認知症のリスクは「レム睡眠の割合」に反比例
普通、「寝ている間は何も考えていないのだから、脳は休んでいて、あまりエネルギーや酸素は必要ないのではないか」と思われがちです。
しかし、〝寝ている間には、寝ている間特有の脳活動に切り替わる〟と考えるのが正しいでしょう。寝ている間にも脳はしっかりと働いており、そのような特有な脳活動のことを、睡眠と呼ぶべきなのです。
睡眠には、深い眠り(ノンレム睡眠)と浅い眠り(レム睡眠)の周期が存在しています。ノンレム睡眠中には、成長ホルモンの分泌が上昇したり、ストレスホルモンの分泌が抑えられたりするなど、脳や体の回復が促進されると考えられます。
一方でレム睡眠は、一般に夢を見ている睡眠といわれており、脳細胞は、ノンレム睡眠とはまた別の働きをしていると予想されます。このような睡眠のリズムが、精神疾患や認知症の発症リスクに関連していると考えられています。
筑波大学の研究者らが、組織深部を直接観測できるレーザー顕微鏡を利用して、レム睡眠中のマウスの脳の血流が活発になっていることを見いだしました。
つまり、レム睡眠中は脳で活発な老廃物の排出と、新鮮なエネルギーとの物質交換が行われ、脳がリフレッシュされていると考えられます。
認知症の発症のリスクが、脳細胞が発生する老廃物と関連があるとすれば、レム睡眠中の老廃物のリフレッシュが、認知症の発症を抑えるためには重要です。
通常、レム睡眠は90分周期で訪れます。したがって、睡眠時間が短くなるほどレム睡眠の割合も低くなるので、認知症のリスクが高まるというのは、納得の結果といえます。
毛内 拡
脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員等を経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を行っている。趣味は道に迷うこと。
主な著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員等を経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を行っている。趣味は道に迷うこと。
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『すべては脳で実現している。最新科学で明らかになった私たちの「頭の中」』