(本記事は、高橋慶行氏の著書『12万人が学んだ 投資1年目の教科書』かんき出版の中から一部を抜粋・編集しています)
相場の4つのサイクルを知ろう
この項目の3つのポイント 1 金融相場、逆金融相場を知ろう。 2 業績相場、逆業績相場を知ろう。 3 相場の4つのサイクルを理解しよう。
相場にはサイクルがあり、景気も好況と不況を繰り返します。景気がいいときと、景気が悪いときでは、投資家としてのポジションの取り方にも違いが出るので、このサイクルについては理解しておく必要があります。
一般的に不況となるとモノが売れなくなり、企業の業績は悪化します。そうなるとリストラが増え、失業率が上昇し、世の中全体が暗い雰囲気に包まれます。この状況を打破するために、日本の中央銀行である日本銀行(以下、日銀)が行う金融政策が、金利の引き下げ=金融緩和です。
金利を引き下げると、会社や個人が銀行からお金を借りやすくなります。すると会社は設備投資をしやすくなり、個人は買い物や投資をしやすくなります。設備投資によって売上が向上し、社員の給料が増えれば、個人も買い物や投資をしやすくなります。日銀が金融緩和を行うときには、このような景気回復のシナリオがあるわけです。
では金融緩和で相場はどのように動くでしょうか。まず日銀が金融緩和を発表すると、それだけで株価が上がり始めます。この状態を「金融相場」と言います。金融相場では、業績不振の企業であっても株価が上昇する傾向があります。
その後次第に企業の業績が回復してくるころには、金融相場は終わり、好業績の企業の株が買われる「業績相場」が始まります。この時期になると、業績が向上する会社が増えるので、相場全体で買われることになります。
さらに景気が良くなると、今度は過熱する景気を抑えるために、日銀は少しずつ金利を上げていきます。これを「金融引き締め」と言います。
金融引き締めが行われると、投資家の資金が株式市場から預金や債券に流れ、市場全体が下落していくのが一般的です。これを「逆金融相場」と言います。逆金融相場では、金利が高くても業績に影響の出にくい、つまり借金が少ない企業の銘柄が注目を集めます。
さらに、高金利に耐えきれなくなって業績が悪化した会社が増えてくる時期を「逆業績相場」と言います。逆業績相場になると、リストラに取り組む企業が注目されるようになります。
こうして世の中に不況感が漂い始めると、日銀はまた金融緩和を実施し、再び「金融相場」が始まります。
大切なことは相場にはサイクルがあるということです。金融相場や業績相場では買いポジションを取るほうが有利なことが多いですし、逆金融相場や逆業績相場では売りポジションを取るほうが有利なことが多いでしょう。もちろんチャートのサイン(トレードエッジ)を見て、逆のポジションを取ることもできますが、それは失敗するリスクも高いので、慎重なリスク管理が必要になるということなのです。
経済に関心を持ち、相場との関係を学ぼう
この項目の3つのポイント 1 経済の話と相場の話をつなげよう。 2 何を見れば経済が読めるのか、ポイントを知ろう。 3 国が出すデータから世の中を読む具体例とは。
これから株やFXで利益を上げていこうという話と、日本経済が今、どのような方向に動いているのかという話には、強い関係があります。したがって株や為替をはじめとした投資全般で利益を上げたいというのであれば、経済に関する最低限の知識は身につけておかなければなりません。
経済を理解するには、一般家庭、企業、政府の3つの登場人物がいることを第一に押さえてください。経済というものは、この3つの登場人物が絡み合いながら作っていくものなのです。
一般家庭とは、まさに私たちのことです。私たちは仕事をします。仕事の内容は大きく言えばモノやサービスを作るということになります。そして会社はその対価として給料や報酬を私たちに支払います。政府は、私たち一般家庭や企業から税金を受け取ります。その税金を使って、私たちに警察、消防署、学校、道路などの公共サービスを提供します。
このような形で3つの登場人物が、お金とモノやサービスを交換し合う全体を経済活動と呼びます。
ここまでの話は学校でも習う話ですが、もう少し深く知識を掘り下げていくと、経済の話と相場の話がつながっていることがわかります。
経済が今どのような状態になっているのかを客観的に見るために用いられる「経済指標」というものがあります。経済指標は数え切れないほどたくさんありますが、ここでは相場との関係が深いもののうち代表的なものだけご紹介しましょう。
●GDP(国内総生産)
GDPとは、1年間に国内で新たに生産された財・サービスの価値の合計です。国家の経済力を示す指標として一番わかりやすいものであり、その国の国民の生活水準を反映するものです。GDPが前年と比較して上下したかどうかで、その国の生活水準が上がったか、下がったかがわかります。
●失業率
失業率とは、失業者を労働力人口(失業者と就業者の合計)で割ったものです。
仕事に就くことで安定的に給料の支払いを受けている人が増えれば、消費も増えます。消費が増えれば景気は良くなりますが、物価も上がっていくため、過度なインフレが起こらないように、政策金利(公定歩合)を上げる必要が出てきます(金融引き締め)。逆であれば、消費が減り、景気が悪くなり、物価も下がるので、デフレが起きないように政策金利を下げる必要が出てきます(金融緩和)。
前述したとおり、政策金利の上下は相場に影響を与えます。失業率はその政策金利に影響を与えるわけですから、当然ながら重要な指標となります。
●貿易収支
日本は島国であり、貿易で黒字なのか赤字なのかは、日本経済に大きな影響を与えます。特に円の価格に影響します。
貿易収支とは、要するに日本の輸出額と輸入額の関係であり、輸出額のほうが多ければ黒字、輸入額のほうが多ければ赤字となります。黒字であれば円高要因となり、赤字であれば円安要因となります。
輸入額や輸出額といった金額は、財務省のホームページに直近の貿易統計を確認するページ(財務省貿易統計、 http://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm )があり、そこから入手できます。自分の目で確認しておきましょう。
●消費者物価指数(CPI)
CPIとは全国の世帯が購入する製品やサービス価格の平均的な変動を測定した指数で、インフレ(一般に好景気だとインフレになります)かどうかを判断する最も重要な指標です。そのCPIの中でも最重視されるのが、価格変動の大きい食品やエネルギー等を除いた「コアコアCPI」です(ちなみに生鮮食品を除いたものが「コアCPI」で、総務省はそれも発表しています)。
コアコアCPIが上昇してインフレが加熱すれば金融引き締め政策を、下落してインフレが落ち着けば金融緩和政策をそれぞれ実施される可能性が高くなります。どちらが行われても相場が動き始めることになります。
なお総務省は、毎月末に当月の東京のCPIと前月の全国のCPIを発表しています( https://www.stat.go.jp/data/cpi/ )。
●M2
日銀は毎月の第7営業日に、前月の「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」を示すマネーストック統計( https://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/index.htm/ )を発表しています。
マネーストック統計にはいくつかの指標が含まれていますが、その中で相場の動きと関係する指標がM2と呼ばれるものです。M2は、現金通貨と預金通貨と準通貨とCD(Certificate of Deposit、譲渡性預金、第三者に指名債権譲渡方式で譲渡することができて、自由に発行条件を定めることができる預金)の合計額で、世の中に実際に出回っているお金の総量になります。この量が増えるということは経済が活性化しており、今後インフレ、すなわち好景気になりやすいことを意味します。
つまり1ヵ月分だけ見ても相場への影響はわかりません。何か月分かを追いかけて、傾向を把握しておくべき指標です。
●Nikkei日本製造業PMI
Nikkei日本製造業PMIとは、英マークイット社が約400社の購買担当者に聞き取り調査をして、毎月算出する製造業の景況感指数です。指数50 が景況感の境目で、50を超えると業況は拡大、50を下回ると業況は縮小基調となります。速報値が当月20~25日に発表され、確報値が翌月月初に発表されます。
日本では製造業の景況感が産業全体に与える影響が強いので、日本株や円の取引をする際にはぜひ押さえておきたい指標です。
●景気ウォッチャー指数
景気ウォッチャー指数とは、内閣府が街角の景況感を調べるために毎月実施する「景気ウォッチャー調査」を基にした景気指数(DI)のことで、街角景気指数とも呼ばれています。日本経済の状況を最も早く把握できる重要な指標です。毎月月末の調査が、翌月第6営業日に発表されます( https://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher_index.html )。
0から100の値を取り、0だとすべての人が景気が最も悪いと判断している状態、100だとすべての人が最も良いと判断している状態です。
タクシー運転手や百貨店などの小売業の店員、製造業や金融業の従業員、税理士まで、景気を敏感に観察できる立場にある2050人の協力を得て調査、作成されます。これらの人々は、おそらく日本のどんなエコノミストよりも景気を敏感に察知しています。
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