生産性向上の施策に取り組む上では、業務の無駄を省くだけでなく「限られたリソースで最大の成果を出す」という面にフォーカスすることが重要です。設備導入や従業員の育成などを実施することで、個人のパフォーマンスも向上させて企業全体の成長につなげられるでしょう。生産性向上の施策に取り組む企業が活用できる補助金制度や税額控除もあるため、詳細を確認して、少ない費用負担で生産性向上を図れるように準備することが重要です。
目次
生産性向上とは
「生産性向上」とは、自社が保有する資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的に活用し、最小限の投資によって最大の成果を生み出すことを指します。生産性を向上できれば、利益を生み出すだけでなく、後述のような「働き方改革の促進」「自社の競争力強化」など、多くのメリットを実感できるでしょう。
具体的な生産性は、以下の計算式を基本として算出できます。
労働生産性=得られた成果物(生産量や生産額)/投入した労働者時間や労働者数
上記の計算式は、例として以下のように使えます。
目的:
アパレルブランドを展開する自社店舗の生産性を比較したい
内容:
店舗Aの月間売り上げは「正社員4人で360万円」
店舗Bの月間売り上げは「正社員7人で420万円」
結果:
上記の計算式に当てはめると、店舗Aの生産性は「90万円/人」、店舗Bは「60万円/人」となるため、店舗Aの生産性が高いことがわかる
業務効率化との違い
生産性向上と似た言葉として「業務効率化」が挙げられますが、厳密な関係性は異なります。
「生産性向上」は業務を効率化して最大限の効果を生み出すことを目的としていますが、「業務効率化」は作業のムリ・ムダ・ムラを削減するという施策自体を指します。
つまり、「生産性向上に必要な施策の一つとして業務効率化に取り組む」というような関係性になるのです。
生産性向上が企業に与えるメリット4つ
生産性向上に成功することで、企業にとっては利益を生み出すだけでなく以下のようなメリットがあります。
1. 人材不足の中でも高い成果を出せる
2. 働き方改革を促進できる
3. 自社の競争力を強化できる
4. コスト削減につながる
1.人材不足の中でも高い成果を出せる
生産性向上に成功すると、人材不足の中でも高い成果を出せます。
少子高齢化の進行により、日本の労働力人口は減少し続けています。総務省の労働力調査(2021年平均)によると、労働力人口は前年比15万人減の5,931万人となり、2年連続で減少しました(*)。出生率の低下が進む日本では、人口の減少は今後さらに深刻になると考えられます。
*総務省統計局「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果」
労働力人口が減少している中で今以上の成果を出そうと考えると、従来通りの業務の進め方では対応できない場面が増えます。生産性を向上できれば限られた人材で効率よく業務を進められるようになり、高い成果を出すことが可能です。
2.働き方改革を促進できる
生産性の向上は従業員の労働時間削減にもつながるため、企業の働き方改革を促進できます。
生産性向上においては、限られた自社の資源で最大限の効果を発揮することが重要です。だからといって、従業員に過剰な業務を押し付けることは避けなければなりません。従業員の負担を減らしながら生産性を向上させるには、業務の無駄を省いて短時間で成果を出せる仕組みの整備が必要です。
働き方の改善は人材定着にもつながる
短時間で成果を出す仕組みが整って従業員の負担を軽減できれば、働き方が改善されて従業員満足度の向上にもつながります。従業員満足度が向上すれば定着率も改善できるため、人材不足の解消にもつながるでしょう。
日本では、長時間労働が世界的にも問題となっています。2007年以降、勤務問題の悩みによる自殺者数は増加し続けており、「仕事疲れ」を原因としている自殺者の割合は3割です(*)。2013年には、国連から長時間労働の是正勧告も出されています。
人材不足の現状と合わせ、従業員の働き方を是正して外部への流出を防ぐためにも、生産性向上に向けた施策は必須です。
*厚生労働省「3 自殺の状況」『令和2年版過労死等防止対策白書』
3.自社の競争力を強化できる
生産性の向上は、自社の競争力強化にもつなげられます。最新設備の導入や効率的な生産の仕組み作りなど、生産性向上に向けた施策はいくつもあります。このような施策を実施できれば自社の規模にかかわらずに最大限の成果を出せるため、同業他社に対する優位性を確保できるでしょう。
日本の多くの企業が競争力を強化できれば、国際的な市場で生き残る可能性も高められます。2020年時点における日本の時間あたりに対する労働生産性は、OECD加盟の38国中23位でした(*)。
具体的な他国との労働生産性の比較結果は以下の通りです。
1位:アイルランド(121.8ドル)
3位:ノルウェー(88.2ドル)
7位:アメリカ(80.5ドル)
12位:ドイツ(76.0ドル)
19位:スペイン(59.2ドル)
23位:日本(49.5ドル)
1970年以降で最も低い順位であり、現状のままでは日本の生産性は他国と比較してどんどん低下してしまいます。
*日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」
日本が国際的な市場でも勝つためには、各企業が生産性を向上させて最大限の利益を生み出すことが必要です。
4.コスト削減につながる
生産性向上によって、コスト削減も期待できます。
生産性を向上させるには、限られた自社資源の有効活用が不可欠です。資源を有効活用するには、例えば「定時内で仕事が終わる仕組みを作る」「最新の設備を活用する」などの施策が挙げられます。
施策の実施によって短時間で効率よく生産できるようになれば、人件費・光熱費・設備費など、さまざまなコストを削減して自社の負担を減らすことができます。
生産性を求める計算式
生産性を向上させることで企業には多くのメリットがもたらされます。
冒頭でも簡単にご紹介しましたが、企業がどれほどの生産性を生み出しているかは、計算式を使って算出できます。生産性の種類は、大きく「労働生産性」「資本生産性」「全要素生産性」に分類できます。ここでは、それぞれの計算式について解説します。
労働生産性
「労働生産性」とは、自社が投入した労働量(労働者数や労働時間)に対して生産された成果物の比率を指します。企業が生産性を算出する際に、メインで使われることが多い考え方です。
労働生産性の基本となる計算式は以下の通りです。
労働生産性=得られた成果物(生産量や生産額)/投入した労働者時間や労働者数
労働生産性の計算式は、さらに「物的労働生産性」「付加価値労働生産性」に分類できます。
物的労働生産性
「物的労働生産性」では、投入された労働量の結果として、物理的に計測可能な成果物(大きさ・量・重さなどで数値化できる)を生み出した際の生産性を計算できます。
物的労働生産性=得られた生産量や生産額/投入した労働者時間や労働者数
物的労働生産性では具体的な成果物の個数や量、重さなどを算出できるため、主に製造業で用いられます。
付加価値労働生産性
「付加価値労働生産性」では、労働者1人当たりが生み出した付加価値額を計算できます。
「物的労働生産性」では、目に見える成果物の個数や量を指標としていました。一方で「付加価値労働生産性」は、企業活動によって生じた価値(ブランディングや独自の技術など)を金銭換算した際に生み出された成果を把握できます。
付加価値労働生産性=付加価値額/投入した労働者時間や労働者数
付加価値額は、生産額から原材料費や外注費などを差し引いて算出するため、考え方としては粗利とほぼ同じです。付加価値労働生産性が高いほど、労働者1人当たり(あるいは労働1時間あたり)が生み出す企業の付加価値が高いといえます。
資本生産性
「資本生産性」では、自社の保有する有形固定資産(機械や設備、土地など)が、どれほど効果的に付加価値を生み出しているかを計算できます。
資本生産性=得られた生産量や生産額/有形固定資産
資本生産性が高ければ、自社が保有する固定資産を有効活用できていると判断できます。数値が低ければ、設備の入れ替えや利用頻度、稼働率の改善など必要に応じて施策の実施が必要です。
全要素生産性(TFP)
「全要素生産性(TFP)」では、労働力・資本・原材料・ブランド価値・設備など、自社が抱えるすべての生産要素に対して、どれほど生産性が向上したかを計算できます。
全要素生産性=得られた生産量や生産額/(資本投入量)α(労働投入量)1-α
αおよび1-αは、それぞれ「資本分配率(株主や内部留保等に還元されている割合)」「労働分配率(企業の利益が労働者に還元されている割合)」を表します。
全要素生産性を用いることで、自社の技術革新・ブランド価値・経営戦略など、数値化が難しい要素を軸として生産性を求めることができます。
*参議院調査室作成資料「TFP(全要素生産性)に関する一試論」
生産性向上に取り組むための具体的な5つのステップ
生産性向上へ取り組むには、以下5つのステップを踏むことが大切です。
1. 現在の業務を可視化する
2. 「コア業務」「ノンコア業務」に振り分ける
3. 従業員を適材適所へ振り分ける
4. 人材育成およびモチベーションアップにつなげる施策を実施する
5. アウトソーシングやITツールの導入を検討する
1.現在の業務を可視化する
まずは、自社が現状で抱えている業務を可視化します。
業務を可視化することで、「業務に発生している余計なプロセス」「特定の従業員に対する負担の偏り」「簡略化できる仕事の有無」などを適切に判断し、生産性向上を妨げるボトルネックを把握できます。
業務を可視化する際は、担当者だけでなく現場従業員の意見を重視することが大切です。実際に現場で稼働している従業員であれば、管理職の立場だけでは把握できないような視点で業務を整理できます。
業務を可視化するには、以下のような情報を活用しましょう。
- 自社で使っている業務手順書やマニュアル
- 原価管理表
- 従業員の労働時間管理表
- 従業員に割り当てた業務一覧
2.「コア業務」「ノンコア業務」に振り分ける
業務を可視化したら、次に「コア業務」「ノンコア業務」に振り分けます。
コア業務は会社に直接利益をもたらすため、本来であれば資金や人員を投入して注力すべき分野です。一方、ノンコア業務は収益への寄与が少なく生産性が低い業務のことです。
ノンコア業務にリソースを割きすぎているならば、アウトソーシングなどを活用してコア業務に注力できるよう業務割合を整理しましょう。
アウトソーシングを行うと最初はコストがかかりますが、生産性の高いコア業務に自社の人員を投入できるので将来的な利益向上が見込めます。
コア業務およびノンコア業務に該当するものとしては以下が挙げられます。
<コア業務>
- 新規事業の展開
- 新製品の開発
- 既存商品の研究・改善
<ノンコア業務>
- コールセンター業務
- 請求書や資料作成
- 労務管理
- データ入力
3.従業員を適材適所へ振り分ける
業務を振り分けたら、従業員の適正に応じて人材を再配置しましょう。
人には、それぞれ得意・不得意な分野があります。従業員の得意・不得意を考慮して適切な業務に振り分けることで、会社全体としても高いパフォーマンスを発揮し、生産性向上につなげられます。
ただし、生産性向上のためとはいえ、従業員の希望を無視した人材配置にならないよう注意しましょう。従業員個人のスキルや実績、資格などに加えて、希望するキャリアや職場の人間関係など、さまざまな側面を考慮した人材の振り分けが重要です。
4.人材育成およびモチベーションアップにつなげる施策を実施する
業務を振り分けた後は、人材育成およびモチベーションアップにつながる施策を実施しましょう。
従業員を適材適所に振り分けたとしても、既存の業務以上の実力を発揮してもらわなければ配置転換の意味がありません。生産性を向上させるには、従業員のスキルを高めて短時間で成果を出せる状態まで育成することが必要です。
人材育成の案としては以下のようなものが挙げられます。
- 人材研修
- OJT
- 従業員の資格取得支援
- 定期的な意見交換会
生産性向上には、スキルアップだけでなく従業員のモチベーションアップも欠かせません。どれだけ個人のスキルが高くても、担当業務へのモチベーションが低ければミスの発生や作業精度の低下などを引き起こします。
従業員のモチベーションを把握するための管理施策としては、以下が挙げられます。
- 定期的な1on1の面談
- インセンティブ制度
- メンタルケア制度
5.アウトソーシングやITツールの導入を検討する
従業員の手から離せるノンコア業務については、アウトソーシングやITツールを導入して負荷を減らすことで業務効率を向上させましょう。
アウトソーシングやITツールを導入する際にはコストが発生します。しかし、利益に直結するコア業務に従業員のリソースを割けるため、長期的な視点で考えると企業へもたらす売り上げは増大するでしょう。
アウトソーシングできる業務としては、以下のような「ノンコア業務」が該当します。
- コールセンター業務
- 請求書や資料作成
- 労務管理
- データ入力
ITツールには以下のようなものがあるので、自社の状況に合わせて選択しましょう。
- ビジネスチャットツールの導入
- クラウドサービスを導入した情報共有
- AIチャットボットによる問い合わせ対応
- CRM(顧客管理ツール)の導入
生産性向上に取り組む企業が活用すべき主な補助金制度等
生産性向上の施策に取り組む際は、設備導入やアウトソーシングなどに費用が発生します。しかし、以下のような補助金を利用すれば、自社の費用負担を軽減しながら生産性向上の施策に取り組むことができます。
1. ものづくり補助金
2. 持続化補助金
3. IT導入補助金
4. 事業継承・引継ぎ補助金
5. 業務改善補助金
6. 助成金の割り増し
ここでは、それぞれの補助内容について紹介します。なお、1〜4番に関しては「中小企業生産性革命推進事業」の公式サイトでまとめて確認できます。
1.ものづくり補助金
「ものづくり補助金」とは、新製品開発や生産性向上に必要な設備導入などにかかる費用の一部を補助する制度です。賃上げや地球環境に配慮した設備導入などに取り組む企業も支援しています。
対象経費 | 各補助金枠で指定された設備や生産性向上に必要なプロセス、システムの導入に必要な経費 |
枠の種類 | ・一般型(通常枠やデジタル枠など) ・グローバル展開型 ・ビジネスモデル構築型 |
助成限度額および補助率 | ・一般型 助成限度額:750万〜1,250万円など 補助率:2分の1など ・グローバル展開型 助成限度額:3,000万円 補助率:2分の1など ・ビジネスモデル構築型 助成限度額:1億円 補助率:2分の1など |
2.持続化補助金
「持続化補助金」とは、小規模事業者が商工会の支援を受けながら販路開拓などに取り組む場合、必要経費の一部を補助する制度です。
以下のように、生産性を向上させて売り上げアップを狙う企業のさまざまな取り組みを支援します。
- カフェが地元の飲食店とコラボメニューを開発
- 高性能設備を導入して地元の特産品を使ったメニューを追加
対象経費 | チラシ作成、広告掲載、店舗改装など、販路開拓に必要であると判断可能な経費 |
枠の種類 | ・通常枠 ・特別枠(賃金引上げ枠やインボイス枠など) |
助成限度額および補助率 | ・通常枠 助成限度額:50万円 補助率:3分の2 ・特別枠(賃金引上げ枠やインボイス枠など) 助成限度額:200万円など 補助率:3分の2など |
3.IT導入補助金
「IT導入補助金」とは、企業が生産性向上を目的としてバックオフィスへのITツール導入やDX推進の際に利用できる制度です。インボイス制度の開始を見据えて、会計・決済ソフトなどを導入する企業にも適用されます。
セキュリティサービスの利用料も補助対象となっているため、DX推進やITツール導入を安全に実践したい企業は活用しましょう。
対象経費 | 生産性向上に必要なソフトウェアやクラウドサービス、およびセキュリティサービスの利用時に発生する費用 |
枠の種類 | ・通常枠 ・デジタル化基盤導入枠 ・セキュリティ対策推進枠 |
助成限度額および補助率 | ・通常枠 助成限度額:30万〜150万円未満など 補助率:2分の1以内 ・デジタル化基盤導入枠 助成限度額:5万〜50万円以下など 補助率:4分の3以内など ・セキュリティ対策推進枠 助成限度額:5万〜100万円 補助率:2分の1以内 |
4.事業継承・引継ぎ補助金
「事業継承・引継ぎ補助金」とは、事業継承やM&Aの後に行う設備投資や販路開拓、専門家(ファイナンシャルアドバイザーなど)を活用する際に発生する経費を補助する制度です。企業の事業継承やM&Aがスムーズに進められるように支援してくれます。
対象経費 | 事業継承やM&Aに関連する設備投資や販路開拓、専門家との契約、在庫処分などに対して発生する経費 |
枠の種類 | ・経営革新事業 ・専門家活用事業 ・廃業・再チャレンジ事業 |
助成限度額および補助率 | ・経営革新事業 助成限度額:最大600万円 補助率:2分の1〜3分の2 ・専門家活用事業 助成限度額:600万円 補助率:3分の2 ・廃業・再チャレンジ事業 助成限度額:150万円 補助率:3分の2 |
5.業務改善補助金
「業務改善補助金」とは、生産性向上に向けた設備導入や人材研修などを実施した上で、事業所内の最低賃金を一定額以上引き上げた企業に対して支給される補助金のことです。
対象経費 | 生産性向上に必要な設備の導入や人材研修、教育訓練などに対して発生した費用(事業内の最低賃金を引き上げることも条件となる) |
枠の種類 | ・30円コース(30円以上の最低賃金引き上げ) ・45円コース(45円以上の最低賃金引き上げ) ・60円コース(60円以上の最低賃金引き上げ) ・90円コース(90円以上の最低賃金引き上げ) |
助成限度額 | ・30円コース 最低30万円 ・45円コース 最低45万円 ・60円コース 最低60万円 ・90円コース 最低90万円 |
6.助成金の割り増し
生産性向上の取り組みを続ける企業が助成金を活用する場合、一定の条件を満たすことで助成額あるいは補助率の割り増しなどを受けられます。
厚生労働省が規定する「生産性要件算定シート」を使って計算した生産性の数値が一定以上伸びている場合、助成額などの割り増しが行われます。
参考:厚生労働省「労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます」
生産性の改善に成功した企業事例
さまざまな施策の実施やツールの導入、補助金制度の活用などによって、生産性向上に成功した企業はいくつかあります。
ここでは3つの業界について、代表的な生産性向上の改善事例を紹介します。各社事例をチェックして、自社に生かせるケースがあるか確認しておきましょう。
・製造業:ローションティッシュ製造業者
・介護:株式会社3eee
・建設業:岩田地崎建設株式会社
製造業:ローションティッシュ製造業者
高知県にあるローションティッシュ製造業者(以下A社)では、従来稼働していたティッシュの生産ラインが限界を迎えており、需要量に対応できる供給体制を確保できずにいました。
A社は供給体制を整えるために、業務改善助成金を活用して従来の製造機をローションティッシュ専用加工機として改良し、2台体制に変更しました。加工機が増えたことで生産性向上に成功し、供給体制が整備されことで大手チェーンとの契約も獲得できました。
生産性の向上によって従業員の賃金増加(時給60円アップ)も達成しており、補助金を活用して高い成果を生み出した事例といえるでしょう。
参考:宮城労働局「業務改善助成金を活用して生産性を向上させた好事例 平成30年版企業事例」『生産性向上の好事例』
介護:株式会社3eee
株式会社3eeeでは、介護現場における入力書類の多さに悩まされていました。具体的には、業務日誌、介護記録、患者のバイタルデータなどです。日中は利用者対応があるため、書類への記入は終業後にやらざるを得ない状況であり、記載ミスも発生していました。
事務作業負担を軽減するため、同社はクラウド型サービスとビジネスチャットツールを導入しました。クラウド型サービスの導入によって社外からも日誌や介護記録を記入できるようになり、ビジネスチャットツールの導入によってスムーズな情報共有を実現しました。
これらの施策によって、平均年間226時間の業務時間削減(1事業所あたり)、および残業代約35万円の削減に成功しています。
参考:札幌商工会議所「生産性向上のためのIT活用事例集」
建設業:岩田地崎建設株式会社
岩田地崎建設株式会社では従来、現場ごとに予算書をエクセルで作成し、本店に提出していました。しかし、原価については現場と本支店の経理では別項目(現場は工種別、本支店は原材料や労務費など要素別)として管理されていたため、集計時に大きな手間が発生していました。
管理の手間を改善するために、同社は統合管理システムを導入しました。管理システムでは本支店と各現場を直接つなぐことが可能で、お互いに各種情報を一元管理できるようになりました。
一元管理の実現により、計画修正、管理項目の不整合の解消、原価情報の共有などを迅速に対応できるようになり、生産性の向上に大きく寄与しています。
参考:札幌商工会議所「生産性向上のためのIT活用事例集」
中小企業経営強化税制に伴う優遇措置も活用できる
中小企業が生産性向上の施策に取り組んだ場合、助成金制度以外に「中小企業経営強化税制」も活用できます。中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画をもとに設備投資などを実施した企業であれば、以下のいずれかの税制優遇措置を適用できます。
- 最大10%の税額控除
- 即時償却(購入額の100%を経費計上できる)
他にも、資金調達に関する金融支援や事業譲渡時の免責に関する特例措置などの法的支援も受けられます。
参考:中小企業庁「経営強化法による支援」
生産性を向上させる有効的なアイデア6つ
生産性を向上させるには、さまざまな施策を実施することが重要です。有効的な生産性向上のアイデアとしては以下が挙げられます。
1. 具体的な数値的指標を用いて管理する
2. ワークフローを見直して業務の無駄を省く
3. 従業員が働きやすい環境を整備する
4. 適切な人材配置を心がける
5. ITツールを導入する
6. アウトソーシングを活用する
1.具体的な数値的指標を用いて管理する
生産性を向上させるためには、具体的な数値目標を用いた進捗管理が重要です。
生産性の向上は会社単位で取り組むべき大きなテーマです。漠然と「生産性を向上させよう」という目標を掲げても、具体的なアクションプランがなければ行動できません。従業員が生産性向上に必要な行動に迷わず取り組み、なおかつ進捗度合いを明確に共有するためにも、数値目標を設定しましょう。
設定する数値目標は労働生産性の計算式をもとに算出するか、あるいは「残業時間を◯時間削減する」といった数値目標を掲げ、削減のために個人や会社として取り組める内容を洗い出すことも効果的でしょう。
2.ワークフローを見直して業務の無駄を省く
ワークフローとは、企業業務の一連の流れを指します。例えば経費申請にかかるワークフローでは、「上司→経理部の担当者→経理部の長」という順番で承認されるのが一般的です。
ワークフローでは、申請から決裁までの間に複数人による承認や事務作業が絡むため、手間が増えて生産性の低下を招くケースがあります。
例えば経費申請を紙で運用している場合、以下の手間が発生するでしょう。
- 紙に印鑑を押す
- 申請書を担当者に渡す
- 申請の進捗を確認する
- 記入漏れがあった場合は差し戻す
ワークフローを見直してシステムの電子化などを活用することで、申請にかかっていた時間を削減して生産性向上につなげられます。自社のワークフローを見直し、不要な作業の排除や電子化を導入できる箇所がないかチェックしましょう。
3.従業員が働きやすい環境を整備する
生産性向上を達成するには、現場で働く従業員のモチベーションを高め、個人が高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが重要です。先ほどのワークフローの例でいえば、書類押印のために出社するのは非効率であり、従業員のモチベーション低下を招きます。
設備導入なども含め、以下のような施策を実施するなどして、従業員が働きやすい環境を整えましょう。
- Web会議の活用
- フリーアドレスの導入
- オフィスレイアウトの変更
- リモートワークの促進
- フレックスタイム制の導入
- ワークフローへの電子システムの導入
4.適切な人材配置を心がける
生産性の向上には、従業員を適材適所に配置することが重要です。従業員が高いパフォーマンスを発揮するには、個人の得意分野を考慮して適切な業務を割り振ることが欠かせません。
本人の意向や得意分野を無視して企業の都合で人材配置をしてもモチベーションは上がらず、従業員は実力を発揮できないでしょう。
例えば、営業成績トップの従業員を本人が希望しないのにもかかわらず管理職へ異動させるのは、本人のモチベーション低下を招きかねません。しかも、管理職では実力を十分に発揮できないかもしれません。
5.ITツールを導入する
ITツールを活用すれば、事務処理やコミュニケーションの手間を削減して生産性向上につなげられます。
ITツールには、ビジネスチャットツールや顧客管理システムなど、多くの情報を簡単に管理できるものがあります。ビジネスチャットツールは手軽にメッセージ送信やリアクションができ、顧客管理システムを活用すれば、客先データを一括管理して必要に応じた利用ができるでしょう。
日々の細かいコミュニケーションや管理にかかる手間を削減することで、企業全体で見ると大きな生産性向上につなげられるのです。
6.アウトソーシングを活用する
従業員の手から離せる以下のような業務は、アウトソーシングサービスを活用して外部委託しましょう。
- コールセンター業務
- 請求書や資料作成
- 労務管理
- データ入力
また、アウトソーシングによって、外部顧問として専門家を招くことも検討するといいでしょう。自社の経営陣のみでは従来の経験や知識に凝り固まった判断をしやすく、新たなノウハウを取り入れにくいため、今以上の成長が見込めない可能性があります。
アウトソーシングによって外部の経営陣を招くことで、新たな知識を取り入れて生産性を向上し、経営状況を改善できるかもしれません。
生産性向上に向けた施策を実施する際の注意点4つ
ここまで解説したように、生産性向上に関する取り組みを実施することで、売り上げアップや従業員のモチベーションアップなど、企業に良い影響を与えます。
ただし、以下の点に留意しなければ従業員に負担を強いる結果となりかねないので注意しましょう。
1. 従業員個人の能力に頼りすぎない
2. 過度なマルチタスクを避ける
3. 現場の意見や現状を十分に把握する
4. 無駄を省くことだけに焦点を当てすぎない
1.従業員個人の能力に頼りすぎない
生産性は少ない人数で高い成果を出せれば確かに向上しますが、従業員個人に長時間労働を強いる結果となってはいけません。
従業員個人の負担を増やして大量の業務をこなせば、短期的には高い成果を生み出せます。しかし、長期的に見れば従業員の心身への負担が大きくなって生産性の向上が限界に達し、過労死といった重大災害のリスクもあります。
従業員の体を守りつつ生産性を向上させるには、ITツールやアウトソーシングなども活用し、企業全体で効率化を図る仕組みを整えることが重要です。
参考:厚生労働省「3 自殺の状況」『令和2年版過労死等防止対策白書』
2.過度なマルチタスクを避ける
従業員個人に過度なマルチタスクを背負わせることも避けましょう。
限られた人数で業務をこなすために、ある程度のマルチタスクは必要です。しかし、従業員の許容量を超えるタスクや不得意な業務などを割り振ると、モチベーションが上がらずにパフォーマンスが低下します。長時間労働と同じく、従業員の心身にも負担をかけるでしょう。
3.現場の意見や現状を十分に把握する
生産性の向上施策において、制度の改定や設備導入、ITツール導入などの是非を決定するのは、決裁権を持つ役員や経営者たちです。しかし、現場の実情を無視した施策であれば効果的に運用できません。
例えば、以下のようなすれ違いが発生するケースも考えられます。
- 経営層の狙い:最新設備を導入したので現場の稼働人数を大幅に削減する
- 現場の実情:設備は変わったが過度に人数を削減されたので業務が回らない
現場の意見や現状を十分に把握せずに上層部の理想を押し付けた施策になると、生産性は向上しません。施策を実施する際は、必ず現場の声に耳を傾けて実際に起きている課題を把握することが必須です。
4.無駄を省くことだけに焦点を当てすぎない
生産性向上を目指す上で、「業務の無駄を省くこと」は重要です。しかし、無駄を省くことはあくまでも手段であり、生産性向上の最終目標は「最小限の労力で最大の成果を出す」ことです。
例えば、コストカットのために「経費申請の範囲を狭める」「インセンティブを減らす」という施策を打ち出すとします。確かに経費は削減できますが従業員のモチベーションも低下させるため、個人が高いパフォーマンスを発揮できなくなり、最終的な生産性は低下するでしょう。
無駄を省くことは「高い成果を出すための一要因に過ぎない」という点は、必ず押さえておきましょう。
外部ツール・公的制度なども活用して生産性の向上を目指そう
生産性向上のためには、自社が保有する資源を活用し、最小限の投資で最大の成果を生み出す施策の実施が重要です。少ない労力で高い成果を得ることができれば、企業の利益が増大するだけでなく、従業員のモチベーションも上がって離職率の低下や競争力アップにもつながります。
生産性向上の施策としては、新規投資やITツールの導入、アウトソーシングの活用などが挙げられます。生産性向上に取り組む企業の負担を減らすための補助金制度もあるため、積極的に活用しましょう。