(本記事は、久慈直登の著書『経営戦略としての知財』株式会社CCCメディアハウス2019年4月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

対立ではなく連携が進む

データ,はてな
(画像=TierneyMJ/Shutterstock.com)

データは、その発生から加工まで関与者が多い。

例として、ある個人が自動車でドライブするときのデータへの関与者を考えてみる。

 ①生データ発生の主体として個人がいる。どこに行くかという目的地と経路を決めて、自動車の運転操作をし、それにより走行データや自動車部品の使われ方などのデータが発生する。

 ②運転操作のどの部分の情報を取り、目的地と経路までの周辺環境や交通状況をどの程度集めるか、というデータ取得プランを作る者がいる。

 ③取得プランにしたがい、実際に取得するのは各種情報のセンサーメーカーである。センサーは、自動車の各部品についている。

 ④部品メーカーもそこに関与する。

 ⑤それを統合するのは、自動車メーカーである。

 ⑥取得したデータを整理し、学習用データセットとしてまとめあげる者がいる。

 ⑦それを使って解析し、学習済みモデルを作る者がいる。

 ⑧学習済みモデルをヒントにして、新しいサービスを提供する者がいる。そしてそれを利用し、新たなデータを発生させる個人が再度登場し、サービスの向上に向け、このサイクルが循環する。

これだけで、主な登場人物は8人である。

データ発生の主体の個人は、個人情報の一定の保護の対象にはなるが、ビジネス上の当事者ではない。ビジネス上は、これだけの関与者がいると、データの取り扱いについて、それぞれの投資や貢献に応じて権利やリターンの利益を主張することになる。しかし、調整はなかなか難しい。

対立構造としてあるのは、データ発生側である自動車・自動車部品・家電・流通などのグループと、データ加工側である検索サービス・eコマース・ソーシャルネットワーク・デジタルコンテンツなどのグループの二つである。

しかし、対立構造というのは概念上の架空の話にすぎない。自動車会社のようなデータ発生側グループの企業は、自分でデータ処理をするように動く。理由は、データの利用による新しい価値の発見はデータ処理により行われるものであり、その付加価値の高い仕事を、みすみす外部に行わせることはないからである。汎用ソフトウエアのようなものを利用すれば、ディープラーニングであってもデータ発生側の企業が自分で行うことができる。

このあたりが、今後のイノベーションのホットスポットである。

データは、大規模なもののほうが役に立つとなると、データ発生側グループの企業連携が進むであろう。その場合、自動車業界、建築業界というように、日本で業種ごとに日本企業がデータを軸にして連携が進むのは役に立つ。世界と戦うための日本企業の知的資産であるデータの共通基盤が、固まることになる。

このことは、後に述べる、知財をツールとして日本企業が連携する戦略の推進の追い風になる。

経営戦略としての知財
久慈直登(くじ・なおと)
日本知的財産協会専務理事。元本田技研工業知的財産部長。
1952年岩手県久慈市生まれ。学習院大学大学院法学研究科修士課程修了後、本田技研工業株式会社に入社。初代知的財産部長を2001年から11年まで務めた。
11年よりIP*SEVA(日米独の技術移転ネットワーク)ASIA代表、12年より日本知的財産協会専務理事、知財関連の5団体の理事、14年より日本知財学会(IPAJ)副会長を務めている。
著書に『知財スペシャリストが伝授する 喧嘩の作法』(ウェッジ)がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます