本記事は、山口雄大氏の著書『この1冊ですべてわかる 需要予測の基本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=PIXTA)

需要予測の位置づけ

サプライチェーンにおけるさまざまな動きの基になる情報

SCMのトリガー

本書のメインテーマである「需要予測」は、サプライチェーンの中でどのような位置づけにあるのでしょうか。

モノを適切なタイミングで届けるというのは、消費者がほしいときに商品を購入できることといえます。消費者がほしいと思ったときに、そこにモノがあるためには、事前に生産し、運んでおかなければなりません。

消費者がメニューを見て注文してから料理を作る飲食店においても、開店前に食材を用意しておかなければ、料理を提供することはできませんよね。用意するということは、数や量をどのくらい用意しておけばいいかを考える必要があります。これが需要予測です。

「いつ、どれくらいの量が必要とされるのか」という情報は、サプライチェーンにおいて非常に重要です。それに基づき、原材料の必要量が計算されますし、その量を生産するためには、どれくらいの人と時間がかかるかを考えることになります。

また、必要量を運ぶためには何台のトラックが必要か、というように物流も考えます。このように、需要予測はサプライチェーンにおけるさまざまな動きの基になる情報なのです。

情報の流れという側面では、需要予測がサプライチェーンのトリガーともいえるでしょう。鉄鋼業や一部の自動車など、顧客がほしいといってから生産するものもありますが、この形式は受注生産などと呼ばれます。この場合、完成品(顧客の手に渡る姿)の需要予測は不要かもしれませんが、原材料の一部については予測が行なわれていることも多いでしょう。

APICSによると、需要予測の目的は、次の3つの計画を立てるためのものだと説明されています。

①ビジネスプランニング

事業計画のように、数年以上の長期の計画立案です。これには需要予測も必要ですが、長期の環境変化を精度よく想定することはむずかしいといえます。また意思的な要素も考慮する必要があるため、需要予測はあくまでもベースの値や参考値として使われることが多いです。

実際に、数年先の詳細なマーケティング計画が決まっていることは稀です。このときの需要予測の単位は、商品(エンドアイテム)ではなく、一定のカテゴリー(ファミリー)となります。

よって、一般的にSCMにおける需要予測といわれているものとは異なると、私は捉えています。

②S&OP

1~1年半程度の中期の需要予測に基づく、需給リスクの可視化と戦略の実行支援を目指す概念です。APICSの定義では1~3年を対象としていますが、現実的には長くても2年程度が多いようです。

この需要予測の単位は、日本ではカテゴリー単位かつ金額ベースといわれることが多いですが、APICSでは数量ベースとされています(APICSの資格試験を受ける際は注意してください)。

つまり、S&OPではコミュニケーションの相手に応じた単位で整理できることが重要といえます。

③マスタースケジューリング(在庫の補充計画または生産計画)

1か月〜半年程度の短期の需要予測に基づく、必要な在庫量の計画立案です。自社工場で作る場合は生産計画、他社から仕入れる場合は発注量につながっていきます。一般的な需要予測とは、ここで使われるものを指していることが多いです。

短期の需要予測ほど、その数字がほとんどそのまま使われる可能性が高く、需要予測の責任が重くなります。中期、長期と対象期間が長くなるほど、想定や意思が多く含まれる傾向があり、相対的に需要予測の重要度は下がります。

ここで留意すべきは、需要予測はあくまでも予測であり、完璧に当てることはほぼ不可能であるということです。モノを売るためにさまざまなマーケティングが行なわれますが、果たしてそれがどれくらいの効果を生むのかは、その時々の条件によって変わるので、事前に完璧に想定することはむずかしいのです。

テレビCMを投入したら売上はどれくらい伸びるのか、著名なブロガーが取り上げたらどれくらいの人が商品を購入するのか、高度な統計学を用いても、すべての商品について毎回こうした効果を正しく予測するのはむずかしいと想像できると思います。そこで重要になるのが「在庫」です。

この1冊ですべてわかる 需要予測の基本
山口 雄大
東京都出身。東京工業大学生命理工学部卒業。同大学大学院社会理工学研究科修了(認知科学)。同イノベーションマネジメント研究科ストラテジックSCMコース修了。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(フロンティアの経営学)。
資生堂販売株式会社で入出庫、検品、配達等のロジスティクス実務を経験後、株式会社資生堂で10年以上にわたりさまざまなブランドの需要予測を担当。2021年現在はS&OPマネジャー。新商品の需要予測モデルや日別POSデータを使った予測システムの開発、需要マネジメントのしくみ設計や需要予測AIの構築をリードした。
2016年インバウンド需要予測の手法が秘匿発明に認定される。2019年からコンサルティングファームの需要予測アドバイザーに就任。JILS「SCMとマーケティングを結ぶ! 需要予測の基本」講座講師。日本オペレーションズリサーチ学会や経営情報学会で需要予測に関する論文発表を実施。専門誌「ロジスティクスシステム」(日本ロジスティクスシステム協会)に、コラム「知の融合で創造する需要予測のイノベーション」を連載中。
他の著書に『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)、『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術』(光文社新書)、『全図解 メーカーの仕事』(共著・ダイヤモンド社)がある。

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