(本記事は、星子尚美氏の著書「腸のことだけ考える」ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)
おならや便の悪臭は腸の危険サイン
腸内環境を整える第一歩は、悪玉菌優位から善玉菌優位に腸内を変えることです。
代表的な善玉菌と言えば、おそらくみなさんもよく耳にするであろう乳酸菌です。ビフィズス菌や乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)などがその仲間です。
「乳酸菌」と聞くとヨーグルトを連想されるかもしれませんが、もちろんそれだけではありません。植物性の発酵食品である糠漬(ぬかづ)けやキムチ、味噌などにも乳酸菌は豊富に含まれています。
善玉菌は「有用菌」とも呼ばれ、とてもいい仕事をしてくれます。
例えば乳酸や酢酸などをつくって腸内を酸性にし、食中毒や感染症を起こす細菌の繁殖を防いでくれます。
一方、悪玉菌(腐敗菌)の代表格は大腸菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌などです。
これらの菌に共通しているのは、動物性たんぱく質を腐敗させ、インドール、スカトール、アンモニアなどの有毒物質をつくることです。いずれも悪臭を放ち、おならや便のクサい臭いの元になります。
なので、もし自分のおならや便がクサいと感じるのであれば、お腹の中が悪玉菌優位になっている可能性があります。クサいこと自体は大した害ではありませんが、臭いの元は腐敗であり、有毒性を意味しているので要注意です。
クサいうえに便秘も重なっていたら、要注意どころか危険なサインだと思ってください。
悪玉菌が優位だと腸管の蠕動運動が鈍ってしまい、排便がスムーズにいかなくなって便秘になりやすくなります。長く腸に留まっている便は、悪玉菌によって腐敗が進み、有害で腸壁の細胞を傷つける存在になります。
加えて、悪玉菌はそれ自体が活性酸素を発生させ、やはり細胞を傷つけてしまいます。
そのような悪玉菌を排除しようと、今度は免疫細胞が活性酸素を発生させるので、腸内は活性酸素によってさらに悲惨な状況になるという悪循環に陥ります。
悪玉菌も時には活躍する
すでにご紹介した通り、腸内細菌には善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類があります。
では残る日和見菌は何をするのでしょうか。
日和見菌は、ヒトが元気なときには良いことも悪いことも特にしません。腸に入ってくる栄養をかすめとり、淡々と生きているだけです。
なので、普段は特に私たちの役に立つわけでも、害になるわけでもないのです。
ただヒトが病気になったり免疫力が落ちたりすると、なんと急に悪玉菌に加勢して、周囲の組織に炎症を引き起こしたりします。
このように述べると、腸内細菌は善玉菌が多ければ多いほど良いのであれば全部が善玉菌というのがベストだと思われるかもしれませんが、そういうわけではありません。
実は善玉菌、悪玉菌、日和見菌の割合は2・1・7がベストなのです。
「えっ、善玉菌ってそんなに少なくていいの?悪玉菌もあったほうがいいの?」と驚かれたかもしれませんが、悪玉菌のなかにも役に立つことをするものもいます。それどころか、その悪玉菌でなければできないワザを持つものもいるのです。
例えばある大腸菌は、ビタミンを合成したりサルモネラ菌等食中毒の原因菌を抑えたりしてくれます。
また、かなり悪性の高い病原体、例えば有名な病原性大腸菌O157等が侵入してきた場合、常在菌である大腸菌がその増殖を防ぐことが知られています。
これを「拮抗作用」と言います。
まるで普段は悪さばかりしている学園の不良たちが、いざというときに他校の不良から自分の学校の生徒を守っているかのようで面白いですね。
「悪玉菌」なんて呼ぶべきじゃない!?
研究者のなかには、腸内細菌に対して「善玉」「悪玉」と呼ぶのはふさわしくない、と主張する人もいます。私も「善玉」「悪玉」よりは「優等生」「不良学生」ぐらいのキャラクター設定でいいと思います。いつもは教室のガラスを割ったりバイクを乗り回したりしている不良が、学園のピンチのときには体を張って危機を救う――そんなことが腸内では実際に起きているわけですから。
もちろん、がんなどを引き起こす悪玉菌もいるのであまり弁護もできませんが、一概に「悪玉だから絶対ダメ!」とも言い切れません。
さて、腸内細菌の比率は前述の通り「善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7」がベストなのですが、「悪玉菌1」が必要な理由はこれで納得いただけたかと思います。
日和見菌の7に関しては、健康なときは「なにも役に立たない」のではなく「善玉に傾いている」と解釈するのが妥当ではないかと思います。日和見というくらいですから、優位な方(悪玉の2倍存在する善玉)についているはずです。
つまり腸内細菌は、2割の善玉菌が優位にあり、7割の日和見菌は善玉菌に傾倒していて、1割の悪玉菌が時折悪いことをする。しかし、善玉菌が全体をしっかり抑え込んでいる、という関係が良いのではないかと思います。
悪玉菌を増やす食品を避ける
腸内環境を悪化させる食品の代表として動物性のたんぱく質や脂質の多い食品があります。
例えば牛乳やバター、牛肉、豚肉などがそれです。
こうした食品は、まず消化吸収に時間がかかり、腸内に長く留まって便秘の原因になります。大腸では腸内細菌の悪玉菌の餌になり、有毒なガスを発生させます。その過程で酸化が進み、大量の活性酸素を発生させてしまいます。
もちろん、動物性食品がすべてダメだというわけではありません。
また、もともと肉の好きな人が突然食べなくなると、ストレスにもなります。
例えば肉を食べる際には野菜やキノコ類を一緒にたくさん食べるなど、まずは「できる範囲で」気軽に取り組み、「なるべく」「徐々に」食べないようにしていってはいかがでしょう。
活性酸素を発生させる要因を避ける
その他、意識的に避けたい腸内環境を悪化させる要因としては、①過度のアルコール、②医薬品、③加工食品、④タバコの摂取などが挙げられます。
①アルコール
アルコールはそのものが発がん物質であり、アセトアルデヒドという強い毒物を生成します。これが肝臓で分解されるときに活性酸素を発生させます。
つまり、大量の飲酒は大量の活性酸素の発生を招いてしまうというわけです。
加えて、日本人はアルコール分解酵素の少ない人が多いので、アセトアルデヒドが全身に回ってさまざまな害を及ぼす可能性があります。
②医薬品
医薬品のなかには抗生物質のように、何か月も腸内細菌を殺してしまうものがあります。抗がん剤の一部は活性酸素でがん細胞を殺す働きをしています。もともと毒性が強い薬が多いので、腸内細菌、腸の粘膜を傷つけてしまいます。
③加工食品
加工食品は、腐らないように、おいしく見えるようにさまざまな化学合成添加物が入っています。なかには有害なもの、活性酸素を発生させるものも少なくありません。ちなみに、市販のものに限らず、お弁当に揚げ物が多く入っているのをよく見かけますが、脂質は酸化しやすいので腸に負担になることも意識しておいてください。
④タバコ
タバコは腸には直接関係ありませんが、口腔、喉、肺などの呼吸器で直接活性酸素を発生させて炎症を起こし、組織、細胞を傷つけます。ニコチンやタールは強い発がん性があり、がん発症の最大原因になっているだけでなく、血液に乗って全身に届けられるため、腸にも毒性が及ぶことは間違いありません。
これらは腸内環境を悪化させ、さまざまな病気の原因となります。可能な限り避けて、摂取しないように注意しましょう。