近年、「BPR」の導入を検討している企業が増えています。企業活動に劇的な変革をもたらす可能性があり、変化の激しい現代においては欠かせない施策の一つです。本記事ではBPRの定義やメリットと注意点、事例、手法と進め方などについてお伝えします。自社での展開を考えている方、基本を知りたいという方の参考になれば幸いです。

目次

  1. BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは
  2. BPRと似た用語との違い
  3. BPRの事例3つ
  4. BPR導入のメリット3つ
  5. BPRの手法3選
  6. BPRの進め方5ステップ
  7. BPRを導入する際の注意点
  8. BPRとはわかりやすく言うと「全体最適の追求」

BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは

BPRとは?用語から進め方まで、事例とともにわかりやすく解説
(画像=dizain/stock.adobe.com)

BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)は経営改革における方法論の一つです。多くの企業で抜本的な改革が必要とされている中、注目を集めています。

BPRの定義と意味

BPRとは、簡単に言うと「業務改革」という意味です。

この概念は、1993年に発行されたマイケル・ハマー&ジェイムズ・チャンピーによる書籍『リエンジニアリング革命』がベストセラーになったことをきっかけに、知られるようになりました。

同書では、BPRを「ビジネス・リエンジニアリング」または単に「リエンジニアリング」と呼んでおり、次のように定義しています。

「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれをデザインし直すこと」

引用:マイケル・ハマー&ジム・チャンピー、野中郁次郎監訳『リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新」日本経済新聞出版、1993年

BPRは、「企業の業務プロセスを抜本的に見直して最適化する行為」とも言い換えられるでしょう。

企業におけるBPRの必要性

国内企業を対象にしたアンケート調査によると、「BPRの情報収集をしている。または取り組みの検討を始めている」企業の割合は、2004年の8%から2014年には18%に増加しています。

参考:日本能率協会コンサルティング『「BPR(業務の抜本的改革)」に関する実態調査報告書』2014年

BPRが注目を集めている背景として、経済環境を取り巻く変化の速さやダイナミックさが挙げられます。

IT技術は進歩し続けており、デジタル化競争が激化しています。コロナ禍によって火がついた DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、多くの企業にとって無視できない課題となっています。

BPRとIT技術は切っても切り離せない関係にあります。

「2025年の崖」をご存じでしょうか。既存の社内情報システムの複雑化により、全社的な最適化や横断的なデータ活用が難しい状況に直面している企業が少なくありません。

この問題は、既存システムが事業部門ごとに構築されていたり、過剰にカスタマイズされていたりするために発生します。その経済損失は非常に大きく、2025年以降、年間最大12兆円発生すると試算されています。

参考:総務省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

企業が競争力をつけていくためには、既存システムにとらわれずに業務プロセスそのものの見直しが必要とされることもあります。そこで、抜本的な改革が可能なBPRが注目されているのです。

BPRと似た用語との違い

BPRには類似したさまざまな用語があります。それらの用語との目的や対象範囲、着目点の違いについて、以下の表にまとめました。

用語目的対象範囲着目点
BPRパフォーマンスの劇的な改善全体組織における業務プロセス業務プロセス
業務改善パフォーマンスの改善担当部門における業務の一部個々の作業
DX競争力の強化製品やサービス、業務プロセスなど、全てと言ってよい情報技術
ERP経営資源の効率的活用管理システムデータ

業務改善とBPRの違い

業務改善は業務プロセスの一部の変更や削減、付加などによって、コスト削減や品質向上などの効果を得ようとする施策のことをいいます。組織横断的な業務プロセスの変更は行わず、担当部門や担当者、あるいはチーム単位で取り組むのが一般的です。

BPRは組織全体で抜本的に業務のプロセスを見直すものです。場合によっては、全体最適化のために担当部署の業務そのものがなくなることもあります。

業務改善とBPRの違いは、取り組む主体と対象範囲の大きさといえるでしょう。

DXとBPRの違い

DXとBPRは改革が組織全体に及ぶ点や情報技術が重要な役割を担う点で共通しています。

DXの定義は次の通りです。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

引用:経済産業省『デジタルガバナンスコード2.0』2020年11月9日策定・2022年9月13日改訂

BPRが業務プロセスに着目していることに対し、DXの範囲はビジネスモデルや製品・サービスそのものの変革に及びます。

また、BPRにおいてIT技術は非常に重要であるものの、それがすべてではありません。一方、DXはその名の通りIT技術の活用が前提になります。

BPRを行うことがDXにつながることがあり、DXを進めたら結果的にBPRが実現したということもありますが、必ずしも両者の目的と行動は一致しません。

ERPとBPRの違い

ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング、 企業資源計画)とは、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を統合管理する手法のことです。会計システムや顧客管理システム、人事給与管理システムなどを一元化したツール自体を指すこともあります。

ERPは資源の効率的な配分を目的として行われますが、BPRはプロセスというヒトやモノの「流れ」を合理化するための手法という点で異なります。

BPRの事例3つ

ここまでBRPの定義についてお伝えしてきましたが、より理解を深めていただくために具体的な事例を3つ紹介します。

1.IBMクレジット(金融業)

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米国IBMの完全子会社であるIBMクレジットは、コンピューターやソフトウェアなどの販売に伴う融資を行う会社です。融資の要請を受けてから審査が完了するまで平均6日間を要しており、その間に他社から顧客を奪われたり取引を解消されたりするという課題がありました。

業務プロセスは5ステップにわたって行われ、各ステップはそれぞれ別の部門の担当者たちが対応していました。同社は複数のスペシャリストによる処理を、コンピューター・システムと一人のゼネラリストによる対応に置き換えることによって、処理時間を4時間に短縮しました。

これにより業務プロセスの90%以上の時間削減に成功し、人員をわずかに減らした上で、取り扱う案件数は100倍に増えました。

他部門にわたる複雑な業務を一部門に集約することによって、劇的にパフォーマンス改善した事例です。

参考:マイケル・ハマー&ジェイムズ・チャンピー、野中郁次郎監訳『リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新』日本経済新聞出版、1993年

2.E社(製造業)

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E社は日本国内の複数箇所と海外に拠点を持ち、電気機器の製造を行っています。同社は本社に「業務改革本部」を設置して長期計画でのBPRに取り組み、中期には制御機器統括事業部門における拠点の再編成を行いました。

例えば、再編成前には次のように拠点間における業務の重複がありました。

・国内拠点A:商品企画・開発・生産
・国内拠点B:商品企画・開発・生産
・国内拠点C:生産技術
・海外拠点D(中国):生産

これらの拠点を統廃合し、次のように編成し直しました。

・国内拠点A:品質評価、購買調達
・国内拠点B:顧客サービス
・国内拠点E:新規企画・開発・生産
・海外拠点D(中国):既存商品の生産拡大

あわせて国内外の拠点で、原材料の調達から生産、在庫管理、配送までの一連の流れを管理する「SCM(サプライチェーン・マネジメント)」を刷新して効率化に取り組みました。

その結果、固定費を90億円圧縮するという目標を達成し、売上が半年で8割増加した拠点もあります。

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング『民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究

3.札幌市(自治体)

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BPRは民間企業だけではなく行政においても力を発揮し、「自治体BPR」と呼ばれることもあります。

札幌市では全業務のプロセスをタスクレベルに分解して業務量とともに可視化し、「理想と現実のギャップ=課題」の明確化を事実に基づいて行えるようになりました。すると、新事業導入の際に実証実験のムダを回避できるようになり、業務時間を数千時間削減できたといいます。

参考:総務省『地方公共団体における行政改革の取組』令和2年3月27日公表

BPR導入のメリット3つ

BPRには、パフォーマンスの改善をはじめとした3つのメリットが期待できます。

1.抜本的改革により大きな効果が期待できる

BPRの主な目的は、コスト削減や生産性向上、商品・サービスの競争力強化などです。同様の目的を掲げて業務改善に取り組むことがありますが、企業全体から見るとわずかな効果にとどまることが少なくありません。

BPRは「根本的」な問題提起に始まり、「抜本的」に業務プロセスをデザインして再構築します。そのため、必要だと思われていた業務が不要になったり、不可能とされていた手順が実行可能になったりと、劇的な改善効果が期待できます。

2.人が育つ

BPRを行うためには、以下のようなさまざまな能力が必要です。

  • 組織全体の利益を合理的に追求する広い視野
  • 既存の枠組みを破壊する新しい発想力
  • 強力なリーダーシップ
  • 情報システムの導入を検討する論理的思考力
  • 基本的なビジネス能力

BPRに取り組むことによって当事者はこれらの能力を磨き、成功によってさらなる自信をつけることになります。当事者の中から未来の組織運営を担うエグゼクティブが生まれるかもしれません。

改革に携わった当事者だけでなく改革の影響を受けて配置転換になった人も、新たなスキルを獲得するチャンスとなるでしょう。

また、組織内の抜本的な業務再構築は組織風土を変える働きもあります。現状維持よりも発展を、自己の利益よりも組織の成果や顧客への貢献を求める社風を生み出す可能性があるでしょう。

3.従業員の結束力が高まる

BPRの実施は一人の力では難しく、プロセスに関わるさまざまな部門がチームを組んで行うのが一般的です。その中で議論を繰り返すことで、組織内の結束力は高まるでしょう。

実行段階では一つのプロジェクトに向かって全社が一丸となることで一体感が醸成され、従業員のモチベーションアップが期待できます。

BPRの手法3選

BPRによって業務プロセスを改革するための手法はさまざまです。具体例として次の3つを紹介します。

1.ERPシステム
2.BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
3.シェアードサービス

1.ERPシステム

ERPは、組織の資源を一元管理するためのシステムです。BPRでは、それまで上流工程と下流工程の関係にあったプロセスをほぼ同時進行することによって納期を短縮したり、リアルタイムでのデータ共有によって効率化を図ったりすることがあります。

BPRによって抜本的にシステムを見直すには、業務システムやデータベースなどのIT技術が不可欠と言ってよいでしょう。中でも資源管理を担うERPシステムは、プロセスをデザインするBPRに必要な要素を補ってくれます。施策の検討や分析、モニタリングなど幅広く活躍するでしょう。

2.BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)

BPOは既存業務を外部に委託することを指します。単なる「アウトソーシング」という言葉は業務の一部を委託する時に用いられるのに対し、プロセスをまるごと委託する考え方がBPOです。

BPRでは自社で行わなくてもよい「ノンコア業務」を外部委託することが選択肢の一つとなり、そのときに活用されるのがBPOです。

札幌市の自治体BPOの例では、先行事例を持つ他の自治体や民間企業と連携し、「行政事務センター」を設立して委託することが決まりました。これもBPOの一種です。

3.シェアードサービス

シェアードサービスは複数の会社が集まったグループ企業で用いられる施策です。各社から間接部門などの業務を集約し、専門の部署や子会社で取り扱う仕組みを指します。

例えば、株式会社Yホールディングスというグループ企業があるとします。傘下にはY販売とY製造、Y運輸などの子会社があります。この度、コスト削減と専門性の向上を目指し、各社の人事と経理を一手に担うYビジネスという会社を設立しました。これがシェアードサービスです。

一社の企業単位で見れば、業務を委託している点でBPOと似ています。ただし、グループ企業内で完結するため実質的に「外部」に委託しているわけではない、という点で異なる手法です。

シェアードサービスは、巨大企業グループにおいてBPRの一環として行われることがあります。

BPRの進め方5ステップ

BPRを進めていく手順は、次の5ステップで考えるとよいでしょう。

ここでは、5ステップの詳細について解説します。

STEP1.検討

最初にやるべきことは、BPRの目的と目標の明確化、対象となる業務範囲の設定です。

「事業環境の変化に対応するため」「顧客により良いサービスを提供するため」など、改革には何らかの目的があるはずです。その目的を明確化し、売上やコストなど測定可能な目標に落とし込みましょう。

対象となる業務範囲は全社の全業務であることが一般的ですが、事業内容が多岐にわたる企業や法律の縛りがある行政では難しい場合もあります。検討する際は部門や作業を単位とせず、全社横断的な業務プロセスで考えることが重要で、業務プロセスはシンプルに5、6個ほどに概念化します。

『リエンジニアリング革命』によると、「どのような企業でも、主なプロセスが10過程を超えることはない」とされています。

STEP2.分析

既存のプロセスを調査・分析し、どこを再構築するか検討します。次のような点に着目して考えると良いでしょう。

  • 機能障害(生産工程におけるボトルネック、複雑になりすぎて高コスト化した作業など)
  • 顧客にとっての重要度(付加価値をもたらしているか、など)
  • 実行可能性(費用対効果が見られるか、など)

課題の分析にはプロセスマッピングやベンチマーキング、BSC(バランスト・スコア・カード)などのツールを活用することもあります。

STEP3.設計

新しい業務プロセスを設計するというBPRの中で最も創造的な段階です。以下のような点について、アウトソーシングや組織再編などの実行可能性も踏まえて設計します。

  • 既存のプロセスにおける課題を除去する方法は何か
  • 顧客にとっての価値は何なのか
  • どのような前提が邪魔しているのか

ゼロベース思考によって、作業中心ではなく結果重視で考えることが大切です。

STEP4.実施

設計したプロセスを実行します。具体的には以下のようなものがあります。

  • 拠点の統廃合に伴う部署の移転
  • 人事異動
  • 新たなプロセスを身につけるための研修
  • 新しい情報システムの導入

実施段階では、現場の人員から抵抗に遭うことも少なくありません。責任者は、「なぜ今改革が必要なのか」「改革によってもたらされるものは何か」について、社内文書などでビジョンを語れるとよいでしょう。

STEP5.モニタリング・評価

企業活動を推進させるためには、PDCAを繰り返すことが欠かせません。計画を立てて実行した後は、結果を測定して一定期間経過後に評価する必要があります。

評価には数値化した「定量的評価」と数値にならない「定性的評価」があります。

コスト削減や提供スピードの短縮、リピート率の向上などは、定量化して改革前と比較します。定性的評価には、社内コミュニケーションの向上やお客様の評価向上などが挙げられ、アンケート評価によっては定量化できるものもあります。

評価によって思うように結果が出ていない点があれば、まだ改善の余地があるのかもしれません。結果が出ていれば組織全体の士気は上がり、改革の中心となったメンバーは報われるでしょう。

BPRを導入する際の注意点

BPRは劇的な改革を目的としたものですが、それ故に注意すべき点があります。

システム導入にコストがかかる

改革の内容によっては全社的なシステムを導入しなければならず、数千万、数億円といった単位の固定資産を購入することがあります。そのため、場合によっては多額の資金調達も必要です。

システム導入にあたっては、費用に見合った効果が得られるかどうか、自社のBPRの目標を明確にした上で慎重に検討しなければなりません。

事例の2つ目で紹介したE社は3年間で投資額を回収することを目標にし、実際に達成しました。このように、早期の投下資金回収を図ることで緊張感が生まれ、より劇的な効果を出す施策を考え出せるかもしれません。

現場から反対意見が挙がる

BPRによる大規模な改革を断行するにあたって、現場の人員の中に異を唱える人も出てくるでしょう。ただ、意見がぶつかり合うことは必ずしも悪いことではありません。摩擦がないところからは、生産性のある議論は生まれないからです。

創造的な思考力を高めて価値あるBPRを実行するためには、伝統的な考えを持つインサイダーのほかに、自由な発想で新たなプロセスを考えられるアウトサイダーも必要です。適度に織り交ぜて改革チームを組織しましょう。

BPRをスムーズに実行するためには、代表取締役や執行役、本部長など上位クラスの権限を持つ責任者がリーダーシップを発揮することも重要です。

BPRとはわかりやすく言うと「全体最適の追求」

BPRは業務プロセスに着目し再構築する「全体最適を追求」した施策です。既存の作業工程や組織に縛られることなく結果を重視した考え方により、劇的な改善効果を生み出す可能性があります。「自社に競争力をつけたい」「蓄積してきた大きな課題を解決したい」という人は、導入を検討してはいかがでしょうか。