企業が環境の変化に対応しながら成長を続けていくために、欠かせない戦略の一つが新規事業の立ち上げです。しかし、実際に携わったことのある経営者や担当者は少ないのが現実です。「何から手を付ければいいのかわからない」といった悩みを持つビジネスパーソンは多いといえます。
新規事業の立ち上げにはさまざまなタスクが発生し、検討すべき要素は多岐にわたります。また、事業として取り組む以上、利益の出るビジネスモデルを構築する必要があります。本稿では、立ち上げる際に必要なプロセスや注意点、フレームワーク、成功事例をお伝えします。
なぜ新規事業が必要か?
そもそもなぜ新規事業展開が必要なのでしょうか。その目的やメリットは次の通りです。
・企業の長期的な存続のため
・社会の変化を成長に変えられる
・成長志向の組織に変えることができる
それでは具体的に見ていきましょう。
企業の長期的な存続のため
新規事業の立ち上げに取り組む目的の一つは、企業の長期的な存続のためです。国内経済が長期低迷し、市場が伸びにくいなかで、既存事業だけで成長を図るには限界があります。そして、成長を続けない企業はやがて衰退していきます。
コンサルティング会社のマッキンゼーが過去30年にわたってアメリカの上場企業を調査したところ、成長率がGDPを上回っている企業は、そうでない企業に比べて5割ほど会社が存続する確率が高かったということです(※)。裏を返せば、成長しない企業は消滅する可能性が高いということです。
成長を実現する手段の最たるものが新規事業の加速です。どんどん立ち上げて成長を果たすことが、企業の存続につながります。
※野中賢治、梅村太朗『マッキンゼー 新規事業成功の原則 Leap for growth』日経BP 日本経済新聞出版、2022年
国内の調査でも同様の状況は見て取れます。新規事業展開に成功した企業と成功していない企業に対する調査によると、新事業展開に成功した企業ほど経常利益率が増加傾向にあることがわかっています。
社会の変化を成長に変えられる
既存事業だけでは社会の変化に対応できないというのも、新規事業に取り組むべき理由の一つです。コロナ禍やインフレなどの逆風に見舞われたことで、既存事業が急激に縮小して市場からの退場を余儀なくされた企業は数多くありました。変化に対応できない企業は、残念ながら衰退せざるを得ません。
一方で、環境の変化をチャンスに変えた企業もあります。茨城県ひたちなか市で写真スタジオなどを運営する小野写真館では、コロナ禍で結婚式が減った影響で売上高が約8割減りました。しかし、スマホアプリ事業と老舗高級旅館を買収し、写真館サービスと組み合わせた新たな事業を始めたことで、売り上げをコロナ前の水準にまで急回復させました(※)。
※「コロナ禍で中小のM&Aに変化 アプリと旅館を買収した写真館「今が事業拡大のチャンス」東京新聞、2021年9月5日
小野写真館の事例以外にも、オンライン診療やオンライン体験ツアーなど、コロナ禍の逆風のなかで新サービスが次々と登場しています。社会が変化する時は、新たな価値観が生まれるタイミングでもあります。新規事業に取り組む企業は、その変化を好機と捉えることができます。
成長志向の組織に変えることができる
企業にとって既存事業の拡大も重要ですが、その戦略は「市場シェアの数%を競合から奪い取る」といった方向性になりがちで、大きな成長にはつながりにくいという一面もあります。どうしてもこれまでの延長線上での取り組みになるため、従業員が獲得する経験も限られてしまいます。
しかし、新規事業に取り組めば従業員は全く新しい経験を数多く積むことになり、能力が大きく伸びる可能性が高まります。事業が実際に成功すれば、売り上げや利益の大きな伸長という成果を得られます。さらに組織全体を活性化させ、「自分たちの力で新たな市場を創造する」といった成長志向を持つ会社に生まれ変わることができるのです。
『2016年版中小企業白書』でも、「新規事業展開を実施したことによる効果」として「従業員の意欲向上」が上位に挙げられていました。
新規事業を立ち上げるプロセス
新規事業の立ち上げは、どのように進めていけばいいのでしょうか。大まかなプロセスは、「①新しい事業アイデアを考える」「②市場ニーズの調査・分析を行う」「③事業戦略を練る」「④事業計画書を作成する」「⑤事業を立ち上げ改善する」というステップです。それぞれのステップを解説していきましょう。
①新しい事業アイデアを考える
まずは事業の種となるアイデアを考えます。アイデア創出ノウハウは世の中にたくさんありますが、ここでは新規事業に特化した方法として以下の4つを紹介します。
ユーザーの不平不満や課題を探る
新規事業のアイデアを生み出す考え方の一つが、ユーザーの不平不満を探る方法です。どのような優れた商品・サービスでも不平不満を抱えているユーザーはいるはずで、その不平不満を解決することがビジネスにつながります。キュービーネットが展開する1,000円カットの美容室QBハウスも、「美容室は髪を切るだけでいいから安くしてほしい」という不平不満から生まれたと考えられます。
ユーザーの不平不満を知るには、有料のマーケティングリサーチを使う方法もありますが、より手軽にできるのがAmazonなどのECサイトのレビューを確認する方法です。売れている商品であっても、「低評価レビュー=ユーザーの不平不満」があり、そこに儲かるヒントが隠されています。売れている商品の不平不満を解決すれば、より高い満足度を与えられる商品をつくることができるからです。
商品レビューと同じように、「Yahoo!知恵袋」や「教えて!goo」などのQ&Aサイトも参考になります。特定のキーワードを入れて検索することで、ユーザーが知りたいことや悩んでいることなどリアルな姿が見えてくるからです。大量のQ&Aを見ることがアイデアの発掘につながります。
アイデアを生み出す発想法3つ
ビジネスになりそうなアイデアを生み出すための、3つの簡単な発想法をご紹介します。
・逆張り発想法
・掛け算発想法
・モノマネ発想法
(1)逆張り発想法
売れている商品・サービスの逆を考える発想法です。あのヒット商品は「大衆向け」だから、「富裕層向け」にアレンジしたらどうか。「痩せたい人向け」のサプリがあるなら、「太りたい人向け」のサプリは売れるだろうか。日傘は「女性向け」のイメージがあるけれども、「男性向け」にしてはどうか……といったように、何でも逆に考えてみると新しいアイデアが生まれる可能性が高まります。
(2)掛け算発想法
複数の商品やアイデアを掛け合わせて新しいアイデアを生み出す方法です。お互いに関係ないもの同士を掛け合わせることで、面白いアイデアが生まれます。「寿司」と「ベルトコンベアー」を組み合わせることで、「回転寿司」が生まれるといった要領です。新規事業のアイデア探しで行う場合は、自社の独自技術や保有資産と全く関係のないキーワードの組み合わせを考えてみるといいでしょう。
実現可能性などは考慮せずに、ゼロベース思考でさまざまな要素を掛け算してみてください。
(3)モノマネ発想法
売れている商品・サービスをまねて応用する発想法です。対象となる商品・サービスの切り口やコンセプト、販売方法、広告展開、商品名の付け方などを、知的財産権の侵害にならない範囲でモノマネするという方法です。
例えば、カーシェアなどを参考に始まったシェアサービスは、民泊、配車サービス、貸し会議室、スキルシェアなどに応用され、幅広いシェアリングエコノミーを生みました。業界を超えてビジネスコンセプトをモノマネした例といえます。
アライアンスを前提に考える
新規事業の種となるアイデアを思いついたとしても、自社のリソース(人材やノウハウ、販売チャネルなど)だけではそのビジネスを推進できない可能性があります。しかし、あきらめる必要はありません。自社単独での実施は無理だとしても、パートナーとアライアンスすることで実現可能性は大きく高まるからです。
アライアンスの類型には、技術連携や業務連携、産学連携、オープンイノベーションなどさまざまなものがありますが、目的はいずれもお互いのリソースを補完して大きな成果を生むことです。「自社の技術があの市場でも生かせるかもしれない」「あの業界での販売チャネルや参入資格があれば当社の商品を売れるかも」といった点があるならば、アライアンスを検討してみましょう。
②市場ニーズの調査・分析を行う
筋の良さそうなアイデアを見つけたら、ユーザーは本当にいるのか、その商品・サービスは求められているのか、市場のニーズを調査する必要があります。市場ニーズの調査・分析を行うための基本的な手法をいくつかご紹介します。
3C分析
「自社(Company)」「競合(Competitor)」「市場(Customer)」の3つの視点から市場を分析する手法です。
まず市場を分析し、見込み客がどのような悩みを持ち、今までにその悩みをどう解決してきたのかを探ります。次に、これから参入しようとする分野において、どんな商品・サービスがあるのかを調べます。その上で、自社の強みを生かしてどんなビジネスを展開していけるかを考えます。「顧客(市場)ありき」で考えなければ、新規事業が空振りに終わる可能性が高くなります。
SWOT分析
自社環境を客観的に分析するためのフレームワークがSWOT分析です。自社の内部環境を「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」で、外部環境を「機会(Opportunity=プラス要因)」と「脅威(Threat=マイナス要因)」でとらえ、それぞれの要素を挙げていきます。
強みの例としては「既存事業の顧客数」や「ブランド力」などが、弱みの例としては「人材不足」「新規事業分野での実績不足」などが挙げられます。機会の例としては、市場の拡大や法改正など追い風の要因が、脅威の例としては反対に向かい風となる要因が挙げられます。
クロスSWOT分析
SWOT分析をより精緻に行うためのフレームワークが、クロスSWOT分析です。SWOT分析では「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4要素をそれぞれ分析しましたが、クロスSWOT分析ではこれらの要素を組み合わせて、以下のような状況分析を行います。
①積極的攻勢:「機会」と「強み」の組み合わせ
(例、既存顧客に新製品を売り込み、その成功事例を生かして成長市場を開拓する)
②段階的施策:「機会」と「弱み」の組み合わせ
(例、人材不足を採用によって補い、市場拡大に備える)
③差別化戦略:「脅威」と「強み」の組み合わせ
(例、独自サービスを確立して、価格競争の激しい市場で生き残る)
④戦略的撤退:「脅威」と「弱み」の組み合わせ
(例、撤退を検討する)
STP分析
「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の3つのプロセスを通じて、市場における優位性を探っていく分析手法です。
セグメンテーションのプロセスでは、ニーズや性質に応じて顧客をグループ分けします。ターゲティングでは、同じニーズや性質を持つ顧客の集団(セグメント)のなかから、ターゲットとするセグメントを絞り込みます。不特定多数を対象にする商品は誰のニーズも満たさないので、できるだけ絞り込むことことが重要です。
最後のポジショニングでは、競合製品と差別化して顧客へアピールできるように提供する商品・サービスの価値を明確に位置づけます。
③事業戦略を練る
「②市場ニーズの調査・分析を行う」の分析結果を元に事業戦略を練っていきます。つまり「誰に、何を、どのように売っていくのか?」を明確にします。事業戦略を考える際には、次のようなフレームワークが役立ちます。
4P戦略
次の4つの視点から売れる仕組みを考えるフレームワークです。
①Product(商品):どのような商品・サービスか?
「顧客に対してどのような価値を提供するのか」と言い換えることもできます。新商品を開発するだけでなく、既存の商品との組み合わせなども考慮しながら顧客に対して価値のある商品・サービスを考えます。
②Price(価格):いくらで売るのか?
値決めは重要な検討事項です。京セラ創業者の稲盛和夫氏も、「値決めはトップの仕事。お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点である」と語っています(※)。競合商品との比較も踏まえた上で、自社にとって利益が最大になる価格を慎重に探る必要があります。
※「稲盛経営12ヵ条」稲盛和夫OFFICIAL SITE
③Place(流通):どの販売チャネルで売るのか?
商品・サービスを顧客に届けるまでの販売・流通網の構築について考えます。チャネルには、直販と代理店経由、対面とネットなどさまざまな方法がありますが、いずれにしても大切なことは顧客ファーストの視点です。
④Promotion(販売促進):どのようなプロモーション活動をするのか?
プロモーションの方法としては、広告やパブリシティ、販売促進、人的販売、口コミなどが考えられます。限られた資金を活用して効果を上げるためには、インターネットを使ったプロモーションから検討してみるといいでしょう。
AIDMAモデル
プロモーション戦略を考える上で、消費者の購買行動プロセスを表す代表的なモデルが「AIDMA(アイドマ)モデル」です。消費者がある商品を知って購入するまでには「Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)」というプロセスがあり、これらに即したプロモーションを実施することが大切とされています。
現在ではAIDMAだけでなく、ネット上での検索行動も含めた「AISAS」や「AISCEAS」などの購買行動プロセスも提唱されていますが、基本的な流れは同じものと考えていいでしょう。
アンゾフの成長マトリクス
4P戦略によって新規事業を立ち上げることに成功したら、次のステップとしてさらなる成長・拡大を目的とした戦略が必要になります。その際に参考となるのが、アメリカの経営学者イゴール・アンゾフが提唱した成長マトリクスです。
アンゾフの成長マトリクスでは「製品」と「市場」の2軸を、それぞれ「新規」と「既存」の2軸で捉えて成長の方向性を探ります。その結果、成長戦略は「市場浸透戦略」「新製品開発戦略」「新製品開発戦略」「多角化戦略」の4パターンに分かれます。これを元に、どのような順で戦略を展開して成長・拡大を図るのか検討していきます。
ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルの立ち上げで役立つ思考フレームワークが「ビジネスモデルキャンバス」です。1枚のシートのなかに、ビジネスモデルを考える際に必要となる「9つの要素(顧客セグメント、顧客関係、提供価値、チャネル、収入構造、費用構造、業務活動、経営資源、提携先)」が詰まっています。
この要素を埋めていくだけで、事業を実現するための課題が明確になるとともに、抜けている要素に気づくこともできます。具体的な事業計画を作成する前に、ビジネスモデルキャンバスを作成して思考を明確化するといいでしょう。
ビジネスモデルキャンバスは、創始者であるアレックス・オスターワルダー氏が代表を務めるストラテジャイザーのホームページからダウンロード可能です。
④事業計画書を作成する
事業戦略の案がまとまったら、新規事業戦略を実行に移すための具体的な事業計画を作成します。
3年間の数値目標を立てる
まずは3年後に到達したい売上目標を設定し、その上で3年後に至る過程として1、2年目の売上目標を設定します。そして1、2年目の売上目標を達成するためには製品別にどのくらい売ればいいのか、「製品単価×件数」を分解していきます。すると、各年度の製品別売上目標が明確になります。
ここであまりにも無謀な目標を立てているようなら、目標数値や製品価格などの見直しが必要になります。さらに、売上原価や販管費を設定することで、より精緻な予測PL(損益計算書)を作成することができます。
資金計画を考える
作成した予測PLを元に、収支計画を策定します。入金・出金のタイミングも考慮した試算を行い、現金収支計画表も作成することで、初期に準備すべき必要資金が明確になります。
必要資金が明確になったら、その調達方法を考えます。会社の余裕資金を投入するのもいいですが、新規事業展開する際に利用できる融資や補助金もあるので積極的に活用するといいでしょう。
変動費と固定費を洗い出す
事業計画では、売り上げだけでなく損益にも注意を払う必要があります。最低限押さえておきたいポイントは費用を構成する変動費と固定費であり、中身を徹底的にチェックしてムダを省くことで利益を確保できる事業計画を策定できます。新規事業ではマーケティング経費が大きくなりがちなので、適正な額に保つ意識が重要です。
⑤事業を立ち上げ改善する
計画策定まで終わったら、いよいよ事業を立ち上げるステップとなります。立ち上げた新規事業を着実に軌道に乗せるための施策は次の通りです。
PDCAサイクルを回す
事業計画の実行にあたっては、PDCAサイクルを回していくことが必須です。PDCAとは、「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)」のサイクルのことで、典型的なフレームワークですが使いこなせば非常に強力なマネジメント手法となります。小さな失敗を繰り返しながら高速でPDCAサイクルを回していくことで、事業計画を実現に近づけていきます。
事業拡大の準備
新規商品やサービスが立ち上がったら、次はビジネスとして拡大していく段階です。事業のスケールを大きくして、大きな利益の獲得を目指します。この段階で目を向けるべき要素は、テクノロジー、製品・サービス、顧客獲得、人材・チーム、事業運営の5点です。ここでは顧客獲得と人材・チーム形成についてやるべきことを知っておきましょう。
顧客獲得
現在あるリソースで、より多くの顧客を効率的かつ効果的に獲得していく方法を考えなければなりません。
BtoCサービスの場合は、製品開発・販売・マーケティングが一体となったチームを作成し、販売チャネルやセグメントごとのコンバージョンなど、全員が同じ指標を使いながら改善点を検討していきます。
BtoBサービスの場合は、いわゆる「THE MODEL型」と呼ばれる営業プロセスを取り入れます。つまり、「認知拡大」から「リード獲得」「リード育成」、そして「有望リード」を選定して「アポイント・訪問」「商談」「受注」につなげるプロセスです。事業拡大には、こうした体制を整えていく必要があります。
人材・チーム形成
事業拡大で最も大きな課題となるのが人材です。適切なタイミングで適切な人材を投入できれば事業を大きく伸ばせますが、人材が足りなければ事業拡大の足かせになります。その際、当然ながら新規事業に適した人材を投入する必要があります。
特にIT人材は不足傾向にあって採用も難しいため、確保するためには相応のコストや時間が必要になることを覚悟しておかなければなりません。
新規事業の成功例4つ
他社はどのようにして新規事業を立ち上げ、発展させていったのでしょうか。業種も企業規模もさまざまな企業の成功例を4つ紹介していきます。
①富士フイルム
富士フイルムでは2000年以降、主力だった写真フィルム事業がデジタル化の波を受けて大幅に縮小しました。同社は「本業消失」の危機を乗り越えるためにコア技術を生かした新規事業を模索し、化粧品や医薬品といった事業を展開して成功させました。現在では、化粧品や医薬品を含むヘルスケア事業は同社の主要事業の一角となっています。
一方、富士フィルムのかつてのライバルで写真フィルム事業を主力としていたコダックは、環境の変化に対応できず破たんしています。
②和多屋別荘
和多屋別荘は佐賀県嬉野温泉にある旅館運営企業で、新型コロナ禍で大きなダメージを受けました。利益率の低い従来型の宿泊ビジネスから脱却するため、新規事業として2万坪の敷地を活用したサテライトオフィス事業を開始しました。4社が入居したほか、有名パティスリーショップなどのテナントも誘致したことで地元客の需要の取り込みを進めています。
これらの取り組みによって安定した賃料の確保に成功するとともに、知名度の向上や既存事業とのシナジー創出に成功しています。
③ワークマン
ワークマンは、現場作業向けの作業服や関連用品を販売する専門店チェーンとして知られていました。しかし、今では「WORKMAN Plus」「#ワークマン女子」など、お洒落で手ごろな価格のアウトドアウェアやスポーツウェアも販売するアパレルブランドとしての地位を確立しています。新業態に展開するきっかけは、ECサイトの台頭や作業服市場の限界を感じたことでした。
同社は、縦軸に「市場」の大小、横軸に「価格」の高低という4象限で市場を細かく分析し、「機能性」が高くかつ「低価格」のポジションに巨大な空白市場を見つけました。このブルーオーシャン市場に乗り込んだことが、後のワークマンの躍進につながりました。
④ゑびや
伊勢神宮の参道にあり、100年を超える歴史を持つ老舗企業「ゑびや大食堂」。経営不振に陥ったこの食堂の建て直したのは、ITの力でした。それまで手書きだった帳簿をデータ化し、POSシステムを導入しました。さらにExcelや機械学習、RPA、カメラ、AI画像解析ツールなどを駆使し、売り上げや客数の予測を高い精度で的中させられる仕組みを考案したことで、店舗の生産性を大幅に向上させました。
さらにはその店舗分析のノウハウを製品化して販売し、コンサルティングサービスも含めた新事業「EBILAB」を立ち上げました。自社の成功ノウハウを他社に展開することが、有望な新規事業になるという一例です。
【参考文献】
松本剛徹、小島幹登『99%失敗しない新規事業の創り方』ぱる出版、2022年
木下雄介『改訂新版 超図解! 新規事業立ち上げ入門』幻冬舎メディアコンサルティング、2022年
野中賢治、梅村太朗『マッキンゼー 新規事業成功の原則 Leap for growth』日経BP 日本経済新聞出版、2022年
福田 康隆『THE MODEL』翔泳社、2019年