「侵入者(病原体)=外敵」は、即刻退治しなければならないのです。

病原体が食べ物に混じって口から体内に入ってきた場合、口腔、食道、胃と通過する間も唾液や酵素や胃酸などが殺菌力を働かせ、病原体を殺そうとしてくれます。そこをなんとかすり抜けた病原体が小腸に到達します。

この外敵を迎え撃つのが、人体最強の防衛軍である免疫細胞軍団です。カラダ全体の免 疫細胞の数はなんと1兆個以上!腸にはその60〜70%が集中しています。そして病原体の侵入とともに、これを撃退する戦いを繰り広げます。

腸内に病原体が侵入すると、腸壁内部の免疫細胞が危険を察知して殺菌作用のある物質を分泌させる命令を腸壁の細胞に出します。

腸壁の細胞はその命令を実行して病原体を撃退します。

また、腸壁にはパイエル板というリンパ組織があり、新しい免疫細胞に外敵のことを記憶させて、次に同じ敵が来たら最適な攻撃で撃退できるよう新人教育する機能まで備わっています。

こうして腸が侵入してくる外敵にいつも備えてくれているので、私たちは毎日大量の食べ物(異物)を食べてもめったに病気にならず、健康でいられるわけです。

大腸にいる腸内細菌の数、知っていますか?

小腸で消化吸収された食べ物の残りは、その下の大腸に送られます。大腸は盲腸、結腸、直腸、肛門につらなる長さ約1.5メートルの臓器です。栄養成分の残りや水分の吸収、そして残りカスである便の排泄がその主な仕事です。

「ゴミを掃除するだけだったら、あまり大した仕事じゃないな」と思った方もいるかもしれませんが、とんでもありません。腸の最後の仕事を締めくくる大腸が正常に働かなければ、ヒトはどれほど健康を害し、病気まみれになってしまうかわかりません。

さて、食べ物の消化・吸収という大仕事を締めくくる大腸ですが、組織そのものの役割は水分と栄養の「吸収」のみです。栄養の「消化」は大腸本体に代わって腸内細菌が行います。

腸内細菌は最近よく注目され、その存在が世間にも広く認められてきました。彼らは、外部から入ってきて勝手に棲みついている侵入者とその仲間たち、つまり私たちにとっての「内なる他者」です。

その数はなんと100兆個以上!種類にして数百以上!

地球の全人類より多い数の細菌が、私たちのお腹の中に棲みついているわけですから驚かされます。けれども、この細菌たちのなかには、私たちにとって非常にいい仕事をしてくれるものがたくさんいます。

それがいわゆる善玉(ぜんだま)菌です。

肥満を防止したり、がんを防いだり、糖尿病を改善したり、美貌の大敵であるシミやシワをなくしてくれたりします。こうした菌たちには、ぜひ長くお腹の中にいてもらいたいものです。

しかし、残念ながら腸内細菌は、そのようないい仕事をしてくれるものだけではありません。なかには今述べたこととは正反対の結果、つまり肥満を招くもの、がんを引き起こすもの、老化を進めてしまうものもいます。

いわゆる悪玉(あくだま)菌です。

腸内細菌は大別すると、この善玉菌と悪玉菌、そして状況次第で善玉・悪玉のどちらにも変わる 日和見(ひよりみ)菌という3種類に分けられます。

私たちの腸壁の粘膜には、この腸内細菌たちがびっしりと生息し、同じ種類の菌たちで集まって棲み分けています。

それぞれに色や形が微妙に違っていて、その様子がまるでお花畑(フローラ)のように見えることから、腸内細菌の群れを「腸内フローラ」と呼びます。

内視鏡で見ると細菌群が叢(くさむら)のようであることから「腸内細菌叢(さいきんそう)」とも呼びます。大腸内には1〜2キログラムの腸内細菌が棲んでいます。ちなみに、便はその3分の1が腸内細菌です。

腸のことだけ考える』
星子尚美(ほしこ なおみ)
星子クリニック院長・医学博士。昭和31年生まれ。昭和57年、東京女子医科大学医学部卒業。昭和63年、熊本大学医学部大学院修了。医学博士号取得。放射線科專門医取得。平成5年、産業医取得。平成11年、健康スポーツ医取得。平成18年、日本臨床抗老化医学会認定医取得。アロマコーディネーターライセンス取得。米国ISNF公式認定サプリメントアドバイザー取得。平成21年、キレーション点滴専門医取得。ビタミンミネラルアドバイザー取得。高濃度ビタミンC点滴療法専門医取得。アンチエイジング統合医療認定医取得。平成26年、東久邇宮国際文化褒賞授賞(予防医学に貢献した等)。アーユルヴェーダハーブ専門医取得。大病を患い2回も九死に一生を得たことから、医師として自分が知り得た知識を伝えることが使命と考え、正しい医療とは何かを探求する。全人的医療を目指した自由診療のみの代替医療のクリニックを開業。がん、生活習慣病などの難病に苦しむ患者の治療と予防医療を行っている。食事療法をはじめとし、腸内洗浄や便移植などの最先端医療を駆使し、患者に優しい、カラダに優しい検査治療を行う。一般的な病院やクリニックとは一線を画すスタイルで治療を行っている。著書に『「平熱37℃」で病気知らずの体をつくる』(幻冬舎)、『病気がどんどんよくなる「腸のお掃除」のやり方―「食べる水素」で腸をキレイに保つ』(ナショナル出版)など。

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