この記事は2023年9月22日にSBI証券で公開された「稼ぐ力はあるが、PBR1倍割れの銘柄」を一部編集し、転載したものです。
目次
稼ぐ力はあるが、PBR1倍割れの銘柄
本年3月、東証はPBR1倍割れの上場企業に対し、改善策を要望しました。政府はNISA(少額投資非課税制度)を拡充しており、今後、株式市場に個人資金の流入増加が大いに期待される所です。また、東京株式市場の魅力を高め、海外からの資金流入を図ることも重要と考えられます。その際、投資資金の受け皿となる上場企業に魅力が乏しくては、資金流入もおぼつかないということになります。
昨年4月からスタートした「東証再編」も、東証への資金流入をうながす重要な施策のひとつとみられます。ただ現実には、旧東証一部銘柄の多くがそのまま東証プライム銘柄に替わっただけであり、「実効性は乏しい」との批判の声も多いようです。そうした中、「上場企業の魅力をどのように高めてゆくのか」という議論が深まることは、株式市場にとって意義深いものであります。
東証のPBR1倍割れ企業への改善要請は、国内外の多くの投資家に「日本の上場会社は前向きに変わってゆく」という期待感を与えました。その効果もあり、TOPIX構成銘柄に占める「PBR1倍割れ」銘柄数の比率は、3月末から9/21(木)までで、52%から48%へ低下しました。
確かに、PBR1倍割れ銘柄の解消は進んでいるようです。「日本株投資戦略」では本年4/7(金)付で「20万円以下で買える! PBR1倍未満で稼ぐ力が強い銘柄は?」というテーマでスクリーニングを行ない、その銘柄をご紹介(図表2)しました。当時のスクリーニング条件の詳細は図表2の脚注に記載してありますが、ポイントは「ある程度ROEが高い(稼ぐ力は強い)のに、PBR、PERで見て割安な銘柄」の抽出にありました。抽出銘柄の株価パフォーマンスは市場(TOPIX)を大きく上回りました。
同様のスクリーニングを行なった場合、好パフォーマンスを期待できる銘柄を抽出できるでしょうか。PBR1倍割れ銘柄は、今も半分近くあるので、その比率は今後も低下が期待できそうです。
今回の「日本株投資戦略」では、PBR1倍割れ銘柄が割安感の解消に向けて動くことにより、株高につながるような銘柄を抽出すべく以下のようなスクリーニングを行なってみました。4/7付とは少し異なります。
(1)東証プライム市場に上場
(2)時価総額500億円超
(3)PBRが0.9倍以下
(4)ROEが8%以上
(5)今期予想PERが12倍未満
(6)前期純利益と比較し、2年後の純利益が増益
図表3の銘柄は上記(1)~(6)の条件をすべて満たしています。掲載は(3)のPBRが低い順となっています。
スクリーニングの「肝」は、(3)~(5)の組み合わせだと思います。一般的にROEの標準は8%(※)と言われており、今回の銘柄はROEが低い訳ではありません。にもかかわらず、PBRもPERも低い銘柄群です。
ROEを改善するためには、自社株買いにとどまらず、事業ポートフォリオの精査や、財務戦略の再検討等も検討されるべきで、リスクやコストを伴う可能性があります。しかし、これらの銘柄は、市場の評価が変わることで、急速に割安感が解消するケースも想定されます。投資家の多くが「魅力」に気が付いていないのかもしれません。株価水準が高く、今回の銘柄群にはあまり入れていませんが、ウォーレン・バフェット氏が割安感に気づいたことで、評価が急速に変わった商社株もそのひとつです。下の図表の中には、そんな商社株に続く銘柄も含まれているかもしれません。
※ROE=PBR/PERです。
9/21(木)時点で東証プライム市場のPER(実績)は16.84倍、PBRは1.33倍ですから
ROE=1.33/16.84
=7.9%
と計算されます。図表3の銘柄は、ROEに関し市場の「標準」を上回っていると見受けられます。
■図表1 日経平均のPBR推移
■図表2 「稼ぐ力はあるが、PBR1倍を割れていた銘柄」が市場平均を大きく上回って上昇
「日本株投資戦略」では、本年4/7(金)付で「20万円以下で買える! PBR1倍未満で稼ぐ力が強い銘柄は?」というテーマのもと以下のようなスクリーニングを行ないました。
(1)東証プライム市場に上場
(2)時価総額1000億円超
(3)銀行、証券商品先物業、保険を除く
(4)PBRが0.9倍以下
(5)ROEが8%以上
(6)今期予想PERが10倍未満
(7)株価が2,000円以下(2023/4/5時点)
図表2の銘柄は上記(1)~(7)の条件をすべて満たしています。掲載は(5)のROEが高い順となっています。上記レポートのデータ基準日となった4/5(水)の各種データと9/21(木)のデータを比較しています。
一部掲載銘柄を解説
松田産業(7456)~貴金属のリサイクルが基幹事業
■貴金属関連、食品関連が2本柱
主力業務は貴金属関連事業(23.3期の売上構成比約70%)です。貴金属の回収・精錬、貴金属の地金・電子材料の販売、産業廃棄物の収集・運搬・処理等を行っており、大手ハイテクメーカー等が主要顧客です。
貴金属とは金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウムの8種類の金属元素です。貴金属は半導体や電子部品の製造に欠かせない重要な存在です。使用済み貴金属、特に電子廃棄物は「都市鉱山」として注目される貴重な資源で、それを「守る」・「活かす」ことが同社の業務となっています。
他に食品関連事業(同30%)を行っており、おもにすり身、貝、えびなどの水産物、野菜などの農産物などを世界各国から仕入、国内顧客(食品メーカー等)に販売しています。
■株主還元に前向き~業績面での底打ちをにらむ
会社側は5/12(金)に24.3期の業績見通しを公表し、売上高3,300億円(前期比6%減)、営業利益90億円(同35%減)としました。この業績見通しを受けて失望感から5/15(月)の株価は139円安と急落。6/1(木)には年初来安値となる2,050円を付けました。
8/10(木)には24.3期1Q決算について、売上高885億円(前年同期比0.4%増)、営業利益24億円(同43.3%減)と発表しました。ただ、同時に自社株買い計画を発表。決算発表後、株価は軟調に推移しましたが、上記の安値は割り込みませんでした。
9/21(木)時点でPBRは0.7倍台で解散価値を大きく割り込んでいます。この日の終値2,354円を会社予EPS(1株利益)249.17円で割った予想PERは9.4倍と割安感の強い水準と言えます。8月下旬以降の株価上昇は、日米で金利上昇傾向となる中、バリュー銘柄(割安銘柄)が注目されやすかったことが影響しています。
24.3期は主要顧客のハイテク業界が、半導体・電子部品等で調整局面にあり、同社もその逆風を受けています。ハイテク業界の底入れが確認されれば、株価も上昇基調となる可能性がありそうです。
会社側公表データによると、ROEは22.3期13.7%、23.3期12.2%で本来ROEも高めです。24.3期は大幅減益となる見通しのため、ROEも低下しそうですが、市場コンセンサス通りであれば25.3期は回復に向かいそうです。
会社資料で確認可能な05.3期以降、1株配当は悪くて横ばい、良ければ増配を続けてきました。24.3期は上期30円(権利付き最終日は9/27)、期末30円、通期で60円が計画されています。9/21終値で計算される予想配当利回りは2.5%と市場平均(日経平均採用銘柄は1.9%)を上回っています。
▽日足チャート(1年)
*データは9/22(日足)10:00時点。
*当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
*上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
▽通期業績推移(百万円)
※当社Webサイトの業績表示ツールをもとに、SBI証券が作成。
ダイダン(1980)~総合設備工事業者。配当性向の目標引き上げ後、増配・株式分割を続けざまに発表
■大阪発の総合設備工事業者
1903年創業、大阪発の総合設備工事業者で、「電気」「空調」「給排水衛生」のプロフェッショナルです。
数々の大型建築物(病院、研究所、工場、オフィスビル、学校、商業施設等)の施工に携わっています。具体的な施工実績として、Dタワー新宿、グランフロント大阪南館、GINZA SIX、官公庁舎、病院等が挙げられます。また、本年7月にはラピダス次世代半導体工場の設計・施工業者に選定されました。
サービスごとの売上高構成比は、電気工事:18%、空調の管工事:60%、水道衛生工事:22%です(23.3期)。主要な顧客として大林組(1802)が挙げられ、全売上高の10%超を占めています(同)。
■配当性向の目標引き上げ後、増配・株式分割を続けざまに発表。財務良好
今期(24.3期)業績予想は売上高2,000億円(前期比75%増)と増収見通しですが、営業利益は85億円(同0.9%増)と横ばい、純利益65億円(同1.9%減)と小幅減益となる見通しです。資機材価格・労務費の高騰などが痛手となっている模様です。また、中計目標であるトップラインの拡大を踏まえ、受注工事高及び完成工事高は前期比で増加を見込んでいます。
ただ、財務の面では短期の安全性指標である流動性比率が176%、長期の安全性を測る指標で100%以下が望ましいとされる、固定比率と固定長期適合率はどちらも50%以下で安定的な水準といえるでしょう(23.3期)。
本年5月、今期(24.3期)から配当方針を変更すると発表。配当性向の数値目標を、従来の30%以上?35%以上に引き上げました。8月には続けざまに、9月末を基準日とした1:2の株式分割と増配実施を発表。株主還元意欲の向上が窺い知れます。
市場全体の割安株選好の流れに加え、株主還元意欲の向上が相成り、9/21(木)時点の株価は年初来高値水準です。当面は、2021/3につけた3,150円が上値の目途と予想されます。
▽週足チャート(3年)
*データは9/22(週足)14:00時点。
*当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
*上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
▽通期業績推移(百万円)
※当社Webサイトの業績表示ツールをもとに、SBI証券が作成。
▽当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。東証プライム市場を中心に好業績が期待される銘柄・株主優待特集など、気になる話題についてわかりやすくお伝えします。