(本記事は、博報堂 ヒット習慣メーカーズ、中川 悠の著書『カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

行動の40%以上は習慣である①

人間はできることなら考えたくない

人生を変える自分の磨き方 思考・言葉・行動・習慣・人格・運命の法則
(画像=Peshkova / Shutterstock.com)

米国の大学教授が発表した『Habits in Everyday Life』という論文に、面白い調査結果があります。日常生活の中で習慣的な行動の割合を調べたものです。

複数の学生に対して、1時間ごとにその1時間でどのような行動をしたのか、そのときにどんなことを考えたのか、どんな感情をもったのかを日記形式でまとめるということを2日間行いました。

1時間おきにアラームが鳴る装置をつけてもらい、アラームが鳴ったら日記に記入するというやり方です。

例えば、「夕食にパンを食べた/そのときに明日の予定を考えていた/感情としてはワクワクしていた」というように、1つひとつの行動とそのときの考えや感情を合わせて記入をしていきます。また、その行動は日常的に行っているものか、同じ場所で行っているものかという習慣に関連する内容を加筆してもらいます。

日常的に、同じ場所で行っている、かつ考えや感情の大きな起伏がないものを習慣と定義しているのですが、わかったのは日常行動の40%以上は習慣であったということです。日常の中で思考をめぐらせ、判断しないといけない場面ももちろんありますが、そのときの判断力を高めるためにも、それ以外の場面においては、極力何も考えずに脳にストレスをかけないようにするという人間の本能的な行動があるのです。

この「ストレスなく行動する」というのがポイントです。商品を購入する場面においても、選択をするのはストレスを感じるので、ついいつもと同じものを購入してしまうのです。

つまり、人間には、できることならばさまざまな行動を習慣にしたいという本能的な想いがあるのです。商品の購入を習慣化するということは、じつは企業の都合だけではなく、生活者が求めることでもあるのです。

図1
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

行動の40%以上は習慣である②

1つの習慣を複数の商品やサービスが支えている

clean

朝起きたときに、あなたがしている習慣は何でしょうか?

顔を洗って、歯を磨いて、パンを焼いて、洗濯機を回して...さまざまな習慣があるはずです。家を出てから、夜寝るまでも、多くの習慣があります。

これらの習慣の1つひとつが、さまざまな企業の商品やサービスで支えられています。例えば、朝に顔を洗うことを考えてみましょう。洗顔料、タオル、化粧水、乳液などさまざまな商品を利用します。蛇口をひねって水を出しますし、寒い日はお湯にするかもしれません。気分をシャキっとするために、音楽を聴きながら顔を洗うかもしれません。このように、商品だけでなく、水道、ガス、音楽配信などのサービスも利用しています。

朝、顔を洗うことは多くの人が毎日行う習慣です。ビジネスの視点から言い換えると、継続購入を促すには、このような習慣の中で選択される商品やサービスになることが重要というわけです。

また、一口に習慣といっても、さまざまなタイプがあります。朝に顔を洗うことは昔から続いていて、かつほとんどの人が行う習慣ですが、特定の人が行う習慣(例えば、乳児がいる家庭での哺乳ビンでミルクをあげるという行為)や、年に1回しか行わない習慣(例えば年賀状をおくること)などもあります。

日々、さまざまな習慣が生まれたり消えたりしています。例えば、若者がハロウィンで仮装して繁華街を歩くという習慣は少し前に登場し拡大しましたが、最近は社会問題として取り上げられるようになり、やや落ち着いてきた印象があります。

このように、習慣のトレンドを素早く察知し、そこに自社の商品やサービスをどのようにひもづけ、多くの生活者が行う習慣として定着させていくのか?ということが重要になります。

図2
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

企業に「習慣化」はできるのか?①

企業が手掛けた「習慣化」の事例

企業は、自社の商品やサービスを通じて、意図的に「習慣化」を促すことができるのでしょうか?考えてみると、私たちが普段行っている習慣の中にも、じつは企業が手掛けたとされるさまざまな習慣が存在しています。

例えば、節分に恵方巻きを食べるという習慣があります。もともと節分に太巻きを食べる風習が江戸時代から一部の地域にありました。そこに着目したコンビニエンスストアチェーンが「恵方巻き」というキーワードで広げたというのが現在の習慣につながっていると言われています。たしかに、恵方巻きを買うときに、そもそもどんな意味があるのか、あまり深く考えずに、習慣として購入している人も多いはずです。

また、朝にシャンプーで髪を洗うという行為も多くの人が行っている習慣です。これは、1980年代に企業が広げたと言われています。他にも、クリスマスにチキンを食べる、仕事中にペットボトルでコーヒーを飲むなど、なにかしらの購入に結びつく習慣は、企業が手掛けて広がったものが多いのです。

一方で、習慣化を実現することの難しさはしっかり理解しておく必要があります。人間は一度習慣になったものはなかなか変えようとしないものです。科学的にも、身についた習慣は、身についたタイミングが新しいものから順番に離れていくと言われています。

わかりやすい例はダイエットです。一定の期間、食事制限や運動を行い、習慣化したのに、目標体重になったらやめてしまい、結局リバウンドしてしまったという人も多いのではないでしょうか。

長い期間続いている習慣を変えるのは難しいですが、チャンスは必ず存在します。習慣も一生続くとは限らないので、古い習慣が衰退するタイミングを見計らって、新しい習慣へのスイッチを促すのです。その方法は、後ほど紹介します。

図3
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

企業に「習慣化」はできるのか?②

高頻度利用の商品は「習慣化」しやすい

シャンプー
(画像=StoryTime Studio//Shutterstock.com)

習慣化をしやすい商品やサービスとそうでないものには違いがあります。使われ続ける商品やサービスを生み出す心理学とデザインをまとめた書籍『Hooked ハマるしかけ』によると、ある商品やサービスに生活者への習慣化のポテンシャルがあるかどうかを調べるには、2つの視点に着目するといいと書かれています。

1つは、頻度(その行為がどれくらいの頻度で発生するか)、そしてもう1つは、使いやすさ(生活者にとってその行為が便利なものか)です。この2点を満たす領域はハビット・ゾーンと呼ばれています。また、この2点の少なくとも一方、特に頻度が高い状態であれば習慣化のポテンシャルがあります。

例えば、シャンプーは毎日使うので頻度が高いですし、Webの検索エンジンは1日の中で数え切れないほど利用しているかなり高頻度なサービスの1つです。このような特性をもつものは習慣化のポテンシャルが高いと言えます。

自動車も頻度が高いものの1つです。「自動車は何度も購入するものではない」と思う人もいますが、購入頻度ではなく利用頻度に着目している点にご注意ください。通勤で使う人も、週末のみ使う人もいると思いますが、一定頻度での利用があるので、十分に習慣化のポテンシャルはあると考えられます。同じ自動車メーカーで買い替えをする人が多いのは、そのためです。

スマホゲームは利用を習慣化してもらうために、頻度を高める工夫が満載です。ダウンロードをして利用をはじめると、初回特典としてレアなアイテムが大量に与えられ、そのアイテムを使いたくなります。また毎日ログインすると特典がもらえるので、頻度が高まります。そして、気がついたときには操作に慣れているのです。

一方、頻度が低いECサイトなどは、頻度を高めつつも、いかに使いやすさを高めるかが習慣化の生命線となってきます。

図4
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)
カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-
博報堂 ヒット習慣メーカーズ
何度も買いたくなる「仕組み」づくりをしたいという想いをもった博報堂の社内プロジェクト。
戦略から制作まで、リアルイベントからシステム開発まで、多様な専門性をもつ精鋭メンバーが揃った組織横断型のチーム。
中川 悠(なかがわ・ゆう)
株式会社博報堂 統合プラニング局/ヒット習慣メーカーズ リーダー。
大学卒業後、電機メーカーにエンジニアとして入社。携帯電話の設計に携わる。その後広告会社を経て、2008年に博報堂入社。
ストラテジックプラニング職として、商品開発、ブランド戦略、コミュニケーション立案に携わる。
2015年に統合プラニング局のチームリーダーに就任。クリエイティブ・ストラテジストとして、戦略から戦術まで一貫したディレクションを行う。
2017年にヒット習慣メーカーズを立ち上げ、顧客の習慣化による事業成長の仕組みづくりを実践している。


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