日銀のスタンスは「政府の財政政策に期待」で目標達成目指す
物価目標を早期に実現するためには、財政政策による需要拡大策、そして成長戦略と構造改革による企業部門の刺激策が重要だ。物価目標の実現のためには、政府との協働と時間が必要あることを確認することになるだろう。日銀が、消費税率引き上げなどの緊縮財政が物価目標達成を阻害してきたこと、そして金融政策だけでデフレから完全脱却することは困難であることを認められるのかが焦点である。
そして、2%の達成時期は、財政政策や海外経済・マーケットの動向にも依存すると判断し、早期達成には、政府にも一定の責任があることを示す可能性がある。麻生財務大臣と黒田日銀総裁の会談では政府・日銀が協調してデフレ完全脱却を目指すことが確認されている。加えて、G20では財政政策の役割の重要性で合意しており、政府も異論はないと考えられる。
日銀も、7月の決定会合で「きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮するものと考えている」と異例の声明を出している。ポリシーミックスの考え方に前向きであり、目標の早期達成へのスピードは政府の財政政策に、期待するというスタンスになろう。
骨太の方針が発信する財政拡大のスタンス
金融政策から財政政策に、デフレ完全脱却に向けた政策の軸足は、移りつつあると考えられる。8月の概算要求から始まる2017年度の政府予算の議論では、財政拡大の動きへの変化がみられるだろう。追加的な赤字国債を出さない、というのは本予算対比の話であり、既に赤字国債を発行している本予算自体では、赤字国債を財源とした財政拡大は、いくらでもできることになる。
安倍政権が注力している「一億総活躍社会」の関連予算の財源として、アベノミクスにともなう経済成長で、底上げされた税収を当てることができるのか、議論が進んでいるようだ。税収が増加していても、赤字国債発行額をほとんど減少させなければ、安定財源としての活用を始めたことになる。
更に、2020年度のプライマリーバランスの黒字化は、フローでの単年での目標であり、2019年度までは赤字を大きくし、景気刺激を続けても問題にならないばかりか、それで景気拡大が強くなれば、2020年度の黒字化の可能性は高まることになる。
2017年度の政府予算編成に向けた骨太の方針からは、昨年度まであった財政収支に対する警戒感を示す「赤字」という言葉、そして歳出増加に対して「デフレ脱却・経済再生の中で、金利動向と財政収支にも十分注意する」という警句が消えている。政府の「経済再生なくして財政健全化なし」という方針がより純化し、財政緊縮から拡大に転じている。2%の物価目標の早期達成に向けて、政府も一定の責任を引き受けることに前向きだろう。
〜「 日銀は緩和効果をより強くする方法に踏み出せるか?後編 」につづく〜
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト
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