事業承継14

こんにちは、企業の事業承継に取り組む行政書士のS.Kです。

今回は事業承継の方法として第三者に事業を承継させる方法としてM&Aをご紹介します。

【参考 オーナー企業のための事業承継】

オーナー企業のための事業承継vol1「事業承継の必要性と円滑化のための法制度とは?」
オーナー企業のための事業承継vol2「後継者選びのポイントとは?」
オーナー企業のための事業承継vol3「後継者選びのポイントは?その2」
オーナー企業のための事業承継vol4「建設業界に学ぶ許認可事業の事業承継って?」
オーナー企業のための事業承継vol5「会社の現状を把握するポイントとは?」
オーナー企業のための事業承継vol6「企業の事業承継の際の法律上の問題点とは?
オーナー企業のための事業承継vol7「家族の絆を守る後継者以外への配慮とは?」
オーナー企業のための事業承継vol8「後継者の適性・選定のポイント」
オーナー企業のための事業承継vol9「種類株式を使った事業承継?」
オーナー企業のための事業承継vol10「贈与税の注意点って?」
オーナー企業のための事業承継vol11「代表者の個人保証・担保提供の問題って?」
オーナー企業のための事業承継vol12「生命保険を利用した資金対策」
オーナー企業のための事業承継vol13「MBOという手法の活用」


◉M&Aは事業を後世に譲り渡す積極的な方法


M&Aとは、会社ないしは事業の売買を言います。1つ1つの財産や権利ではなくて、会社ないしは事業そのものを売却してしまうという意味で極めて大きな売買契約であるということができます。
M&Aを実施することで事業は承継会社に引き継がれることとなるので当然、企業の事業承継が可能となることになります。

M&Aについては「身売りをする」という悪いイメージをお持ちの方もいらっしゃいます。手塩にかけて育てた事業を売却するということから連想されるイメージがそうさせるのかもしれません。
しかし、事業を残すという意味に着目すれば、企業の伝統を後世に残し、労働者の雇用の場所を確保するなど良い面がたくさんあります。また、M&A実施に関する法律もしっかりと整備されているので、実態に着目すれば悪い面はあまりないというのが実のところです。特に、企業の事業承継という目的に着目すれば、事業を後世に残すためには最も端的な方法ですし(後継者を長い年月をかけて育てなくても良いなど)経営者様も対価を受け取って経営を勇退されることが可能です。

企業の事業承継という目的のためにM&Aは意義のある方法として積極的に捉えていただければと思います。


◉M&Aの様々な手法


M&Aの方法は会社法の規定に従い実施することとなります。
そして、会社法が定めているM&Aの方法には以下のようなものがあります。

①株式譲渡
まず、最も簡易で代表的な方法が株式譲渡によるM&Aです。これは、会社支配権の根拠となる株式を承継会社に移転させて企業の事業承継を実施してしまうというものです。株式の売買ですので、自社の株式さえ収集することができれば非常に簡便な方法です。また、経営者様が株式譲渡による対価を受け取ること、従業員の雇用関係を維持することなども当然可能となります。
ただ、古くから取られている方法であり、このように費用も最も安いものですが、株式を自らそろえておく必要があること(事前に100パーセント経営者様に集中させておくことが一般的なルールです)、経営者様自身が表明保証という契約条項により責任を負う可能性があることなどがデメリットということができます。

②事業譲渡
次に、事業譲渡という方法があります。事業譲渡は、特定の部門のみを切り離して売却する手法です。
例えば、建設事業と不動産事業を営んでおられる企業が、不動産事業のみを売却するという手法です。事業譲渡は、特別決議(株式の3分の2を保有していれば可能となる決議)によって成立するので、株式を100パーセント保有している必要はなく、売却後、経営者様が責任を負うことも原則的にありません。デメリットは、契約手続きが煩雑になるので専門家の関与がほぼ必須であり費用がかかることを挙げることができます(ケースによって清算や剰余金の配当など)。

③合併と株式交換・会社分割
合併は、企業の相続です。つまり、企業が持っている権利義務一切が承継会社に承継されることとなります。合併は、経営者様が企業の事業承継の対価を直接受け取ることができ、事業譲渡と同じく3分の2の株式保有で良いなどの点はメリットですが、手続きが煩雑であることや簿外債務を承継される可能性があることなどによりあまり企業の事業承継の手続きとしては用いられることがありません。

株式交換は、完全親子会社を形成するための方法であって一般のM&Aでは多く利用されますが、こと企業の事業承継においては合併と同じようなデメリットがあるので、企業の事業承継の方法としては不向きと言われます。
会社分割は、事業の一部を切り離して承継させたり独立させる方法ですが、これもまた同じようなデメリットがあるので、事業承継の方法としては不向きとされます。

結局のところ、企業の事業承継のためにM&Aを実施するにあたっては、株式譲渡によることが簡便であり、次に述べるデュ-デリジェンスを経れば表明保証による責任を負う可能性も少ないので、基本的には株式譲渡の可能性から検討することが良いのではないかということができます。