(本記事は、博報堂 ヒット習慣メーカーズ、中川 悠の著書『カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

「持続的なマーケティング」の時代

一度だけではなく「何度も買いたい」をつくる

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(画像=Syda Productions/Shutterstock.com)

私たちは広告会社で仕事をする中で、単発的な売上向上ではなく、「持続的に売れ続ける状態をつくる」ことへのニーズが高まっているのを体感しています。話題になる「広告」を制作して、「一度だけ買いたい」と感じさせる仕事もたくさんありますが、それだけでなく持続的に「何度も買いたい」と思ってもらうべく、広告を越えて「商品」や「サービス」、「売り場」や「売り方」などあらゆる手段を総動員して解決する仕事も増えてきているのです。

私たちは、「一度だけ買いたい」をつくるマーケティングを「単発的なマーケティング」と呼び、生活者の「何度も買いたい」をつくり、売上を生み出し続けるマーケティングを「持続的なマーケティング」と呼んでいます。企業の人たちと話す中で、今が「持続的なマーケティング」が求められる時代の転換期だと痛感しています。

大手コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの2017年の「MEASURING THE ECONOMIC IMPACT OF SHORT-TERMISM」というレポートによると、米国に上場している大企業と中堅企業615社の2001年から2014年の財務データを比較した際、先を見据えて企業の戦略を考えている長期志向の会社のほうが、短期志向の会社よりも、累積売上が47%、累積利益が36%高いという結果が出ています。さらに、長期志向の会社のほうが、従業員が増えていて、雇用を生み出す効果も確認されています。単発的なマーケティングではなく、持続的なマーケティングを行う企業のほうが、成長の観点では優れているのです。

自社の商品やサービスが一度売れても、長く続かなかった経験がある人もいるはずです。また、自身の生活を振り返ってみても、一度買ってみたけれど、結局使い続けていないものはかなり多いはずです。「何度も買いたい」をつくる「持続的なマーケティング」を実践することは非常に難しく、だからこそ取り組みがいがあるテーマだと私たちは考えます。本章では、持続的なマーケティングを取り巻く社会環境の変化や、持続的なマーケティングの中身について見ていきます。

図1
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

社会環境1:人口減少社会

人口減少社会とどう向き合うか?

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(画像=PIXTA)

将来を予測するのは難しいですが、すでに明らかになっているのは、この先日本の人口が少しずつ減少していくということです。

国連の経済社会局人口部が2019年に発表した『世界人口推計』によると、日本の人口は2019年現在1億2,686万人で、2030年には1億2,076万人に、2050年には1億580万人まで減少します。さらに、2100年には7,496万人になることが予測されています。今、あなたが100人の村で商売をしていると仮定すると、10年後には約95人、30年後には約83人、80年後には60人以下の村で商売をしていかなくてはならない状況なのです。

日本企業は、人口減少を悲観的に捉えており、帝国データバンクが2017年に全国の1万社以上に調査した『人口減少に対する企業の意識調査』によると、約90%が人口減少を日本社会のマイナスと捉え、約75%が人口減少を経営課題と認識しています。

日本が人口減少ならグローバル展開を、となるかもしれません。地球全体で見ればまだしばらく人口は増えますが、今後人口減少の局面に入る国が多くなります。上記の世界人口推計によると、ドイツ、イタリア、スペインなどのヨーロッパ諸国で人口が減ることが予測されています。さらに、今、さまざまな企業が進出している中国でも、人口が減っていきます。

人口が減る中で売上を伸ばすために、「1人あたりの支出を増やす」ことの重要性が今後高まっていくでしょう。企業としては、持続的なマーケティングにより、1人ひとりにきちんと向き合って、価値を提供し続けることで、継続的な支出を促すことが求められるようになるのです。そして、「1人あたりの支出を増やす」という考え方は、将来のグローバル展開の際にも、有効になります。

今の日本には、1人あたりの支出を増やすためのマーケティングを行う環境が整っていると私たちは考えます。以降の節では、今の日本におけるビジネスチャンスについて、見ていきます。

図表2
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

社会環境2:人生100年時代

企業が捉えるべき、長生き社会のチャンス

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(画像=lola1960/Shutterstock.com)

これからの日本に、今後確実にくる潮流がもう1つあります。それは、1人あたりの寿命が延びていくということです。

厚生労働省が2018年に発表したデータによると、日本の平均寿命は男性81歳、女性87歳。ただし、これは今生きている人の平均であり、これからの時代はもっと長生きするようになります。イギリスのロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授によると、日本人の場合、2007年に生まれた人は50%の確率で107歳まで生きるそうです。人生100年時代の到来です。

経営学の世界では、「LTV(=Life Time Value)」という考え方があります。LTVとは、1人の顧客が生涯でどれくらい売上/利益を企業にもたらすか?を表す指標です。人生100年時代は、1人の人に愛されてリピートされれば、その恩恵を受ける期間が長くなり、どんどんLTVが高まります。また、愛されることで購入点数や購入頻度が上がると、さらにLTVは高まっていきます。

日本企業も、人生100年時代に顧客のLTVを高めることに注力するようになっています。日本の大手飲料メーカーでは、LTVを新経営指標の1つに据えて、商品売り切りではなく定期購買のビジネスを立ち上げる例も出てきています。

もう1つ、海外の事例を紹介します。ある投資銀行の試算によると、米国の大手EC企業が提供する宅配や動画配信などさまざまな特典がセットになった有料会員サービスのLTVが約14兆円にのぼります。年会費は1万円ですが、数十年にわたって会員になり続けると想定されており、LTVにすると1人あたり約30万円に。会員数の4,900万人をかけると約14兆円になります。長く使われると、生涯で見たときにかなりの金額になることがわかります。

人生100年時代に、持続的なマーケティングで、1人あたりのLTVを高めることに、大きなビジネスチャンスがあるのです。

図4
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

社会環境3:デジタル化

あらゆる生活行動がデータ化される

デジタル
(画像=Getty Images)

先ほどの人生100年時代に加えて、これからの社会には、まだチャンスがあります。それは、デジタル化が進み、顧客の生活行動のデータが取得できるようになることです。

1日の生活を思い返してみてください。クレジットカードやモバイル決済によるお金の使用状況、ネット通販による商品の購買状況、タクシー配車アプリによる移動情報など、さまざまな生活行動がデータ化されるようになっています。

日本よりもデジタル化が進む中国の実態を紹介した書籍『アフターデジタル』で、デジタル化の本質は、デジタルを「付加価値」として活用するのではなく、「リアルとデジタルの主従関係が逆転した世界」と説明されています。どういうことでしょうか?

これまでの「ビフォアデジタル」社会は、リアル(店や人)でいつも会っている顧客が、たまにデジタルにも来てくれるというものでした。しかし、これからの「アフターデジタル」社会は、デジタルで絶えず接点があり、たまにリアルにも来てくれるというものにシフトしていくという考えです。しかも、そのような状況が、すでに中国でどんどん進んでいるのです。

例えば、中国のある保険会社は、顧客との接点が少ないことが課題でした。保険はいったん購入したら、その後はほとんどユーザーと接触する機会はありません。そこで、直接保険とはひもづかない医師検索アプリ、自動車情報メディア、住宅検索アプリなどの生活サービスをつくり、新たな顧客接点をつくることに成功し、結果的に急成長を遂げました。

このようにデジタル化によって、顧客接点が増え、顧客の生活行動を把握し、次に何を望んでいるか?を予測しやすい環境が整いつつあります。これからのマーケティングは、持続的に「行動」を観察し、先読みしていくようになるでしょう。

図3
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)
カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-
博報堂 ヒット習慣メーカーズ
何度も買いたくなる「仕組み」づくりをしたいという想いをもった博報堂の社内プロジェクト。
戦略から制作まで、リアルイベントからシステム開発まで、多様な専門性をもつ精鋭メンバーが揃った組織横断型のチーム。
中川 悠(なかがわ・ゆう)
株式会社博報堂 統合プラニング局/ヒット習慣メーカーズ リーダー。
大学卒業後、電機メーカーにエンジニアとして入社。携帯電話の設計に携わる。その後広告会社を経て、2008年に博報堂入社。
ストラテジックプラニング職として、商品開発、ブランド戦略、コミュニケーション立案に携わる。
2015年に統合プラニング局のチームリーダーに就任。クリエイティブ・ストラテジストとして、戦略から戦術まで一貫したディレクションを行う。
2017年にヒット習慣メーカーズを立ち上げ、顧客の習慣化による事業成長の仕組みづくりを実践している。


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