本記事は、天野眞也の著書『シン・営業力』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
「担当者1人=法人」の錯覚
「A社にアプローチし続けたけれどダメだった……」
営業の皆さんであれば、幾度となくそのような経験をしてきたかと思います。
では、そこで質問です。
「あなたはその会社の何人にアプローチしましたか?」
あなたが営業として対峙するのは、「法人のなかの個人」です。法人(お客様企業)のなかには、多くの社員がいますよね。あなたは果たして、お客様になりうる担当者に本当に出会えていたのでしょうか?
よく「A社にアプローチしたのですが、契約できませんでした」「担当の○○さんから難しいと言われてしまいました」などと報告する営業担当者がいますが、これは典型的な機会損失の一例です。「担当者ひとりの見解」を「お客様企業全体の見解」かのように決めつけてしまっているからです。実際には、他の担当者にアプローチすることで製品・サービスの必要性を感じていただき、契約に至ることが多々あります。
法人には、複数の組織があり、それらの組織には複数の社員がいて、「どこの誰にアプローチ」をするのかは営業であるあなた次第です。担当者ひとりにアプローチしてNGだったとしても、そこで「別の担当者につながれないか?」と視野を広げられる営業になりましょう。あなたが取り扱う製品・サービスによっては、別の部門の担当者にもニーズがあるかもしれないからです。
例えば、もしあなたが「採用支援サービスを取り扱う営業」だったら、真っ先に人事担当者(採用担当者)へのアポイントを狙うかと思います。通常であれば「人事担当者(責任者)様はいらっしゃいますか?」「採用担当者(責任者)様とおつなぎいただけますか?」とコンタクトを試みるでしょう。
しかし、人材採用を検討する人は、何も人事部門の担当者だけではないでしょう。人事部門以外でも「うちの部署は今年度○名採用したい」と採用計画を立てている部門長がいるはずです。むしろ、組織内の人が辞める可能性をリアルタイムで把握しているのは、人事部門より先に部下から「退職の相談」をされている部門長です。部門長は欠員補充の必要性をいち早く感じる立場ともいえますよね。
大企業では人事部門が組織化されているため、例に挙げたような他部門の担当者の採用ニーズはそこまで期待できないかもしれませんが、人事部門として組織化されていない、あるいは人事専任の担当者があまりいない中小企業やベンチャー、スタートアップなどに目を向けてみるとどうでしょうか?
また、現在は採用の手法も多様化していて、人事部門が主体ではなく、各部門が主体となって採用活動を行うケースも増えているといいますから、これまでの商慣習にとらわれない部門へのアプローチも有効な手段かもしれません。
あなたが営業として提案する製品・サービスが、お客様企業全体を俯瞰してみた時に誰に求められそうか、発想を広げて考えてみましょう。
「お客様のゴール」を目指すのが営業
ここからは、量を前提としながら、アポイントが取れたお客様に選ばれるために必要なポイントをお話ししていきます。
それは、お客様が目指すゴールが何かを把握し、そのゴールに向かって必要な情報提供と提案をすることです。
よく、「営業としてのゴール」は「営業目標の達成」と勘違いされている方がいますが、それは本質的ではありません。営業が行うべきゴール設定は、お客様目線でなければならないのです。あなたの提案する製品・サービスが、お客様が立てた計画の実現にどう役立つかを考え、お客様の計画に合わせて必要な情報提供や提案を積み重ねる。そうすることで絶大な信頼を得ることができます。
私がキーエンス時代に、とあるメーカーを担当していた時の話です。
当時、そのメーカーは、24時間稼働の生産体制を構築することを目標としていました。その工場は、数十メートルのラインに1,000個以上のセンサがついていたのですが、生産ラインを自動化するにあたっての最大の課題は「センサの誤動作」でした。
大量にあるセンサのひとつでも誤動作すると、全体の稼働に支障をきたしてしまうためです。私は調査をするなかで、その原因が「調整ミス」であることが分かり、(打ち合わせ窓口の設計担当ではなく)実際に使う立場である現場担当のエンジニアを対象に勉強会を実施しました。
キーエンスの製品を提案したのではなく、「センサの誤作動をなくす」というお客様のゴールに向かって一緒に伴走したのです。
結果、現場の理解も深めたことで信頼関係を築き、キーエンスのセンサを優先的に選定してもらえる状態を作り出すことに成功したのです。もちろんお客様は、センサの誤作動のリスクが解消された、安定した生産ラインを実現しました。
お客様の目指したいゴールを理解し、お客様のゴールを一緒に目指していくことで、お客様と営業との関係は、「ビジネス上のおつき合い」から「戦友」のような関係に変化していきます。
そのような関係性を築けたら、お客様はあなたを手放すことはありません。まるで「(自分の会社の)中の人」であるかのごとく相談されるようになります。相談や悩みに答え続けることを繰り返すうち、あなたは「営業しない営業」となっていくはずです。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます