(本記事は、久慈直登の著書『経営戦略としての知財』株式会社CCCメディアハウス2019年4月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

米国が使う3つのカード

知財融資
(画像=iamnoonmai/Shutterstock.com)

コダックは知財を抵当にして、銀行から1000億円を借りることができた。

米国では、特許全体の20%に抵当権が設定されているようである。その抵当権はベンチャー企業の育成が目的ではなく、基本的には大企業が業績悪化時に融資を受ける目的のものである。

現時点で、特許を抵当にした資金の借主のトップは、GM(ジェネラルモーターズ)である。

これを聞くと、GMの経営は大丈夫なのか、とGMに友人の多い私はふと思うが、企業が銀行から融資を受けるのは当たり前のことなので、危ないということではないだろう。米国での融資側は、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ドイツ銀行などの超一流銀行である。

米国で知財融資が発達した理由は知財評価方法の確立、貸し倒れリスク低減サービス、貸し倒れのときの流通市場による資金回収の確実性、この3つのカードが揃ったことである。

このうち知財評価方法は、米国知財訴訟においてダメージエキスパートたちが、損害賠償額を高くする試みの中で形成されていった。ちなみに日本には、ダメージエキスパートという専門家はいない。

貸し倒れリスク低減サービスは、例えば知財を評価し回収確実な金額を算定の上、銀行に保険を提供し、貸し倒れのときは知財を引き取り自ら市場に出して金を回収する、といった仕事である。サービスエージェントとしての彼らの活躍が、知財評価による銀行融資を安心なものとして支えている。これも日本にはない。

最後の出口として、企業が手放した知財を換金できる健全で客観性のある流通市場ができていることが大きい。

この3つのサイクルがあることにより、知財を担保として融資をすることに銀行が積極的になり、発展した。

あなたもエンジェルに

ベンチャー企業の育成は、銀行の融資と同時に投資家の役割が大きい。融資は低金利で金を貸して回収を確実にするが、投資はハイリスク、ハイリターンを目指す。

ベンチャー企業への投資は、主としてベンチャーキャピタルとビジネスエンジェルが対応する。ベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業に投資する大企業との仲介をする斡旋の仕事をする企業である。ビジネスエンジェルは個人の投資家であり、直接ベンチャー企業に投資をする。

ベンチャーキャピタルは通常1億円以上のレベルの投資であり、ビジネスエンジェルは、1000万円レベルの投資である。ビジネスエンジェルは、小さくてもこれから可能性のあるベンチャーの裾野を広くサポートしている。

ベンチャーキャピタルの投資先は米国で3500社ほどあり、ビジネスエンジェルの投資先はその10倍以上の5万社を超えている。ベンチャーキャピタルもビジネスエンジェルも、それぞれ総額では3兆円ほどの投資をしている計算になる。

小さなベンチャー企業の経営者にしてみれば、自分の親や親戚に借りられるお金もあまりなく、大企業からの投資を受けるにはまだまだ不十分という段階のときに、天使のごとく光に満ちて札束を持って現れるのが、ビジネスエンジェルである。

ただしこの天使たちは、投資の見返りはしっかり要求してくるのでボランティアではない。成熟したビジネスとして行っているのである。

ビジネスエンジェルは、米国に30万人いる。日本では800人ほどである。数字をちゃんと見てほしい。日本の経済規模からすれば、日本に米国の4分の1の8万人近くのビジネスエンジェルがいてもいい。日本で「みなさん、退職金をエンジェル資金にしましょう」キャンペーンがあってもいいかもしれない。

経営戦略としての知財
久慈直登(くじ・なおと)
日本知的財産協会専務理事。元本田技研工業知的財産部長。
1952年岩手県久慈市生まれ。学習院大学大学院法学研究科修士課程修了後、本田技研工業株式会社に入社。初代知的財産部長を2001年から11年まで務めた。
11年よりIP*SEVA(日米独の技術移転ネットワーク)ASIA代表、12年より日本知的財産協会専務理事、知財関連の5団体の理事、14年より日本知財学会(IPAJ)副会長を務めている。
著書に『知財スペシャリストが伝授する 喧嘩の作法』(ウェッジ)がある。

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