(本記事は、博報堂 ヒット習慣メーカーズ、中川 悠の著書『カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

習慣トレンドとは?①

習慣トレンドの変化と習慣の栄枯盛衰

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(画像=paikong/Shutterstock.com)

ここからは、「習慣トレンド」とはどういうものなのか?について説明します。まずは、兆し習慣と衰退習慣が、どのような習慣を指しているのかについて説明します。

習慣が生まれてから消えるまでの栄枯盛衰について考えると、習慣トレンドはどのように変化するでしょうか。私たちは習慣トレンドの変化を「習慣トレンドサイクル」と呼び、大きく3つのフェーズに分けて考えています。以下で、それぞれを紹介します。

(1)右肩上がりの成長トレンド(=兆し習慣)

1つ目のフェーズが「兆し習慣」です。生まれた後、実践する人が増えていく右肩上がりの成長トレンドにある習慣を指します。街やSNSで目新しい行動として違和感を感じるところからはじまり、さらに広がるとテレビなどでも“話題の○○”などの形で取り上げられるようになり、世の中の浸透度合いを実感できるようになります。

(2)横ばいの安定トレンド(=定着習慣)

習慣を実践する人の数が横ばいの“安定トレンド”にあるものは、「定着習慣」と呼びます。兆し習慣を経て、世の中に浸透したものがこのフェーズとなり、周囲で実践している人は多いですが、世の中において当たり前となっているため、あまり話題になりません。

(3)右肩下がりの衰退トレンド(=衰退習慣)

習慣を実践する人が徐々に減る、右肩下がりの“衰退トレンド”にあるのが「衰退習慣」です。周りで続けていた人がやめはじめ、メディアでは“○○離れ”などと取り上げられます。時代の変化にともない、時代遅れの習慣となり、消えていくフェーズにあたります。

着目したものが、兆し習慣か?定着習慣か?衰退習慣か?その見極めが、習慣トレンドを捉える上で大きな課題です。100%的中させることは難しいですが、精度を高めることはできます。詳細は後述しますが、例えば、検索数の推移がわかるGoogle Trendsというツールで気になる習慣トレンドを分析すると、ある程度の傾向がつかめます。

習慣トレンドサイクル
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

習慣トレンドとは?②

ブームとトレンドの違い

ラグジュアリー,タピオカ
(画像=Brent Hofacker/Shutterstock.com)

習慣トレンドを捉え、兆し習慣を予測する上で、ブームとトレンドを混同して考えてしまうことがよくあります。これらの違いは、習慣トレンドの捉え方にも関係してきますので、ブームとトレンドは何が違うのかについて、ここで説明しておきます。

まず、「ブーム」とは、短期的な盛り上がりのことを指します。ひとたび人気に火がついてから数か月の間は大きな話題になりますが、しばらくすると下火になってしまうものです。

一方、「トレンド」は、ブームよりも息の長い中長期的な傾向を指します。例えば、糖質オフ習慣は、2012年にダイエット手法として脚光を浴びて以降、一時的に話題になっただけではなく、継続して実践する人が着実に増えてきた習慣です。このように、ブーム=短期的な盛り上がりであるのに対し、トレンド=中長期的な傾向であることが、ブームとトレンドの大きな違いです。

お笑い芸人に例えるとわかりやすいのではないでしょうか。一発ギャグやショーレースで脚光を浴びて、ブレイクした芸人の中には、1年もたたずにお茶の間から飽きられ、テレビで見なくなる芸人もいれば、レギュラー番組をつかみとり、売れ続ける芸人もいます。前者の人気が持続しないケースがブーム、人気が持続し売れ続けるケースがトレンドであると言えます。

ブームとトレンド
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

2019年に話題となった「タピオカ」は、ブームか?トレンドか?比較対象として「パンケーキ」とともに、検索数の推移を分析できるGoogle Trendsで見てみましょう。パンケーキは2013年から成長トレンドに入り、その後現在に至るまで安定トレンドにあります。一方、タピオカはここ数年でパンケーキをしのぐ勢いで急成長し、その後急激に減少しています。タピオカとパンケーキで全く傾向が異なります。タピオカは新たなニュースがない限り、ブームで終わってしまう可能性が高いということです。

タピオカはブームか?トレンドか?
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

習慣トレンドとは?③

時代遅れリスクを避ける

習慣トレンドを捉えることは、新しい商品やサービスを開発するときも有効ですが、既存の商品やサービスをリニューアルするときの大きな判断材料にもなります。例えば、30年前に発売された商品は30年前の社会の常識で考えられて生まれたものであって、今の常識とは知らず知らずのうちにかけ離れてしまい、商品価値が陳腐化しているリスクがあるからです。

居酒屋というと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?

お店によってコンセプトはさまざまですが、多くの場合、ビジネスパーソンがお酒を飲むための場所という大枠からは外れていないはずです。ところが、居酒屋について情報収集をしてみると、そんな当たり前のイメージを覆す情報が見つかりました。

ニュースサイト『しらべえ』の「女子高生がファミレス感覚で居酒屋に?『トラブルの気配感じる』の声も」という記事の中で、女子高生が居酒屋を友達とのたまり場に利用しているという話題がテレビ番組で紹介されたことを受けて、その番組への反響を紹介しています。これは2018年の記事ですが、女子高生が居酒屋をたまり場として活用するという習慣が広がっていることがわかります。他のニュースでも、女子高生以外にも家族連れの利用が増えているなど、居酒屋に関する新しい習慣トレンドを見つけることができました。

もちろん、重要なのはこうした習慣トレンドを受けて、どのような対策を考えるかです。例えば、あなたが居酒屋を経営する立場であれば、女子高生や家族連れにウケるメニューの検討などをするべきかもしれません。もし、この習慣トレンドに気づかずに、これまで通りビジネスパーソンを意識したメニューだけを提案していくと、知らず知らずのうちに時代遅れな居酒屋となり、ビジネスチャンスを失うことにつながってしまうかもしれません。

このように、習慣トレンドを捉えることは、居酒屋=ビジネスパーソンがお酒を飲む場所といった当たり前の認識から離れ、変わりゆく時代に合わせてアップデートをしていく上でも、とても重要なことです。

古い常識と今の常識とのギャップ
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

習慣トレンドとは?④

習慣トレンドが変わる4つの起点

習慣トレンドは、どのようなときに変わるのでしょうか。習慣トレンドを捉える上で、習慣トレンドの起点にどのような要因が潜んでいるのか?を知ることで、敏感に変化に気づきやすくなります。ここでは、具体的な捉え方を説明する前に、習慣トレンドの起点となりやすい4つのパターンをそれぞれ説明します。

(1)海外起点

1つ目は、海外から輸入された習慣が日本で広がるパターンです。例えば、スーツにスニーカーを履いて通勤する習慣や、香る柔軟剤を使う習慣、最小限のもののみで暮らすミニマリスト習慣、QRコードで決済する習慣などが海外から日本に輸入されました。最先端の文化から生まれた習慣が輸入されることもあれば、国が急発展する中で生まれた習慣が輸入されるケースもあります。これらに共通するのは、日本と大きく差がある環境で生まれた習慣であるということです。遠く離れた異国で生まれるからこそ、日本の当たり前をひっくり返すだけのインパクトをもつのです。

一方で、輸入されてもあまり広がらない習慣もあります。それは住環境や日本人特有の国民性など、日本の文化にマッチしないケースです。習慣よりもさらに根強い「文化」に影響されることで、習慣が広がらなくなるのです。

(2)ビジネスモデル起点

2つ目は、新しいビジネスモデルの広がりにともない、習慣トレンドが変わるパターンです。例えば、サブスクリプション型のビジネスモデルが広がり、映画やドラマが見放題の動画視聴サービスが増えました。結果として、通勤中など外出中に気軽に動画を視聴する習慣が広がりました。このように、ビジネスモデルの変化は、商品やサービスのあり方に変革を起こし、新しい生活者の体験を生みます。結果として、これまでになかった習慣が広がることになるのです。その他にも、シェアリング型のビジネスモデルなども、多くの習慣に変化を及ぼしています。

このパターンでは、新しいビジネスモデルが生まれたとき、そのモデルが自社の商品やサービスに転用できるかどうかを考えることが重要です。多少、ビジネスの知識が必要になりますが、しっかりと理解することができれば、今後どのような習慣トレンドの変化が起きるかも予測できるようになります。

海外起点とビジネスモデル起点
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

(3)テクノロジー起点

3つ目は、テクノロジーの進化が新たな習慣を生むパターンです。例えば、スマートフォンの誕生で、SNSや動画を日常的に見る習慣が爆発的に広がりました。他にも、軍事技術を活用してつくられた自動掃除機が、掃除の習慣をガラッと変えたと言えます。歴史に残る偉大な発明は、人々の習慣を大きく変えてきたのです。

テクノロジー起点型に注意点があるとすると、テクノロジーの発明だけで生活者が動くわけではないということです。新たなテクノロジーが実用段階に入り、生活者に受け入れられるまでには、時間を要します。多くの生活者が受け入れたあとでようやく、習慣を変える段階に至るのです。

(4)生活者起点

4つ目は、生活者側から自発的に新たな習慣が生まれるパターンです。これまでのパターンは、商品やサービスを提供する企業が狙って新しい習慣を広げる形でしたが、このパターンは異なります。例えば、1990年代に最盛期を迎えたポケベルは、もともとビジネスパーソンの会社からの呼び出しツールとして開発されたものでしたが、女子高生が語呂合わせでメッセージを送り合うコミュニケーションツールとして習慣的に利用するようになり、社会全体に広まりました。

このように、もともとの商品やサービスのターゲットとして想定されていなかった人たちが、自発的にそれらを活用する方法を発明することで、想定外の習慣が広がることがあります。日々、習慣トレンドを捉えることの重要性を象徴するパターンでもあります。

テクノロジー起点と生活者起点
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)

ここで紹介した4パターンで、すべての習慣トレンド変化を説明することはできません。しかし、これらのよくあるパターンを把握し、将来の習慣トレンドの変化を予測しながら日々の情報収集を行うことで、いち早く習慣トレンドの変化を察知することができるようになります。また、習慣トレンドを捉えたときに、なぜその変化が起きたのか、自分なりに理由を考えやすくなります。

海外からの影響、ビジネスの変化、テクノロジーの革新、生活者の意外な使い方など、習慣にとどまらない世の中のダイナミズムを感じることで、日々の情報収集が一段と楽しくなる副産物もあるので、ぜひ普段から意識してみることをおすすめします。

POINT
(画像=カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-)
カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-
博報堂 ヒット習慣メーカーズ
何度も買いたくなる「仕組み」づくりをしたいという想いをもった博報堂の社内プロジェクト。
戦略から制作まで、リアルイベントからシステム開発まで、多様な専門性をもつ精鋭メンバーが揃った組織横断型のチーム。
中川 悠(なかがわ・ゆう)
株式会社博報堂 統合プラニング局/ヒット習慣メーカーズ リーダー。
大学卒業後、電機メーカーにエンジニアとして入社。携帯電話の設計に携わる。その後広告会社を経て、2008年に博報堂入社。
ストラテジックプラニング職として、商品開発、ブランド戦略、コミュニケーション立案に携わる。
2015年に統合プラニング局のチームリーダーに就任。クリエイティブ・ストラテジストとして、戦略から戦術まで一貫したディレクションを行う。
2017年にヒット習慣メーカーズを立ち上げ、顧客の習慣化による事業成長の仕組みづくりを実践している。


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