2019年もだいぶ押し迫ってまいりました。投資家の皆様の運用成績はいかがでしたでしょうか。年末はそんなことも気になる季節です。ただ、押し迫ったとはいえ、12月もまだ3週間ほどを残しています。運用成績向上のために、打てる手は残っていないでしょうか。そのひとつが、年間120万円までの配当・譲渡益が非課税となるNISA(少額投資非課税制度)の活用かもしれません。
注意しなければならないのは、この非課税枠のうち未使用分を翌年以降に繰り越せる訳ではないことです。このため、年末はこうしたNISAの未使用枠を利用しようと「駆け込み」で投資してくる投資家も増える傾向があるようです。特に、予想配当利回りの高い銘柄への投資は、NISA枠を活用する場合としない場合で、配当の手取り金額がかなり異なってくることもあり、人気の高い投資戦略のようです。
ただ、銘柄選択を誤ってしまうと、業績悪化等で株価が大きく下がり、譲渡益への課税を心配するまでもなくなってしまうというケースも増えてきます。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、東証1部銘柄の主力銘柄を対象に、業績堅調で予想配当利回りの高い銘柄を抽出してみました。
日本たばこ、ソフトバンクなど、業績堅調な高配当利回り銘柄を抽出
冒頭でご説明した通り、今回の「日本株投資戦略」では、東証1部の主力銘柄を対象に、業績堅調で予想配当利回りも高い銘柄を抽出することとしました。NISAの非課税枠を有効活用しようと考えている投資家の方にも参考にしていただけると思います。
(1)東証1部上場銘柄であること
(2)銀行、証券、保険、REITを除く業種であること
(3)時価総額が1,000億円以上であること
(4)予想配当利回り(市場予想)が4%超の銘柄であること
(5)直近の四半期累計営業利益が前年同期比で増益となっていること
(6)直近の四半期累計営業利益が減益の場合は、営業減益率が10%未満で、その増減率が通期予想営業増減率より大きいこと
(7)営業利益の比較ができない銘柄の場合、純利益が(5)または(6)の条件を満たしていること
これらの条件をすべて満たす銘柄を、予想配当利回りの高い順に並べたものが表1になります。
予想配当利回りは中間および期末に支払われる予定のすべての配当を受け取ったときの予想1株配当金を基準に計算されています。期末の配当だけを受け取っても、表記の年度ベースの予想配当利回りが得られるわけではない点に注意が必要です。さらにここでは、市場予想の1株配当金を基準にした予想配当利回りも計算しています。会社予想の配当利回りを基準にした場合、年度の途中まで予想配当金を未定とする企業も少なくなく、それらの銘柄の多くが抽出されないケースが増えると考えられるため、市場予想の1株利益を参考にすることには意義があると考えられます。
高い配当利回りを享受しようとする投資戦略であり、中間配当、期末配当の両方を享受することを狙うことになるため、投資スタンスとして中長期投資になりやすいと考えられます。そのため、業績的にも堅調な銘柄を選ぶべく、(5)~(7)の条件を入れています。ただ、値上がり益の確保を中心に据えた投資戦略でないため、大幅減益が懸念される銘柄でなければ許容される形になっています。
それでも、個別銘柄の業績悪化やそれを主因とする株価下落リスクをすべて排除することは困難です。そのため、分散投資によりリスクを分散する投資戦略が有効になります。表1の銘柄はすべて、最低売買単位が100株であり、上位5銘柄を100株ずつ買っても、合計金額は110万円弱(諸コストは未考慮)にとどまり、仮にNISAの非課税枠がすべて未使用であれば、これらの銘柄を最低売買単位買えば、対応できることになります。ご参考までに、この5銘柄の予想配当利回りの単純平均は5.58%と計算されます。
表1 業績堅調な高配当利回り予想銘柄
コード / 銘柄 / 株価(12/5)(A) / 予想1株配当金(通期)市場予想(B) / 予想1株配当金(通期)会社予想 / 予想配当利回り(A)/(B)
<2914> / 日本たばこ産業(12) / 2,497 / 154.00 / 154.00 / 6.17%
<7224> / 新明和工業 / 1,472 / 87.33 / 87.00 / 5.93%
<9434> / ソフトバンク / 1,478 / 85.94 / 85.00 / 5.81%
<7270> / SUBARU / 2,850.5 / 144.00 / 144.00 / 5.05%
<5857> / アサヒホールディングス / 2,670 / 132.67 / 120.00 / 4.97%
<8078> / 阪和興業 / 2,881 / 135.00 / 未定 / 4.69%
<9810> / 日鉄物産 / 5,160 / 230.00 / 230.00 / 4.46%
<5301> / 東海カーボン(12) / 1,088 / 48.00 / 48.00 / 4.41%
<8591> / オリックス / 1,837 / 77.96 / 76.00 / 4.24%
<1808> / 長谷工コーポレーション / 1,426 / 60.00 / 60.00 / 4.21%
<4005> / 住友化学 / 509 / 21.25 / 未定 / 4.17%
<8020 / 兼松 / 1,448 / 60.00 / 60.00 / 4.14%
<8031> / 三井物産 / 1,979 / 81.56 / 80.00 / 4.12%
<1820> / 西松建設 / 2,488 / 101.40 / 100.00 / 4.08%
<6417> / SANKYO / 3,700 / 150.00 / 150.00 / 4.05%
※会社公表データ、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。市場予想はBloombergが集計した市場コンセンサス。結果的に、3月決算銘柄と12月決算銘柄のみの掲載となっており、12月決算銘柄は銘柄名の右に(12)と記載しています。なお、新明和工業(7224)などのように、記念配当が加味されているケースもあります。
【ご参考】配当との比較で割安感が目立つ東証上場銘柄
一般的に、企業の利益が増え、配当が増えれば、それに応じて株価は上昇する傾向があります。その意味で、過去20年の大半の期間、TOPIXはその1株利益や1株配当の増加とともに上昇してきた形(図1の左)になっています。企業業績に対する不透明感から予想1株利益が低下しているにもかかわらず、株価が上昇している足元の状況はむしろ、異常な状態と言えるかもしれません。
ただ、企業の予想1株配当が増えるのと同じペースでは、株価は上昇してこなかったと言えるかもしれません。図1の右のグラフでは、株価は約20年かけて「行ってこい(元の水準に戻ること)」の形状になっていますが、予想配当利回りは上昇基調になっています。言い換えれば、配当利回りの面からみて、日本の株は割安感が増していると言えるのではないでしょうか。
東証上場で時価総額1千億円以上の企業というのは、市場から相当高い信認を得ている企業と言えるでしょう。それらの企業の多くで、予想配当利回りが4~5%にも達する現状は、慣れてしまった感はありますが、やや特異な状態ではないかと感じられます。高い配当利回りを求めて、中長期的スタンスで投資する戦略は、意外に、値上がり益を狙う戦略としても有効かもしれません。
図1 TOPIXと予想配当・予想配当利回り等の推移(月足)
※TOPIX株価データをもとにSBI証券が作成。なお、予想PERの記録がない月については、便宜的に予想PER1000倍として計算しています。
鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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