本記事は、NightWalker氏の著書『最強のインデックス投資』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

FIRE
(画像=kt-studio / stock.adobe.com)

早期リタイア者から見たFIRE

ここ数年になって、FIREという言葉が流行しました。FIREとは、Financial Independence,Retire Early の略で、経済的自立(Financial Independence)を達成し、早期リタイア(Retire Early)することを目指す人たちの運動やライフスタイルのことです。

私は、いわゆるFIREではありません。明確な定義があるわけではありませんが、FIREというには少々歳を取りすぎてます。54歳で早期退職で、その後も半年働き、完全にリタイアしたのは、55歳。定年の5年前です。

また、早期リタイアしようと思っていたわけでは全くなく、会社から肩を叩かれたというけっこう情けない、非常に残念な理由です。計画的に資金計画を立ててやってきたわけではなく、気が付いたら、残りの人生に必要なお金も減っていて、経済的自立を達成していたと言うに過ぎません。とは言え、FIRE の考え方には、共感するところがいくつかあります。

自由に生きる

世の中には、「働きたくない」「遊びたい」願望というのがあります。「仕事が苦しい」「もう会社を辞めたい」「会社どころか仕事を辞めたい」「一生遊んで暮らしたい」などなどと、誰しも一度くらいは、こんな妄想にとらわれたことがあるのではないでしょうか。

自由に生きたいというのは、せわしなく生きる現代人の願望のひとつです。

資産運用の仕方はインデックス投資と相通ずる

FIREの運用方法で、いちばん広く知られているのは、「4%ルール」、通称「トリニティスタディ」、トリニティ大学の3人の金融学教授によって1998年に書かれた論文から派生した知見です。

  • 株式と債券のポートフォリオを米国株や債券のインデックスファンドで運用する
  • 当初資産額の4%に相当する額を取り崩し、その後はインフレ分、毎年調整した分だけ取り崩す。

こうすると、30年以上にわたって資産がなくならなかった、というもの。

もちろん、あくまでも米国における試算であり、ポートフォリオの配分や具体的な運用戦略、その結果としての4%という数字そのものも、場合によって異なります。

しかし、退職資金の活用法を目的に書かれたトリニティスタディは、早期リタイアを考えてはいない一般のインデックス投資家にとっても有益なひとつの情報を示唆しています。それは、「インデックス投資で充分リタイアできる」ということ。この考えに乗っかって、

「リタイア資金はいくらぐらいを見込めば良いのか?」
「資産形成の期間は何年くらいが必要か?」

のアウトラインを導き出すことができるわけです。

4%ルールを言い換えると、毎年取り崩したい額の25倍の資金で経済的自立を達成できる、となります。仮に、月20万円の資金が必要であれば、年240万円×25倍で、6,000万円あれば、経済的自立達成です。運用利率を少しゆるめに3%にすると、8,000万円。

また必要な資産形成の期間も逆算できます。運用利率4%の場合の経済的自立達成までの年数は、たとえば、貯蓄率50%の時に17.7年、40%の時に23.4年となります。

17.7年って、いい数字ですよね。30歳に決断しても、50歳前にFIREできます。

 FIREを目指すことによる損失

FIREについては、否定的な側面もあります。

ひとつは、今使えるお金を今使わない、ということによる損失。経済的自由をより早く達成するためには、貯蓄率を上げる必要が生じます。お金がないために若いときにしか経験できないことを経験できないということもあるでしょう。経験には、自由な時間も必要ですがお金もかかるのです。なかなか悩ましいトレードオフです。

もうひとつは、途中でサラリーマンを辞めると仕事で稼ぐ自分の力を放棄してしまう可能性が高い、ということです。

サラリーマンの生涯収入は、2億円とか3億円と言いますよね。でも、新人のころの収入を勤続年数で掛けてもその金額にはなりません。たとえば、年収300万円で38年間働いても、1億円とちょっと。 そうなる理由は、生涯収入が最大化するのが40〜50代だからです。良いか悪いかは別にして、サラリーマンの賃金カーブはそんな風にできています。

さらに、本章の最初の方でお話ししたように、厚生年金の比例報酬部分は生涯年収に比例して増えますから、途中で厚生年金の納付を止めてしまうと経済的自立における重要なパーツである年金パワーを損なうことになってしまいます。

早期リタイアは、そんな金銭的損得と自由への渇望とのトレードオフなのですね。

早期リタイアすると、好きな人になれる

いったんリタイアしたんだけれど、結局またフルタイムで働き出した、というパターンをよく聞きますよね。早期リタイアして、最初は楽しくてしようがなかったが、やがてやることがなくなってしまったみたいな。そういう人は、ひょっとすると、サラリーマンに向いていた人だったのかもしれません。しかし、私はそういう人ではありませんでした。   早期リタイアをすると,ちょっと困る質問に「今、何をやっているんですか?」というのがあります。これに対して、私は、躊躇なく「フリーランス(自由業)です」と答えています。

これは、単なる方便というだけではなく、実際そういうところがあって、「好きなことをやっていても、それは働いているということである」と、気が付いたんです。この感覚は、早期リタイアして8年経った今も継続しています。

サラリーマンをやっていると、仕事に対して、妙に潔癖になってしまいがちです。「これじゃ、仕事になってない」と考えてしまうのですね。でもそこまで厳しく考えなくてもいいんじゃないかと思うようになったのです。

早期リタイアしてしまえば、収入があろうとなかろうと、いろんな人になることができます。サラリーマン時代は、「趣味で演劇やってます」だったのが、「売れない(売れてても良いが)劇団やってます」になりますし、「趣味でブルースハープやってます」だったのが「ブルースハープ奏者」になります。「趣味で」っていうところを取っちゃえばいいのです。もちろん「プロで」と付け加える必要もありません。

私はギターを弾いて唄うのが好きで、たまに外でも唄ったりします。完全にサークル活動です。しかし、下手なのでお金がもらえないだけで、音楽家です。長年、投信ブログをやっていて、早期リタイアを機に、普通の人のための普通の投資の普及を願って、ブログをまめに更新するようになったら、本書を書かせていただくような機会までいただいてしまったので、文筆家でもあります。

リタイアしてしまえば、全てが自由になりますし、ならざるを得ません。

早期リタイアしても、無職ですというのは、あまりオススメできません。せっかく、経済的自立を達成したのです。フリーランスとして自立意識を持つことをオススメします。

収入がなくてもフリーランスと名乗って大丈夫と考えるのが、自由人の発想です。

=『「見えない資産」が利益を生む』より引用
NightWalker(ないとうぉーかー)
インデックスファンドがメインの個人投資家。投資ブログ「NightWalker's Investment Blog」を運営し、「普通の人のための普通の投資」の普及を願って、日々、メッセージを発信中。1984年、普通にサラリーマンになり、39歳の時、ネット証券で株式投資を始め、同時期に投資信託の積立を開始。2015年に退職勧奨を契機に投資で築いた運用資産と優遇退職金で早期退職を決断。ちょっとだけ再就職するもサラリーマンに向いていないことにいまさら気付き、完全アーリーリタイア。
自身が運用中のポートフォリオは、目下、全世界株式一本に集約中。無リスク資産を50%にしたリスク抑えめのカウチポテト運用。著書は『世界一ラクなお金の増やし方 #インデックス投資はじめました』(ぱる出版)。

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