(本記事は、久慈直登の著書『経営戦略としての知財』株式会社CCCメディアハウス2019年4月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

外資、外国人を入れないようにしてきたツケ

グローバル行動力
(画像=PKpix/Shutterstock.com)

日本企業が国策によって外国勢から守られてきたのは、事実である。

明治以降、外国資本が日本の産業を牛耳ることのないように規制と牽制を続け、先進国では世界でも稀な自国企業による支配中心の産業を育ててきた。

GDP比で見て外資系企業を受け入れている比率の少ない国は、最下位からブルンジ、アンゴラ、ネパール、日本、東ティモールと続く。

日本や他の国は外資から見て魅力が乏しそうだが、先進国の中では見事なまでに日本だけが外資の圧力から保護された結果になっている。日本は国策で、歴史的に外資系企業を拒否し続けてきたのである。

しかし、保護された企業は保護された分、普通ひ弱になる。日本企業はうまくいった反面、海外対応のひ弱さもそのまま続いてしまったと思う。

外資系企業が入ってこられなかったことと同様に、日本企業の中にも外国人社員が少ない。日本人だけの企業は、同じタイプの社員が多くなり、 意見も同質になる。誰に聞いても同じような答えが返ってきて、居心地のいい会話の中でよくわからないながらもうなずき合うのが社内のコミュニケーションスタイルであり、異論を唱える人は目配せで敬遠される。

以前、世界のホンダグループの知財メンバーと一緒に仕事をする経験を持ったが、日本への逆駐在も含めて、英国人、ドイツ人、米国人、カナダ人、ブラジル人、中国人が同僚であり、関係する他部門の人も入れると、外国人との仕事が日常的な仕事であった。

そこでは、日本のために仕事をするというセリフは全くナンセンスである。日本のグローバル企業に勤務したいとする外国人は優れた国際感覚を持っている人が多いため、それに合わせて日本人も国際人になる。

彼らの意見は国際的な視野を持っており、参考になるものが多い。彼らは、意見や主張をはっきり言わないと、彼らにとっての外国人である日本人社員に伝わらないので、可能な限り明確に発言する。

他方、日本人同士の会話は半分テレパシーでも使っているのではないかと思うほど、不明瞭であり、わからなくてもうなずき合っていることが多い。

日本のメディアの記事も、大手の経済誌などいくつかの例外を除き、あまりにもローカルである。米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官は、日本は部族社会であり部族内の揉め事のほうが国際問題よりも大切な国、と大変失礼な発言をしたが、当たってはいる。

日本企業はもっとグローバルの戦いを

国によって保護されてきた日本企業は、日本市場の中では同業者がいくら多くてもパイを分け合ってビジネスを行ってきた。それでは、より大きくなるためにグローバルの戦いに出ていくかというと、そうではない。

ドルベースの輸出額をGDP比で見ると、208カ国中ほとんど最下位クラスの183位である。日本のGDPの大きさにもかかわらず、輸出で勝負していない。

日本の中小企業で輸出をしているのは、中小企業全体のうち、2.8%である。日本と同じような規模の製造業の国であるドイツの中小企業は約30%が輸出をしていることと比べると、その差は大きい。

そうしたことを考えると、いまさらながらだが、グローバル化のチャレンジに、今後の日本企業の活路がある。

スイスにあるIMDの国際調査ランキング2017によると、日本企業のビジネス部門の国際経験は、調査対象の63カ国中、なんと最下位の63位である。

もっと高いと思う人が多いかもしれないが、国により保護され続けた結果、日本に留まって国際経験をしておらず、この結果である。これは、今まで国際経験がなくてもやってこられたという過去を証明している。

だが、ここでも開き直って、これから先は国際経験をする可能性がある日本企業がたくさんある、とレトリック上は言い換えることが可能である。

日本企業の企業行動力の順位も、やはり堂々の最下位63位である。

ランキングをつけるときはいくつかの指標により採点するが、ここでの指標は、企業が世界でどう行動しているかを見ており、国際経験のランキングと関連している。

日本と各国の経済連携がもっと進むと、否応なしに日本企業はもっと国際競争をしなくてはいけない。

どう戦うか、作戦を考えなくてはいけないが、特に国際知財戦略は、今後のグローバルの戦いの場では全社員必須科目である。

外国人社員を増やす

米国の東海岸の企業は20世紀的なエスタブリッシュメントであり、社風は日本企業と類似する。両者とも同じようなタイプの社員が多いことと、なんとなく停滞感を感じさせる雰囲気があることも、共通する。

他方、米国の西海岸の企業はアジア各国の人材を大量に受け入れて発展している。半導体は台湾、ソフトウエアはインド、組み立てはASEAN各国であり、そこから人材を受け入れている。

アジアからの優秀な人材が西海岸の大学に留学した後、西海岸の米国企業に就職し、母国との橋渡しをしている。

日本でも、このサイクルがあるといい。

そのためには日本の大学がもっと多くの優秀な外国人を受け入れ、彼らをできるだけ日本企業が採用し、彼らの母国企業との連携を活発にすることが、いいサイクルを作る。

日本企業でグローバル展開をしているところといえども、かつては外国人社員をその国の現地法人で使う程度にしか考えていないことが多かった。

これからは、出身国の企業と日本企業とのオープンイノベーションのインターフェイスとして活躍する重要な存在、として位置づけられる。

企業のグローバル行動力強化は、日本人社員が海外で学ぶと同時に、外国人社員の新しい活用によりスパイラルアップするであろう。

経営戦略としての知財
久慈直登(くじ・なおと)
日本知的財産協会専務理事。元本田技研工業知的財産部長。
1952年岩手県久慈市生まれ。学習院大学大学院法学研究科修士課程修了後、本田技研工業株式会社に入社。初代知的財産部長を2001年から11年まで務めた。
11年よりIP*SEVA(日米独の技術移転ネットワーク)ASIA代表、12年より日本知的財産協会専務理事、知財関連の5団体の理事、14年より日本知財学会(IPAJ)副会長を務めている。
著書に『知財スペシャリストが伝授する 喧嘩の作法』(ウェッジ)がある。

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