ウクライナを巡る情勢が緊迫化している中、もしロシアがウクライナに侵攻した場合、米国とEUは、ロシアに対して経済制裁を行うと警告している(2022年2月20日現在)。
そのように事態が進展した場合、ロシア側はEUへの天然ガス輸出を減少させる報復措置にでるのではないかと見られている。EU側には、電力供給のために輸入している天然ガスの多くをロシアに依存しているという弱みがあるためである。
それゆえ、日本政府は輸入しているLNG(液化天然ガス)の一部をヨーロッパ向けに融通する方針であることを明らかにした。萩生田経産相は融通するにあたって、国内の発電事情には影響がないような措置に留めることも同時に表明しているが、米国からの要請を受けた異例の対応を行ったと見られている。
石炭やLNGに依存する日本の電力供給を考えると、冬の寒さによって電力消費が高まることが懸念されているこの時期に、こうした決定が行われたことは、改めて日本のエネルギー資源戦略とはどのようなものであるのか、波紋を広げているといえよう。
これまで、日本におけるエネルギー資源を巡る議論といえば、エネルギー消費大国でありながらも、国内で資源をまかなうことができないため、多くを外国からの輸入に依存する以外に方法はないと指摘されてきた。
天然資源に恵まれていない日本としてのとるべき道は、原材料や半製品を輸入して、加工して製造された工業製品の一部を輸出するという加工貿易国としての発展モデルであり、それゆえに、自国における「資源」の存在、あるいは有効活用の可能性にはあまり目が向けられてこなかったと考えられる。
その理由のひとつとして、GHQは占領当時、日本にいくつかの天然資源が存在していることを把握していたため、占領期を経た戦後の日本は、国際協調のためにエネルギーを買い、加工製品を売るというモデルを選択してきたという事情も考えられる。
▽主要国のエネルギー自給率(2017年、日本のみ2018年度)
しかし、エネルギーや資源を他国に依存している一方で、日本は自らが持つ技術力如何によっては資源となる物資を生み出し、活用できるという能力も持ち合わせているにも関わらず、そうした方法を模索せず、工業輸出国としての立ち位置に終始してきたともいえるのではないだろうか。
その1つの例として、放射性物質「トリウム」の存在を指摘することができる。
「トリウム」とはレアアースが採掘される際には必ず副産物として出るのであるが、日本企業も出資したマレーシアにおけるレアアース製造工場にて、レアアース製造後の「トリウム」が放射性廃棄物として投棄されたという事件などもあり、「トリウム」に関して深く研究がなされてこなかった。
「トリウム」を用いた原子力発電が実用される可能性もありうると指摘されてきた中で、日本として「トリウム」の利用に及び腰だったことは、資源を自前で調達することができる見込みがあったとしても、あえてその方向には進んでこなかった証左であると指摘できるだろう。
他方で、目下の世界では各国が自らの存立をかけてエネルギー確保のための戦略に邁進しているという状況である。それゆえに、日本でも自前で資源を調達すべく、自国における未開発、未着手である資源の存在がにわかにクローズアップされようとしている。
たとえば、2022年1月、島根・山口両県の沖にある天然ガス田について、試掘調査(探鉱)を3月から開始すると資源開発大手インペックス(INPEX)が明らかにした。
見込まれるガス生産量は、年間消費量の1.2%に及ぶとの計算もあり、実現への期待が高まっているが、巨額の投資が必要となる案件であるため、専門家の間では、国家的な関与が必要であるとの声が早くも上がっている模様である。
こうした状況において課題といえるのは、天然ガスの輸送や貯蔵には気体であるがゆえに、原油よりもコストがかかるという点である。液化プラント、専用の輸送船、貯蔵施設の建設など、巨額の投資を回収するためには、売り主は買い主に対し、安定的な収益を確保できるよう、長期的な売買契約の締結を求めるため、競争が十分に働きにくいという特徴がある。
参考:経済産業省>資源エネルギー庁>第3節 原油の価格変動リスクに備えるためのLNG市場等の構築
つまり、天然ガス採掘の動向だけでなく、様々な利権構造に左右されずに適正な価格が実現できるのかという点にも留意していく必要がある。
▽LNGヴァリュー・チェーンの全体像
地政学リスクが高まりを見せる中、日本にあるエネルギー資源の存在に着目していくことを通じて、「資源大国」という側面を確立していくための新たな国家戦略が本格的に動き出すのか、今後の展開から目が離せないといえよう。
グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤