(本記事は、博報堂 ヒット習慣メーカーズ、中川 悠の著書『カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

兆し習慣を探す①-Week1-

3つの領域で兆し習慣を絞り出す

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(画像=Billion Photos/Shutterstock.com)

兆し習慣を集めるときは、第3章にあるTIPSを参考にしながら、SNSやネット記事、さらには商品やサービスとその利用現場を実際に観察することで情報を集めていきます。そこで意識したいのは、集める情報の範囲が偏りすぎないようにすることです。

例えば、新商品としてオレンジジュースを発売するとしましょう。その際にオレンジジュースをはじめとするジュースに関する兆し習慣ばかり集めていては、せっかくのチャンスを見落としてしまう可能性があります。ここで、小カテゴリー(ジュース)、大カテゴリー(飲料)、ライフスタイル(買物/仕事/健康etc.)という3つの視点で、それぞれの兆し習慣を集める必要があります。そうすることで、一見関係なさそうに見えた、ライフスタイルにおける「働き方改革」という兆し習慣を捉え、「仕事終わりのリフレッシュオレンジジュース」のような新しい習慣化コンセプトが生まれるのです。

3 つの視点
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

こうして1人あたり10個を目標に兆し習慣を集めます。そして、集めた兆し習慣は、1つずつ下記のフォーマットの兆し習慣シートに落とし込みます。兆し習慣の欄には、どのような行動かがわかりやすいように記入します。流行しつつあるという事実をそのまま書くだけではなく、その兆し習慣を行う習慣インサイト(=心のツボ)は何なのかを考えることで、後の兆し習慣のグルーピングも行いやすくなるのです。

兆し習慣シート
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

兆し習慣を探す②-Week2-

習慣インサイトごとにグルーピングする

兆し習慣シートが大量にできたら、その中で似たもの同士をまとめてグループ分けしていきます。ここでいう「似たもの」とは、ジュースや飲料といったカテゴリーではなく、その兆し習慣を行う習慣インサイトで考えます。そのため、カテゴリーを越えた兆し習慣が一緒に括られるということもあります。兆し習慣シートのままだとグルーピングしにくいので、下記の5ステップにしたがって、兆し習慣が一覧できるシート(模造紙かホワイトボード)をつくります。

兆し習慣グルーピングの 5 ステップ
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

先ほどのジュースの例で言えば、小カテゴリーで「スムージーで野菜の栄養を補給する」という兆し習慣と、ライフスタイルカテゴリーで「段ボールを用いて自宅で燻製料理を楽しむ」という兆し習慣があったとしましょう。この2つは、カテゴリーは違えど、「手軽に本格的なものを楽しみたい」という共通インサイトがあると考えられます。この2つをまとめて「手軽に本格的なものを楽しみたい」と大きな付箋紙に書いて、上に貼ります。この作業をすべての兆し習慣を対象に行うことで、兆し習慣全体が一覧できるように整理します。あまり精度を求めず、習慣インサイトが似ていると感じたものを大胆にまとめていきましょう。

グルーピング例
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

ターゲットを規定する-Week3-

兆し習慣から狙い所を定める

3つ
(画像=Ollie The Designer//Shutterstock.com)

兆し習慣の中から特に捉えたいものを選定し、その兆し習慣に反応してくれそうなターゲットを規定していきます。単純に性別や年代で決めるというよりは、どんな価値観やライフスタイルの人かを考えることで、メンバー内の認識のズレが生じないようにします。例えば、同じ若年OLでも、いろんな人がいます。丸の内で派遣社員としてキレイめファッションで働き、定時以降はプライベートの時間を大事にしている人。渋谷のITワーカーとしてカジュアルな服装で働き、朝活をしてから出社して夜遅くまで働いている人。この2人では心のツボも異なるため、習慣化コンセプトも変わってきます。そのため、誰もがイメージできるようなターゲット像を描くことが大切です。そして、描いたターゲットの良し悪しを判断するためのポイントは3つあります。

(1)ポイント1 兆し習慣との親和性

選んだ兆し習慣に反応してくれるかどうかを考えます。オレンジジュースの例で考えてみましょう。例えば、「腸活」という内側からの健康や美しさをつくる兆し習慣があったとします。その場合、美容感度の高い女性や、健康な体を保ちたいと思う中年~シニアの人には反応してもらえそうなイメージがつくのではないでしょうか。本来、オレンジジュースというと子どもを思い浮かべることが多いかもしれません。しかし、このように兆し習慣との相性という視点で見ると、従来にはない新しいターゲット候補も挙がってきます。

(2)ポイント2 ターゲットのボリューム

ターゲットのイメージを具体的に描こうとすると、どうしてもニッチな領域に入っていってしまうことがあります。ニッチ層を狙うという戦略もありえますが、あまりにもボリュームが小さい場合は、コストとの兼ね合いも見て、別のターゲットを模索するほうがおすすめです。

(3)ポイント3 会社の方針とのマッチ

会社全体の方針として、狙っていきたい層や、商品を通じてつくりたい世界観があると思います。その考え方に、自分の定めたターゲットがきちんと合っているかも大事な視点です。どんなにいい習慣化コンセプトを思いついても、提案した際に社内の承認を得られなければ、社会に送り出すことができないためです。だからこそ、この層を狙うことで会社の方針が崩れないかどうかを頭の隅に意識しておく必要があります(企業のイメージやターゲットを刷新したいという場合は除きます)。

この3つのポイントを押さえてターゲットを規定することができたら、イメージボードをつくってみることもおすすめです。雑誌から集めた画像や、インターネットのフリー素材を組み合わせて一枚のボードにすることで、視覚的にもターゲットをイメージしやすくなります。ボードにすると自分のイメージとメンバーのイメージのズレを解消できるので、共通認識を合わせることができます。

カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

習慣化コンセプトをつくる①-Week4-

習慣化コンセプトシートで量産する

オレンジジュース
(画像=margouillat photo/Shutterstock.com)

選定した兆し習慣、ターゲット、習慣インサイトを材料に、習慣化コンセプトをつくっていきます。習慣化コンセプトは、「A(現状)からB(理想)へ」というフォーマットにあてはまるように考えます。ただ、突然あてはめようとしても難しいので、既存の要素を用いて順番に考えてみます。

まず、「B(理想)」をつくるには、着目した兆し習慣と、そのターゲット、習慣インサイトを起点に考えます。そのためには、実際にそうした兆し習慣を行っている人を観察してみたり、インタビューしてみたりすることで、さらにインサイトを深掘りできます。また、そうした人が反対に行わなくなった習慣(≒衰退習慣)についても考えてみることで、より「B(理想)」を具体化しやすくなります。

次に、その理想に対して今はどうなっているか、「A(現状)」を考えます。例えば、オレンジジュースの場合で、「B(理想)」を「大人が仕事中に飲んで気分転換できるオレンジジュース」としたとします。それに対する「A(現状)」を「子どもが飲む、大人には向かない甘いオレンジジュース」としたとします。ここで、「大人のオレンジジュース」などの商品の有無を調べてみます。大切なことは、「B(理想)」が既存の商品やサービスでは解決できないものであることです。

既存商品になければ、新しく商品を発売することで、新たな習慣をつくれるかもしれません。一方、既存商品にあるのに話題化していなければ、その商品に足りない要素を探ります。

このフェーズで大事になってくるのは、既存の商品やサービスをよく研究することです。事前準備の際に他社の商品やサービスも含めていろいろ試した経験も活かしつつ、さらにインターネット調査や売り場調査を加えてもいいでしょう。比較対象は多ければ多いほど、「A(現状)」と「B(理想)」を考えやすくなります。

習慣化コンセプトシート
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)
カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-
博報堂 ヒット習慣メーカーズ
何度も買いたくなる「仕組み」づくりをしたいという想いをもった博報堂の社内プロジェクト。
戦略から制作まで、リアルイベントからシステム開発まで、多様な専門性をもつ精鋭メンバーが揃った組織横断型のチーム。
中川 悠(なかがわ・ゆう)
株式会社博報堂 統合プラニング局/ヒット習慣メーカーズ リーダー。
大学卒業後、電機メーカーにエンジニアとして入社。携帯電話の設計に携わる。その後広告会社を経て、2008年に博報堂入社。
ストラテジックプラニング職として、商品開発、ブランド戦略、コミュニケーション立案に携わる。
2015年に統合プラニング局のチームリーダーに就任。クリエイティブ・ストラテジストとして、戦略から戦術まで一貫したディレクションを行う。
2017年にヒット習慣メーカーズを立ち上げ、顧客の習慣化による事業成長の仕組みづくりを実践している。


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