本記事は、坂本正勝氏の著書『生命保険営業大全』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。

心
(画像=Yash / stock.adobe.com)

お客様の心は〝後出しじゃんけん〞で開かせる

冒頭で話したように、私はかつて郵便局で簡保の営業推進担当を務めていました。

郵便局の簡保はどのような目的でつくられたかを知っていますか?

かつて民間の保険は、大金持ちしか加入できませんでしたが、郵便局の簡易保険は「国民に、簡易に利用できる生命保険を、確実な経営により、国民の経済生活の安定を図り、その福祉を増進することを目的とする。」(簡易保険法第1条)と定められ、大金持ちではない人も気軽に利用できる生命保険としてつくられたのです。

誰でも「簡易」に利用できる「保険」。それが「簡保」です。つまり、簡易保険はお金持ちが超お金持ちになるためのものではなく、国民の経済生活の安定を図るためのものなのです。

このように、簡保は大義名分の「大義」がしっかりしています。そのため、新規開拓で新しいお宅へ訪問した際に「何しに来たん?」と言われたら、「こういう大義で来ました」といつもはっきりと伝えられることができました。

私は、生保営業でもこの「大義」をお客様に伝えることが非常に大事だと思っています。ですから、生保営業の際にはいつも最初にはっきりと訪問した大義を伝えています。たとえば「今日はお客様の老後資金の上手な貯蓄方法のお知らせでうかがいました」「学資金の上手な貯蓄方法のお知らせでうかがいました」とお客様にしっかりと伝えています。

ただ、その大義の内容はお客様との世間話から見つけます。「後出しじゃんけん」と同じです。後出しじゃんけんってほぼ勝ちますよね。それはなぜかといえば、相手の「手の内」を先に知るからです。生保営業の大義も後づけでよいのです。

まずはお客様との会話からヒントを見つけた後に、「私は〇〇のためにやってきました」と、さも元から考えていたかのように伝えます。ちょっとずるいように感じるかもしれませんが、生保営業の立派なテクニックです。

簡易保険の営業教育で培った、お客様に寄り添う姿勢

「難しいことをわかりやすい言葉で、簡潔に伝える」

これは、郵便局で営業教育を担当してきたときからずっと大切にしていることです。

難しいことをわかりやすく伝えるのは、実は簡単なことではありません。

人はつい、自分の知っている専門用語を使いがちです。たとえば、解約返戻金、保険金、入院給付金など、テキストで習ったままの言葉を使うほうが楽かもしれません。

でも、これらの用語は、お客様にとってはどれもなじみのない言葉です。難しい言葉を聞くだけで、ただでさえわかりにくい仕組みをさらに難しく感じてしまうでしょう。

商品について説明をする際には、なるべくお客様が知っているような、わかりやすい言葉に置き換えることが大切です。ときには、具体例を挙げながら話しましょう。

たとえば、いきなり給付金という言葉を使うのではなく、「入院したらもらえる入院代のことを入院給付金といいますが……」とひと言添えます。そのほうがお客様も理解しやすいはずです。これはつまり、「お客様に寄り添う」ということでもあるのです。

成果の上がらない生保営業は、「お客様」ではなく「自分」に寄り添いがちです。

生命保険の仕組みは一般の方には特にわかりにくいです。それをいかにわかりやすく、簡単な言葉で伝えることができるか。そうすることによって、お客様に生命保険に対する正しい知識を知ってもらうことができます。

たとえば、生命保険の商品内容には「貯蓄」部分と「掛け捨て」部分があることをきちんと説明します。というのも、たいていどの生命保険商品でも、貯蓄部分と掛け捨て部分がセットになっているからです。「主契約」や「特約」という名前で保険内容が何種類も重なって1つの保険になっているのです。ところが、ほとんどのお客様はそのことを知りません。そこで、「基本保険料はこの部分」「貯蓄分はこの部分」というのをはっきりわかるようにお客様に伝えます。

同じように、解約返戻金についても、「1年目に解約されたら○%、2年目では△%、10年目は□%になります」と正直にわかりやすく伝えます。

メリットもデメリットも、丁寧に話す必要があるということです。誤認されたまま加入し、お客様がいざ利用しようとしたときに、「こんなはずではなかった」「騙された!」などと思うようなことがあってはいけません。

つい、メリットばかりを強調して気に入ってもらおうとしがちですが、デメリットもきちんと正直に説明するようにしましょう。

わかりやすい言葉で説明すると、「わかりやすかった」「親切にしてもらった」「なにかあったらあの人に頼めば安心だ」という思いだけはいつまでも鮮明に残ります。

その記憶は、人から人へとつながっていきます。「あの人の説明、本当にわかりやすかったのよ」「あの人に頼めば大丈夫よ」が連鎖的に増えていくのです。「アナウンス効果」「口コミ効果」といわれるものです。このように、お客様に寄り添った営業は、お客様の心にしっかりと刻まれます。

生保営業の経験が短い人はもちろん、長い人も、お客様にしっかり寄り添う姿勢は忘れないようにしましょう。

生命保険営業大全
坂本正勝
株式会社ALM 代表取締役
株式会社タッチ&ゴー 代表取締役

1967年生まれ、大阪府出身、大阪工業大学工学部中退
1986年、旧郵政省京都山崎郵便局入省。郵便配達から郵便貯金、簡易保険 まで幅広い業務に携わる。その後、異動した東大阪の枚岡郵便局、布施郵 便局で、1993年から1997年の約 3 年半の間、簡易保険の営業に携わり、最 高優績者、国際優績者として年間表彰される。 1997年、近畿郵政局保険事業部営業推進課に異動。営業推進、営業企画の ほか営業教育を担当。その後、尼崎郵便局保険課でプレイングマネジャー として業務に当たるなか、その実績が認められ、全国一のトップセールス として、イギリス、オランダでの海外研修にも参加。 その後、中京郵便局部長、住之江郵便局部長、日本郵便株式会社近畿支社 営業本部営業教育担当係長を歴任。 長きにわたり指導官の認定に携わるほか、新入社員研修や営業向上研修な ど、数多くの研修プログラムを企画・運営。これまで 2 万人超の育成に当 たる。 2010年、店舗型生命保険販売を行う株式会社ALM(保険相談ショップ アル ム)を設立し、代表取締役に就任。「売り込まない営業」でお客様に明るい 未来を提供することをモットーに、自社社員の教育を行うほか、生命保険 会社主催の講演会や、自社主催で全国の生命保険募集人に各種営業研修を 通年実施している。
2023年MDRT(TOT)会員

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